TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
刀鍛冶の里を出てから15日後。
ついに、俺のもとへ日輪刀が届いた。
いや、「ついに」というか……たった半月で刀が打てるって早すぎない!?
とか思ったが、そういえば現代でもそれくらいのペースで打てなくないんだったか。
「長は里を離れられないため、最終調整は拙者が行いやす」
刀を運んできた男がそう述べる。
例にもれず、彼もひょっとこの面をつけていた。
「まふゆ」
「はい」
縁壱に促され、シャランと刀を抜いた。
俺の体格に合わせ、脇差ほどに長さを抑えられた刀だった。
と、握っている柄のほうから刀の色が変わりはじめる。
それこそが色変わりの刀、と言われるゆえん……なのだが。
「えっ!?」
「むむっ、なんと!? まさか……」
「――”透明な刀”とは!」
刀身がまるで氷のように透けていた。
俺は見とれていた。
「すごい……なんて、きれいな刀」
「長が『自分で打つ』と言いだしたときはなにごとかと思いましたが、なるほど。こんな透き通った刀ははじめて見ました。振ってみてください。具合はいかがですか?」
言われて、何度か素振りを行う。
悪くない。いやむしろ……。
俺は「スゥゥゥ」と呼吸を整えた。
心と身体が冷えていき、そして……。
「氷の呼吸・壱ノ型――”
冷酷無比に相手の急所を突く、最速の一撃。
切っ先を追うように、肌を突き刺すような冷気がたなびいていた。
これは『氷の呼吸』の中でももっとも繊細な技だ。
だが、刀はまるで己が身体の一部かのように動き、寸分の狂いもなく狙った箇所を穿っていた。
「調整の必要はなさそうだね。見事な仕事だった、と里長に伝えてくれるかい?」
「はっ」
縁壱がそう刀を運んできた鍛冶師に告げた。
こうして、俺ははじめて己の刀というものを手に入れたのだった――。
* * *
――それから俺は、3年もの月日を縁壱と過ごした。
俺には彼が不死身に思えた。
だって長年、一緒に旅をした間で……彼は一度も風邪すら引かなかったから。
彼、曰く……。
「――見えればわかる、わかるなら対処すればいい」
とのことだが、わけがわからん。
参考にならない、ということだけはわかった。
それに、彼の剣も一切の衰えを見せなかった。
あるいは、衰えているが……それでもはるか高みすぎて、俺には天井が見えないだけかも。
「にしても、まふゆ……君は変わらないね」
「え?」
借りた空き小屋の中、食事のあと片づけをしていたときだった。
それは縁壱もだろ、と思ったが……まぁ、たしかに。
俺の外見は3年前からほとんど変わっていなかった。
正確には『全集中・常中』をはじめてから。
「変わらないことはよいことです。すくなくとも、わたしにとっては」
俺はそう返す。
身体の成長が止まってしまったのは『氷の呼吸』の副作用だった。
『氷の呼吸』を行うと体温が下がる。
そのため『常中』していると身体がつねに低温状態となってしまう。
結果、成長のための
彼が俺の頭をぽんぽん、とやさしく撫でた。
「わっぷ!? お、お師匠さま!?」
「本当に……小さいねぇ」
身長が伸びないこと、筋力がないこと。
それは鬼との戦いにおいて……致命的だ。
腕が長ければ、刃はそれだけ遠くまで届く。
筋力があれば強くて硬い鬼の頸だって斬れる。
俺はその両方を失ってしまった。
「どうせ、わたしは小さいですよーだ。けど……」
こうなることは薄々だが、わかっていた。
縁壱にも一度だけ言われたことがある。
「――今、やめればまだ引き返せる。君は平穏な生活を選ぶこともできるよ」
……と。
そのうえで、俺は『常中』を続ける選択をした。
俺は戦い続けると決めていた。
そのうえで、戦うなら『常中』を続けるしかないとも思った。
なぜなら、俺は悟っていたから。
自分の身体が鬼との戦いに向いていないことを。
運の悪いことに、俺の……わたしの両親も祖父母もみんな小柄だったから。
おそらく、成長しても鬼と戦うに足る肉体を得られない。
であればいっそ、このまま成長しないほうが……。
相手の油断を誘える幼い外見のほうが、強力な鬼を狩るためには都合がいいと思った。
「これは、わたしが自分で決めたことですから」
「……そうかい」
頭をなでていた縁壱の手が離れていく。
なぜかその姿が、故郷の村の老婆と重なって見えた。鬼に殺された彼女の姿と……。
「お師匠さま?」
「まふゆ」
「は、はい」
「君はもう一人前の剣士だ。これからはひとりで生きていきなさい」
「……え?」
なぜ急にそんなことを言われるのか、わからない。
ずっと、ずっと一緒だったのに。
「い、イヤです、お師匠さま! わたし、ずっとお師匠さまと一緒がいいです! もっともっと、剣術も呼吸も教えてほしいことがたくさんあるんです!」
「……」
縁壱はゆっくりと首を横に振った。
俺は理解してしまう。それはもう決まったことなのだ、と。
「――明日が最後の稽古だ」
縁壱はそう、俺へと告げた――。