TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第10話『透明な日輪刀』

 

 刀鍛冶の里を出てから15日後。

 ついに、俺のもとへ日輪刀が届いた。

 

 いや、「ついに」というか……たった半月で刀が打てるって早すぎない!?

 とか思ったが、そういえば現代でもそれくらいのペースで打てなくないんだったか。

 

「長は里を離れられないため、最終調整は拙者が行いやす」

 

 刀を運んできた男がそう述べる。

 例にもれず、彼もひょっとこの面をつけていた。

 

「まふゆ」

 

「はい」

 

 縁壱に促され、シャランと刀を抜いた。

 俺の体格に合わせ、脇差ほどに長さを抑えられた刀だった。

 

 と、握っている柄のほうから刀の色が変わりはじめる。

 それこそが色変わりの刀、と言われるゆえん……なのだが。

 

「えっ!?」

 

「むむっ、なんと!? まさか……」

 

 

「――”透明な刀”とは!」

 

 

 刀身がまるで氷のように透けていた。

 俺は見とれていた。

 

「すごい……なんて、きれいな刀」

 

「長が『自分で打つ』と言いだしたときはなにごとかと思いましたが、なるほど。こんな透き通った刀ははじめて見ました。振ってみてください。具合はいかがですか?」

 

 言われて、何度か素振りを行う。

 悪くない。いやむしろ……。

 

 俺は「スゥゥゥ」と呼吸を整えた。

 心と身体が冷えていき、そして……。

 

 

「氷の呼吸・壱ノ型――”雪火(せっか)”!」

 

 

 冷酷無比に相手の急所を突く、最速の一撃。

 切っ先を追うように、肌を突き刺すような冷気がたなびいていた。

 

 これは『氷の呼吸』の中でももっとも繊細な技だ。

 だが、刀はまるで己が身体の一部かのように動き、寸分の狂いもなく狙った箇所を穿っていた。

 

「調整の必要はなさそうだね。見事な仕事だった、と里長に伝えてくれるかい?」

 

「はっ」

 

 縁壱がそう刀を運んできた鍛冶師に告げた。

 こうして、俺ははじめて己の刀というものを手に入れたのだった――。

 

   *  *  *

 

 ――それから俺は、3年もの月日を縁壱と過ごした。

 

 俺には彼が不死身に思えた。

 だって長年、一緒に旅をした間で……彼は一度も風邪すら引かなかったから。

 

 彼、曰く……。

 

「――見えればわかる、わかるなら対処すればいい」

 

 とのことだが、わけがわからん。

 参考にならない、ということだけはわかった。

 

 それに、彼の剣も一切の衰えを見せなかった。

 あるいは、衰えているが……それでもはるか高みすぎて、俺には天井が見えないだけかも。

 

「にしても、まふゆ……君は変わらないね」

 

「え?」

 

 借りた空き小屋の中、食事のあと片づけをしていたときだった。

 それは縁壱もだろ、と思ったが……まぁ、たしかに。

 

 俺の外見は3年前からほとんど変わっていなかった。

 正確には『全集中・常中』をはじめてから。

 

「変わらないことはよいことです。すくなくとも、わたしにとっては」

 

 俺はそう返す。

 身体の成長が止まってしまったのは『氷の呼吸』の副作用だった。

 

 『氷の呼吸』を行うと体温が下がる。

 そのため『常中』していると身体がつねに低温状態となってしまう。

 

 結果、成長のための体温(ねつ)が足りず、身長が伸び悩んでしまった。

 彼が俺の頭をぽんぽん、とやさしく撫でた。

 

「わっぷ!? お、お師匠さま!?」

 

「本当に……小さいねぇ」

 

 身長が伸びないこと、筋力がないこと。

 それは鬼との戦いにおいて……致命的だ。

 

 腕が長ければ、刃はそれだけ遠くまで届く。

 筋力があれば強くて硬い鬼の頸だって斬れる。

 

 俺はその両方を失ってしまった。

 それでいい(・・・・・)と思った。

 

「どうせ、わたしは小さいですよーだ。けど……」

 

 こうなることは薄々だが、わかっていた。

 縁壱にも一度だけ言われたことがある。

 

 

「――今、やめればまだ引き返せる。君は平穏な生活を選ぶこともできるよ」

 

 

 ……と。

 そのうえで、俺は『常中』を続ける選択をした。

 

 俺は戦い続けると決めていた。

 そのうえで、戦うなら『常中』を続けるしかないとも思った。

 

 なぜなら、俺は悟っていたから。

 自分の身体が鬼との戦いに向いていないことを。

 

 運の悪いことに、俺の……わたしの両親も祖父母もみんな小柄だったから。

 おそらく、成長しても鬼と戦うに足る肉体を得られない。

 

 であればいっそ、このまま成長しないほうが……。

 相手の油断を誘える幼い外見のほうが、強力な鬼を狩るためには都合がいいと思った。

 

「これは、わたしが自分で決めたことですから」

 

「……そうかい」

 

 頭をなでていた縁壱の手が離れていく。

 なぜかその姿が、故郷の村の老婆と重なって見えた。鬼に殺された彼女の姿と……。

 

「お師匠さま?」

 

「まふゆ」

 

「は、はい」

 

「君はもう一人前の剣士だ。これからはひとりで生きていきなさい」

 

「……え?」

 

 なぜ急にそんなことを言われるのか、わからない。

 ずっと、ずっと一緒だったのに。

 

「い、イヤです、お師匠さま! わたし、ずっとお師匠さまと一緒がいいです! もっともっと、剣術も呼吸も教えてほしいことがたくさんあるんです!」

 

「……」

 

 縁壱はゆっくりと首を横に振った。

 俺は理解してしまう。それはもう決まったことなのだ、と。

 

 

「――明日が最後の稽古だ」

 

 

 縁壱はそう、俺へと告げた――。

 

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