TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第104話『借りものの才能』

 

「わぁあああ!? 死んでしまう! 腕6本はきつい!」

 

「炭治郎さん遅い! 人形が持ってるのが素振り棒じゃなきゃ死んでますよ!」

 

 炭治郎が縁壱零式にボコボコにされていた。

 というか小鉄少年よ……木の棒で殴られても人間は十分に死ねるよ?

 

「ヒィっ、ヒィっ……ま、まふゆ……ちょ、助けてっ……」

 

「……がんばって」

 

「そ、そんなぁーっ!?」

 

 俺は助けを求める炭治郎からそっと目を逸らした。

 これは必要なことなんだ。

 

 極限まで追い込まれた状態でこそ、人はもっとも成長するものだから。

 そして、6本腕――完全な状態の縁壱零式を相手に炭治郎が戦えたなら、それはより大きな収穫となることだろう。

 

「炭治郎さん、全然ダメです! 今日はメシ抜きです!」

 

「ひぃいいいっ!?」

 

 炭治郎の悲鳴が、森の中にこだました――。

 

   *  *  *

 

 炭治郎の訓練はいつしか、縁壱零式に真剣を持たせたものに変わっていた。

 小鉄の罰で飲まず食わず、雨で飢えをしのぐ日々が何日も続き――。

 

 ――パガッ!

 

 炭治郎が転びながら振るった剣がついに縁壱零式に届いていた。

 小鉄がそれを見て「よし」とうなずく。

 

「食べもの! あげましょう!」

 

「おにぎりと梅干! お茶は高級玉露で!」

 

 そんなわけで見事、炭治郎は『動作予知能力』を手に入れていた。

 これまで彼は匂いから『隙の糸』を感じとり、相手を攻撃することができていた。

 

 そこに今度は匂いから、相手()攻撃してくる場所も感じ取れるようになったのだ。

 そんな彼が食事をしながら言ってくる。

 

「そうだ! せっかくだから、まふゆも特訓してみなよ!」

 

「……じゃあ、そうしようかな。いいですか、小鉄くん。あと刀も」

 

「え、構いませんが」

 

 小鉄の許可を得て、彼が炭治郎に貸し出していた刀を借りる。

 刀を抜いて振ってみると……。

 

 やっぱりちょっと重いな。

 だが、仕方ないか。

 

「じゃあ今、人形を素振り棒に持ち替えさせるのでちょっと待ってくださいね」

 

 そう言って、小鉄が縁壱零式をイジリはじめる。

 俺はそんな彼の背に声をかける。

 

「そのままでいいよ」

 

「えぇっ!? で、でも真剣なんですよ!? 危ないですよ!?」

 

「小鉄くん、なんか俺のときと態度がちがわない……?」

 

「でも、まふゆさんはこんなに小さな女の子ですし」

 

「まふゆは俺よりもずっと強いよ」

 

「あっはっは! 炭治郎さんも冗談がうまいですね!」

 

「……」

 

「え? 本当に?」

 

 無言になった炭治郎を見て、小鉄は困惑した様子で振り返ってくる。

 俺は「うーん」と言葉選びに迷い、こう答えることにした。

 

「すぐ炭治郎さんのほうが強くなりますよ」

 

「……!? わ、わかりました」

 

 そうして、俺は縁壱零式と構えて向き合った。

 夢には見たけれど、現実で立ち会うのは400年振りか。

 

 ――ブォン! ブォン!

 

 と縁壱零式が6本の腕を使って、刀を次々と振るってくる。

 俺はそれを……。

 

 

「氷の呼吸・陸ノ型――”六華(りっか)の舞い”」

 

 

 まるで風に煽られる雪がごとく、ふわりふわりといなし、躱していく。

 縁壱零式の攻撃が俺に届くことはない。

 

「す、すごいっ!? 炭治郎さんはあんなに苦労していたのに!」

 

「うっ!? でも……うん。本当にまふゆはすごい。俺よりも小柄で、年下の子なのに。負けてられないぞ。俺ももっと強くならないと」

 

 小柄なのは認めるが年下ではない。

 それに俺のほうが強いのは今だけだ。さっきの俺の言葉は本心だから。

 

 これから炭治郎は俺なんて一気に追い抜いていくだろう。

 いや、そうでなければ困る。

 

「スゥゥゥ、スゥゥゥ……」

 

 さすがに6本腕だけあって隙が少ない。

 だが――当然というべきか、隙そのものが存在しない縁壱本人と比べれば圧倒的に弱い。

 

 というか戦ってみてわかったが、この人形は彼の”強さ”を再現しようとしたものではないな。

 製作者がこの人形で再現しようとしたのはあくまで”動き”。もっと言えば……。

 

 ――彼の”指導力”。

 

 縁壱にはだれが相手でも完璧に剣を教えられる能力があったから。

 まぁ、彼の強さを再現なんてそもそも不可能だろうしな。

 

 あるいは、これは再現しようとしてできなかった失敗作なのかもしれない。

 複数体あったというのも、彼を再現するためにいろんな方向からアプローチしていただけかも。

 

「……ふッ!」

 

 しばし、縁壱との思い出(・・・)を楽しんだあと、俺はその小さな体躯を利用して縁壱零式の懐へとするりと潜り込んだ。

 そして、掬い上げるみたいにして刀を振り上げ……。

 

「うん、こんなもんかな」

 

 直前で刀の勢いを殺し、縁壱零式の首にコツンっと軽くだけ刃を当てた。

 ふぅ、いい汗かいた。

 

 残身をしながら距離を取り、スゥっと刀を鞘へと納めた。

 戦いぶりを見ていた分析力に定評のある小鉄は、戦慄したように言う。

 

「まふゆさん、正直に言います。おれにはまふゆさんの直すべきところが見つけられませんでした。だから、縁壱零壱をまふゆさんに合わせて調整することもできません」

 

「小鉄くん、まふゆはそこまでスゴいんだね!」

 

「スゴいなんてものじゃありません! 完成されていると言っていい! たしかに、まふゆさんの小さな体格や力の弱さは明確な弱点ですが……」

 

 俺へと視線を向けながら、小鉄は言う。

 

「彼女の剣技はその体格に合わせて完璧に調整されています。正直、おそろしいです……いったいどうすれば、ここまで仕上げられるのか。ハッキリ言って人間技じゃない」

 

 まぁ実際、人間がやったんじゃないからな。

 『剣の怪物』の所業だ。

 

「彼女の剣技は完成されていて隙がありません。仮にあったとしても、これ以上埋めることは不可能だと思います」

 

 当然だろう。

 そういう風に縁壱は俺を仕込んだ。そういう剣技を教えた。

 

 だから多分、逆に……もし身体が成長してしまったら、途端に俺は弱くなると思う。

 縁壱という天才がかけた魔法が解けてしまうから。

 

 これは天才から与えられただけの借りものの剣技――その殻が割れれば、中身はただの凡人。

 そして、新たに生まれた雛に剣を教えてくれる彼はもうどこにもいない。

 

「しいて言うなら、まふゆさんは剣を振ったあとの隙が大きかったですが……」

 

 小鉄は俺の手元に視線を向けていた。

 見下ろせば、そこに握られているのは借りものの刀。

 

「うん。今のわたしじゃ、これ以上やっても意味がなさそうだね」

 

「そうですね」

 

 まずは先に、自分に合う刀――もっと短い刀を手に入れないと。

 

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