TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「わぁあああ!? 死んでしまう! 腕6本はきつい!」
「炭治郎さん遅い! 人形が持ってるのが素振り棒じゃなきゃ死んでますよ!」
炭治郎が縁壱零式にボコボコにされていた。
というか小鉄少年よ……木の棒で殴られても人間は十分に死ねるよ?
「ヒィっ、ヒィっ……ま、まふゆ……ちょ、助けてっ……」
「……がんばって」
「そ、そんなぁーっ!?」
俺は助けを求める炭治郎からそっと目を逸らした。
これは必要なことなんだ。
極限まで追い込まれた状態でこそ、人はもっとも成長するものだから。
そして、6本腕――完全な状態の縁壱零式を相手に炭治郎が戦えたなら、それはより大きな収穫となることだろう。
「炭治郎さん、全然ダメです! 今日はメシ抜きです!」
「ひぃいいいっ!?」
炭治郎の悲鳴が、森の中にこだました――。
* * *
炭治郎の訓練はいつしか、縁壱零式に真剣を持たせたものに変わっていた。
小鉄の罰で飲まず食わず、雨で飢えをしのぐ日々が何日も続き――。
――パガッ!
炭治郎が転びながら振るった剣がついに縁壱零式に届いていた。
小鉄がそれを見て「よし」とうなずく。
「食べもの! あげましょう!」
「おにぎりと梅干! お茶は高級玉露で!」
そんなわけで見事、炭治郎は『動作予知能力』を手に入れていた。
これまで彼は匂いから『隙の糸』を感じとり、相手を攻撃することができていた。
そこに今度は匂いから、相手
そんな彼が食事をしながら言ってくる。
「そうだ! せっかくだから、まふゆも特訓してみなよ!」
「……じゃあ、そうしようかな。いいですか、小鉄くん。あと刀も」
「え、構いませんが」
小鉄の許可を得て、彼が炭治郎に貸し出していた刀を借りる。
刀を抜いて振ってみると……。
やっぱりちょっと重いな。
だが、仕方ないか。
「じゃあ今、人形を素振り棒に持ち替えさせるのでちょっと待ってくださいね」
そう言って、小鉄が縁壱零式をイジリはじめる。
俺はそんな彼の背に声をかける。
「そのままでいいよ」
「えぇっ!? で、でも真剣なんですよ!? 危ないですよ!?」
「小鉄くん、なんか俺のときと態度がちがわない……?」
「でも、まふゆさんはこんなに小さな女の子ですし」
「まふゆは俺よりもずっと強いよ」
「あっはっは! 炭治郎さんも冗談がうまいですね!」
「……」
「え? 本当に?」
無言になった炭治郎を見て、小鉄は困惑した様子で振り返ってくる。
俺は「うーん」と言葉選びに迷い、こう答えることにした。
「すぐ炭治郎さんのほうが強くなりますよ」
「……!? わ、わかりました」
そうして、俺は縁壱零式と構えて向き合った。
夢には見たけれど、現実で立ち会うのは400年振りか。
――ブォン! ブォン!
と縁壱零式が6本の腕を使って、刀を次々と振るってくる。
俺はそれを……。
「氷の呼吸・陸ノ型――”
まるで風に煽られる雪がごとく、ふわりふわりといなし、躱していく。
縁壱零式の攻撃が俺に届くことはない。
「す、すごいっ!? 炭治郎さんはあんなに苦労していたのに!」
「うっ!? でも……うん。本当にまふゆはすごい。俺よりも小柄で、年下の子なのに。負けてられないぞ。俺ももっと強くならないと」
小柄なのは認めるが年下ではない。
それに俺のほうが強いのは今だけだ。さっきの俺の言葉は本心だから。
これから炭治郎は俺なんて一気に追い抜いていくだろう。
いや、そうでなければ困る。
「スゥゥゥ、スゥゥゥ……」
さすがに6本腕だけあって隙が少ない。
だが――当然というべきか、隙そのものが存在しない縁壱本人と比べれば圧倒的に弱い。
というか戦ってみてわかったが、この人形は彼の”強さ”を再現しようとしたものではないな。
製作者がこの人形で再現しようとしたのはあくまで”動き”。もっと言えば……。
――彼の”指導力”。
縁壱にはだれが相手でも完璧に剣を教えられる能力があったから。
まぁ、彼の強さを再現なんてそもそも不可能だろうしな。
あるいは、これは再現しようとしてできなかった失敗作なのかもしれない。
複数体あったというのも、彼を再現するためにいろんな方向からアプローチしていただけかも。
「……ふッ!」
しばし、縁壱との
そして、掬い上げるみたいにして刀を振り上げ……。
「うん、こんなもんかな」
直前で刀の勢いを殺し、縁壱零式の首にコツンっと軽くだけ刃を当てた。
ふぅ、いい汗かいた。
残身をしながら距離を取り、スゥっと刀を鞘へと納めた。
戦いぶりを見ていた分析力に定評のある小鉄は、戦慄したように言う。
「まふゆさん、正直に言います。おれにはまふゆさんの直すべきところが見つけられませんでした。だから、縁壱零壱をまふゆさんに合わせて調整することもできません」
「小鉄くん、まふゆはそこまでスゴいんだね!」
「スゴいなんてものじゃありません! 完成されていると言っていい! たしかに、まふゆさんの小さな体格や力の弱さは明確な弱点ですが……」
俺へと視線を向けながら、小鉄は言う。
「彼女の剣技はその体格に合わせて完璧に調整されています。正直、おそろしいです……いったいどうすれば、ここまで仕上げられるのか。ハッキリ言って人間技じゃない」
まぁ実際、人間がやったんじゃないからな。
『剣の怪物』の所業だ。
「彼女の剣技は完成されていて隙がありません。仮にあったとしても、これ以上埋めることは不可能だと思います」
当然だろう。
そういう風に縁壱は俺を仕込んだ。そういう剣技を教えた。
だから多分、逆に……もし身体が成長してしまったら、途端に俺は弱くなると思う。
縁壱という天才がかけた魔法が解けてしまうから。
これは天才から与えられただけの借りものの剣技――その殻が割れれば、中身はただの凡人。
そして、新たに生まれた雛に剣を教えてくれる彼はもうどこにもいない。
「しいて言うなら、まふゆさんは剣を振ったあとの隙が大きかったですが……」
小鉄は俺の手元に視線を向けていた。
見下ろせば、そこに握られているのは借りものの刀。
「うん。今のわたしじゃ、これ以上やっても意味がなさそうだね」
「そうですね」
まずは先に、自分に合う刀――もっと短い刀を手に入れないと。