TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第11話『最後の稽古』

 

 ――明日が最後の稽古だ。

 

 縁壱にそう告げられた夜、俺は泣きながら眠った。

 凍えそうなほどに寒かった。

 

 けれど、途中からなんだか心の奥のほうがぽかぽかと温かくなった。

 それはまるで、母に抱きしめられたときのように。

 

 寝ている俺に、わたしに……。

 彼がやさしく寄り添ってくれていたような、そんな気がした――。

 

   *  *  *

 

 そして、翌日。

 俺は縁壱と向き合って刀を構えていた。

 

 風がひどく冷たかった。

 まもなく冬が訪れようとしていた。

 

「お師匠さま」

 

「まふゆ」

 

 一瞬、風が凪いだ。

 それが試合開始の合図だった。

 

 次の瞬間――キィイイイン! と刀身がぶつかっていた。

 ギリギリとしのぎを削り合う。

 

「っ……!」

 

 やっぱり防がれたか!

 先に仕掛けたのは俺だった。

 

 

「氷の呼吸・肆ノ型――”霜走(しもばし)り”」

 

 

 霜が降りるかのごとく静かな踏み込みとともに放つ、横凪ぎだ。

 もっとも予備動作の小さい技だが、縁壱にはすべてお見通しだったらしい。

 

 しかし、すこし意外だった。

 いつもなら俺は、それこそ文字どおり彼に太刀打ち(・・・・)できないから。

 

 実力差がありすぎて、彼の刃に己の刀を触れさせることすらできない。

 刀を打ち合わせることも許してもらえないのに。

 

「いいのかい、このままで」

 

「うぐっ!?」

 

 縁壱が軽く力を込めてくる。

 しかし、俺にとってはまるで巨岩にでも押しつぶされそうなほどの圧力だ。

 

 この老体からなぜそれほどの力が発揮されるのか、不思議でならない。

 ただ、間違いないのは……力比べは俺が圧倒的に不利だということ。

 

 

「ぬぐぐぐっ! 氷の呼吸・陸ノ型――”六華(りっか)の舞い”」

 

 

 フッと力を抜いた。

 雪が風に揺られるがごとく、ふわりと敵の攻撃をいなす。

 

 スルリと刀身がすべり、縁壱の刃は脇へと逸れた。

 普通の相手ならこれでバランスを崩してくれる。

 

 だが、彼は最初からわかっていたみたいにスッと刀を引いていた。

 あっさりといなされてしまう。

 

「はぁっ、はぁっ……スゥゥゥ」

 

 たった数合打ち合っただけで俺の呼吸は乱れはじめていた。

 縁壱がつねに限界よりすこし上を要求してくるからだ。

 

「力じゃダメだ。自分の得意分野で戦わないと」

 

 自分に言い聞かせるように呟く。

 まぁ、どの分野でも彼に勝っている部分なんてひとつもないのだけれど。

 

 だが、劣っている中でも多少マシな能力はある。

 それは”速さ”だ。

 

 呼吸のおかげだな。

 筋力がなくても、呼吸で底上げされたその能力ならば……!

 

 

「氷の呼吸・漆ノ型――”華吹雪(はなふぶき)”」

 

 

 まるで雪が、あるいは花びらが舞い散るがごとき乱れ斬り。

 俺は手数で縁壱に勝負を仕掛けた。

 

「スゥゥゥゥゥゥ……!」

 

 『氷の呼吸』により運動で生じた熱を体外へと排出する。

 それにより俺は通常よりもずっと長時間、パフォーマンスを落とさずに動き続けられる。

 

 だが、それとはべつに……激しい運動に酸素の供給が追いつかない!

 ツラい、苦しい!

 

 縁壱が徐々に刀を打ち落とす速度を上げていた。

 まだできるはずだ、もっと早く打ち込めるはずだ――そんな声が、交わる刃から聞こえてくる。

 

「スゥゥゥ、ゥゥゥ……!」

 

 縁壱の言うとおりだ! まだだ、まだ動きを止めるな!

 自分が今できることを、すべて彼へとぶつけるんだ!

 

「……っ! ごほっ、けほっ!?」

 

 それでもついに限界がきて、俺は慌てて距離を取った。

 呼吸が乱れ、むせてしまっていた。

 

 結局、剣撃はひとつ残らず縁壱に打ち落とされてしまった。

 まったく、この人は……。

 

 彼は戦いはじめる前となんら変わらぬ様子で、静かにそこに立っていた。

 俺はこんなにも息を切らしているというのに。

 

「もう限界かな」

 

「……まだです」

 

 俺はシャラン、と自らの刀を鞘へと納めた。

 縁壱はやさしい笑みのまま言う。

 

「敵の前で刀を納めるだなんて、殺してくださいと言っているのかな」

 

「それでも、これが今のわたしにできる精一杯ですから」

 

 チャキリ、と鯉口を切った状態で構える。

 抜刀術――居合い斬りの姿勢だ。

 

 

「全集中……氷の呼吸・伍ノ型――”居合い・雪景色(ゆきげしき)”」

 

 

 俺は降り積もった雪のごとく、深く腰を落とす。

 

 至極当然なことではあるが、刀は抜かれている状態が一番強い。

 抜刀術や居合いは、やむをえず納刀状態での戦いを強いられた場合の……緊急手段にすぎない。

 

 ――普通は。

 

 縁壱は俺がカウンターを狙っていることを察してだろう。

 応じるかのように、自ら地面を蹴った。

 

 次の瞬間、彼の姿が消えた。

 そう錯覚するほどの加速。

 

 だが、俺の目はギリギリでその動きを捉えている。

 何度も何度も、彼が鬼と戦うのを見てきたおかげだ。

 

 そして、彼が間合いに入る――その前に(・・)俺は刀を振るった。

 

 

「――はぁあああッ!」

 

 

 地平線まで続く一面の白を思わせるような抜き打ち。

 ”雪景色”は『氷の呼吸』の中でもっとも美しい技だ。

 

 中でも今日のそれは今まで一番……とびきりの出来栄えだった。

 そして……。

 

 

 ――その、透明な刀身が伸びた(・・・)

 

 

 脇差ほどの長さしかなかったはずの刀が、今は打刀相当にまでなっていた。

 本来は届かないはずの間合いの外まで、刃が到達していた。

 

 はじめて俺の一撃が、縁壱へと――。

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