TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第106話『上弦の伍・玉壺』

 

 俺は新たな刀を手に入れてすこしだけ上機嫌になりながら宿へと戻っていた。

 と、そこで……。

 

「あ、玄弥」

 

「お、……おおお、おぅっ!?」

 

 偶然、玄弥と廊下で遭遇する。

 あいさつしただけなのに彼は顔を真っ赤にして挙動不審になっていた。

 

 もしかして、まだ俺の裸を見てしまったことを気にしているのだろうか。

 もう1週間以上も前の話なんだけど……。

 

「ん?」

 

 と、俺は玄弥の腰にあるものに気づく。

 先日、会ったときはなかったものだ。

 

 おそらく、それらこそがここに滞在しに来た目的――頼んでいたものだろう。

 まず、本来であれば刀が差されているであろう場所に”南蛮銃”が吊るされていた。

 

 水平二連方式のソードオフ・ショットガン。

 そこに込められる銃弾は、日輪刀と同様――猩々緋砂鉄や猩々緋鉱石から製造されたものであることを俺は知っている。

 

「お……おぅ、これか。ついさっき受け取って来たばかりでよ」

 

 それから、後ろ腰には通常の日輪刀よりもずっと短い刀があった。

 その刀の特徴を見て気づく。

 

「あっ、そっか。玄弥のことだったんだ」

 

「……?」

 

 先輩おかめが言っていた、最近珍しく依頼のあったという脇差。

 だれかと思っていたら玄弥のものだったのか。

 

 俺も自分の新調した刀を見てもらおうと、彼弥に自分の腰元をアピールする。

 新しい刀にちょっとだけテンションが上がっていて、笑みがこぼれてしまう。

 

「えへへっ。わたしと玄弥、お揃いだねっ」

 

「~~~~っ! お、おうっ……!? そそそ、そうだなぁ!?」

 

「……?」

 

 なぜか、そんな俺のセリフに玄弥がすさまじく動揺していた。

 俺そんなに変なこと言っただろうか?

 

 刀の長さがそっくりだ、と言っただけなのに……。

 そして、彼は「おおお、オレ、用事を思い出した! から!」と言って去って行ってしまう。

 

「……あれー。なんか、もしかして、わたし……玄弥にニガテ意識でも持たれてる?」

 

 そんな風に首を傾げていると、宿の外から「うおぉおおお!」と声が聞こえてきた。

 見てみると、玄弥は吠えながら全力で素振りをしていた……。

 

   *  *  *

 

 その翌日、俺は改めて縁壱零式で特訓をさせてもらっていた。

 頭部は壊れたままだが、動作には支障がないらしい。

 

「壊れた部分は……頭も腕も、いずれおれが完璧にきれいに直してやります!」

 

 と小鉄は笑っていた。

 それはきっと遠い未来のことではないだろう、と俺は思った。

 

 俺は縁壱零式のおかげで、脇差長の刀で戦う感覚をすぐに取り戻した。

 いや、もともと長い刀で戦っていたほうがイレギュラーだったのだ。

 

 10年以上の戦いで沁みついた――縁壱に仕込まれた技術は、そう簡単に抜けるものではない。

 とはいえ、長い刀での経験は決してムダではなく……。

 

「……なっ!? ななな、なんですか!? 今の技は!? 刀身が伸びて……!?」

 

「うん、ありがとう小鉄くん。これなら――いけそう」

 

 そう言って、笑みを浮かべた俺は――。

 

   *  *  *

 

 ――温泉に来ていた!

 

 え、またかって?

 だって、運動後に汗を流すのは大切だから!?

 

「ちょっとのんびり長湯しすぎたな」

 

 そんなことを呟きながら、温泉からの帰り道を歩いていく。

 その道中、道の真ん中に――ひとつの壺を見つけた。

 

 ()は首を傾げながらそこへと手を伸ばそうとし……。

 

 

「――離れて!」

 

 

 次の瞬間、俺は壺を叩き斬っていた。

 目の前で刀を振るわれて驚いたらしく、”ひょっとこ面の男”がひっくり返っていた。

 

 間に合ってよかった……。

 俺は彼へと告げた。

 

「すぐに走って逃げて! みんなに伝えて! ――鬼です!」

 

「っ……!」

 

 それで彼はすべてを察したのか、転びそうになりながら階段を駆け下りていく。

 気づくと、すこし離れた位置にいつの間にかまた壺が現れていた。

 

「よくも斬りましたねぇ、ワタクシの壺を……芸術を! 審美眼のない猿めが! だが、それもまた良し!」

 

 壺からにゅるっと……まるで水死体のごとき白い肌をした鬼が出てきて、激怒していた。

 人間でいえば目に当たる部分には口があった。

 

 そして、額と口に当たる部分に目があった。

 その目には『上弦』と『伍』の文字。

 

 壺から上半身が飛び出したその姿はどこか”ランプの精”を連想させる。

 が、それとは似ても似つかないほどに醜悪。

 

 本当に気色悪い。

 どうしてこう鬼というのは生理的な嫌悪感を与えてくる者ばかりなのか。

 

「ヒョヒョッ。はじめまして、ワタクシは”玉壺(ぎょっこ)”と申す者。殺す前に少々よろしいか? アナタはいったいどうやってワタクシに気づいたのでしょう?」

 

「偶然だよ。ただわたしは――温泉に通っていただけ」

 

 そう、そのために俺は毎日、この温泉へと続く通りを行き来していた。

 鬼による被害を未然に防ぐために。

 

 言っただろう? 俺は特別に温泉好きというわけではない、と。

 アレは本当に冗談だったのだ――!

 

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