TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第109話『上弦の壱・黒死牟』

 

 だれか来てくれ。

 そんな願いに応じるがごとく現れたのは、味方ではなく――敵だった。

 

 もしかして、増援が来ないのは”黒死牟”に全滅させられたからなのか?

 でも……なんでこんな変化が起こった?

 

 いや、そんなのは決まっている。

 原因は――俺だ。

 

「お前は400年前の人間であろう? 鬼でもないお前が、なぜまだ生きている?」

 

 俺の行動で鬼殺隊側の被害は、本来の歴史よりも小さくなった。

 それによって、無惨が鬼殺隊の脅威度を上方修正した可能性はある。

 

 だが、それは大きな問題ではなかったのだ。

 問題だったのは、無惨に俺の存在が察知されたこと自体。

 

 ――400年前の人間、か。

 

 考えれみれば、無惨が興味を示さないはずがない。

 それは”より完璧な不死”への手がかりにでも見えたことだろう。

 

 そして、ここへ黒死牟を寄越したにちがいない。

 彼は静かに告げてくる。

 

「どうした? 答えよ。私はお前に聞いているのだ。名前はそう――幸代(ゆきしろ)まふゆだったな」

 

「……っ、……っ、……っ」

 

 苦しい。あまりの圧迫感に、見られているだけで死んでしまいそうだった。

 達人は視線で殺すというが、まさにそれだった。

 

 この目の前の恐怖から逃げられるなら、死んだって構わない。

 いや……死んだほうがマシ。

 

 そう相手が恐怖に耐えきれず、自ら命を絶ってしまうのだろう。

 今の俺にはその気持ちが痛いほどわかった。

 

「お前、そんなに”呼吸”を止めていては死んでしまうぞ」

 

「……? ~~~~っ!? ……ごほっ、げほっ!?」

 

 黒死牟に指摘されるまで気づかなかった。

 いつの間にか俺は息をすることすら忘れていた。

 

 恐怖のあまり身体が生命活動すら放棄していた。

 ダメだ――生きものとしての格がちがいすぎる。

 

「そう怯えずともよい。私はただ尋ねているだけだ……まだ」

 

「……っ」

 

 これが歴史を変えた報いだとでもいうのだろうか。

 戦国時代に鬼を殺しまわっていたときですら、こんなことはなかったというのに。

 

 考えてみれば、玉壺が俺から逃げ出したのもおかしかった。

 あれはもしかして――俺の相手はすでに決まっていたから、なのでは?

 

「わからぬな。私の見る(・・)かぎりキサマには特別な才能などなにもなく思える。いや、なにも才能がないといったほうが正しいほどだ」

 

 構えろ! 刀を構えるんだ!

 黒死牟の言うとおり、俺には才能がない。

 

 もし戦いになるとしたら心だけだ。

 なのに、その心で負けてどうする!?

 

「う、う……うわぁあああっ!」

 

 俺は黒死牟へと斬りかかった。

 必死に息を吸って技を放つ。

 

 

「こ、氷の呼吸・漆ノ型――”華吹雪(はなふぶき)”ぃいいい!」

 

 

 氷の花びらが舞い散るがごとき乱れ斬り。

 連撃――の、はずだった。

 

 しかし、それは一刀目が当たった瞬間に――カンっと情けない音がして止まっていた。

 き、斬れないっ……!

 

「弱すぎる」

 

「――ぇ?」

 

 そして次の瞬間、俺は放り投げられていた。

 地面をごろごろと転がり、砂にまみれる。

 

 起き上がると、いつの間にか俺の手から刀が消えていた。

 どこへ……と俺が探しはじめるよりも早く、黒死牟が言った。

 

「酷い刀だ」

 

「……!?」

 

 ――”無刀取り”。

 

 さっきまで俺が握っていたはずの日輪刀は、黒死牟の手の中にあった。

 こ、こんなにもあっさりと……!?

 

 俺にはいつ自分の刀が奪われたのかもわからなかった。

 レベルがちがいすぎる……。

 

「剣士にとって刀は命だというのに。お前はその程度のことすらあやつから学ばなかったのか?」

 

 言って、黒死牟は奪ったはずの刀をあっさりと手放した。

 カランコロンと転がり、それは俺のもとへと返ってきた。

 

「……は、はは」

 

 俺は黒死牟に敵とすら認識されていなかった。

 ……い、いや! 逆に考えればヤツは今油断しているんだ!

 

 ヤツはまだ刀を抜いてすらいない。

 今しかない。

 

 だから、もう一度だ。

 もう一度ヤツに斬りかかるんだ!

 

 そう必死に頭では命令を送っているのに……。

 手足はまるで他人のものにでもなってしまったみたいに、動かなかった。

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

 呼吸がいつまで経っても整わない。

 おぞけが止まらない。身体が戦闘を拒否している。

 

「あやつの弟子と聞いて多少は期待していたのだが……このような者が本当に、だれよりも長くあやつを師事し続けた剣士だというのか? ――期待外れだったな」

 

 あぁ、ダメだ――こいつには勝てない。

 その瞬間、俺は自分の中でポッキリと心が折れる音を聞いた。

 

 刀を拾おうと伸ばしていたはずの手も、地面へと落ちた。

 うなだれ、もはや黒死牟と――敵と向き合うことすらやめていた。

 

「私は当時、”あの御方”から特別な命を受けていたため、お前と剣を交える機会には恵まれなかった。しかし、お前とならば”続き”ができるかもしれないと思っていたのだがな」

 

「……続、き?」

 

 ようやく紡げたのは、そんなひと言だった。

 黒死牟は「そうだ」と頷いた。

 

「私とあやつとの――”決着”の続きだ」

 

「決着……ぁ、ぁああ!?」

 

 俺は思い出す。思い出してしまう。

 いや、むしろなぜ今まで――忘れていた(・・・・・)

 

「あやつは、縁壱は、私の双子の弟は……」

 

 

「――私との戦いの最中に死んだ」

 

 

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