TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
だれか来てくれ。
そんな願いに応じるがごとく現れたのは、味方ではなく――敵だった。
もしかして、増援が来ないのは”黒死牟”に全滅させられたからなのか?
でも……なんでこんな変化が起こった?
いや、そんなのは決まっている。
原因は――俺だ。
「お前は400年前の人間であろう? 鬼でもないお前が、なぜまだ生きている?」
俺の行動で鬼殺隊側の被害は、本来の歴史よりも小さくなった。
それによって、無惨が鬼殺隊の脅威度を上方修正した可能性はある。
だが、それは大きな問題ではなかったのだ。
問題だったのは、無惨に俺の存在が察知されたこと自体。
――400年前の人間、か。
考えれみれば、無惨が興味を示さないはずがない。
それは”より完璧な不死”への手がかりにでも見えたことだろう。
そして、ここへ黒死牟を寄越したにちがいない。
彼は静かに告げてくる。
「どうした? 答えよ。私はお前に聞いているのだ。名前はそう――
「……っ、……っ、……っ」
苦しい。あまりの圧迫感に、見られているだけで死んでしまいそうだった。
達人は視線で殺すというが、まさにそれだった。
この目の前の恐怖から逃げられるなら、死んだって構わない。
いや……死んだほうがマシ。
そう相手が恐怖に耐えきれず、自ら命を絶ってしまうのだろう。
今の俺にはその気持ちが痛いほどわかった。
「お前、そんなに”呼吸”を止めていては死んでしまうぞ」
「……? ~~~~っ!? ……ごほっ、げほっ!?」
黒死牟に指摘されるまで気づかなかった。
いつの間にか俺は息をすることすら忘れていた。
恐怖のあまり身体が生命活動すら放棄していた。
ダメだ――生きものとしての格がちがいすぎる。
「そう怯えずともよい。私はただ尋ねているだけだ……まだ」
「……っ」
これが歴史を変えた報いだとでもいうのだろうか。
戦国時代に鬼を殺しまわっていたときですら、こんなことはなかったというのに。
考えてみれば、玉壺が俺から逃げ出したのもおかしかった。
あれはもしかして――俺の相手はすでに決まっていたから、なのでは?
「わからぬな。私の
構えろ! 刀を構えるんだ!
黒死牟の言うとおり、俺には才能がない。
もし戦いになるとしたら心だけだ。
なのに、その心で負けてどうする!?
「う、う……うわぁあああっ!」
俺は黒死牟へと斬りかかった。
必死に息を吸って技を放つ。
「こ、氷の呼吸・漆ノ型――”
氷の花びらが舞い散るがごとき乱れ斬り。
連撃――の、はずだった。
しかし、それは一刀目が当たった瞬間に――カンっと情けない音がして止まっていた。
き、斬れないっ……!
「弱すぎる」
「――ぇ?」
そして次の瞬間、俺は放り投げられていた。
地面をごろごろと転がり、砂にまみれる。
起き上がると、いつの間にか俺の手から刀が消えていた。
どこへ……と俺が探しはじめるよりも早く、黒死牟が言った。
「酷い刀だ」
「……!?」
――”無刀取り”。
さっきまで俺が握っていたはずの日輪刀は、黒死牟の手の中にあった。
こ、こんなにもあっさりと……!?
俺にはいつ自分の刀が奪われたのかもわからなかった。
レベルがちがいすぎる……。
「剣士にとって刀は命だというのに。お前はその程度のことすらあやつから学ばなかったのか?」
言って、黒死牟は奪ったはずの刀をあっさりと手放した。
カランコロンと転がり、それは俺のもとへと返ってきた。
「……は、はは」
俺は黒死牟に敵とすら認識されていなかった。
……い、いや! 逆に考えればヤツは今油断しているんだ!
ヤツはまだ刀を抜いてすらいない。
今しかない。
だから、もう一度だ。
もう一度ヤツに斬りかかるんだ!
そう必死に頭では命令を送っているのに……。
手足はまるで他人のものにでもなってしまったみたいに、動かなかった。
「はっ、はっ、はっ……」
呼吸がいつまで経っても整わない。
おぞけが止まらない。身体が戦闘を拒否している。
「あやつの弟子と聞いて多少は期待していたのだが……このような者が本当に、だれよりも長くあやつを師事し続けた剣士だというのか? ――期待外れだったな」
あぁ、ダメだ――こいつには勝てない。
その瞬間、俺は自分の中でポッキリと心が折れる音を聞いた。
刀を拾おうと伸ばしていたはずの手も、地面へと落ちた。
うなだれ、もはや黒死牟と――敵と向き合うことすらやめていた。
「私は当時、”あの御方”から特別な命を受けていたため、お前と剣を交える機会には恵まれなかった。しかし、お前とならば”続き”ができるかもしれないと思っていたのだがな」
「……続、き?」
ようやく紡げたのは、そんなひと言だった。
黒死牟は「そうだ」と頷いた。
「私とあやつとの――”決着”の続きだ」
「決着……ぁ、ぁああ!?」
俺は思い出す。思い出してしまう。
いや、むしろなぜ今まで――
「あやつは、縁壱は、私の双子の弟は……」
「――私との戦いの最中に死んだ」