TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第110話『伝家の宝刀』

 

「縁壱は、私との戦いの最中に死んだ」

 

「ぁ……あぁ、あぁあああっ!?」

 

 そうだ。俺はあの日――400年前の朝、バラバラになった縁壱の死体と日輪刀を見つけた。

 それをやったのはほかでもない、黒死牟だ。

 

 俺はきっと縁壱が死んだことを認めたくなかったのだ。

 それでずっと記憶にフタをしてしまっていたのだろう。

 

「おい、お前」

 

「……ぁ、……ぁ、ぁ……」

 

「ふむ、反応すらなくなったか。コレがあやつの弟子であるはずがない。やはり、ただの偶然……異なる時代に似たような人間が生まれ落ちただけのことであったか」

 

 

「もうよい――()く死ぬがよい」

 

 

 黒死牟はなんということはない風に、そう言った。

 あぁ、叶うことなら最後に……蝶屋敷のみんなと会いたかったな。

 

 俺は斬首を待つ罪人(・・)にでもなった気持ちで、目を閉じた。

 彼の腕前ならば、痛みすらなく俺を殺してくれるだろう。

 

 助けも来ない。

 俺がすべてを諦めた、そのときだった。

 

 

「――まふゆさまぁあああ~っ!」

 

 

「……え?」

 

 俺は思わず顔を上げてしまう。

 そこには……。

 

「まふゆさまぁ~! 刀! 刀を持ってきましたぁ~っ!」

 

 そう叫びながらこちらへと駆け寄ってくる、おかめ面の姿があった。

 無事だったんだ! 玉壺に捕まったわけじゃなかった!

 

 そう安堵した次の瞬間、今度は焦燥が俺を襲った。

 マズイ、このままじゃ彼女まで巻き込んでしまう!?

 

「なんでこっちに来たの!? ダメ! 逃げて、早く! お願い!」

 

「でもっ、私……これ、まふゆさまにぃ~っ……!」

 

 彼女は刀袋を握ったまま俺のそばへと――辿りつく直前。

 つまづいてバランスを崩した。

 

 とっさに手を突こうとして、だが彼女は意図的にそれをやめたように見えた。

 そのため、当然というか……ズザァっ! と顔面から地面に突っ込んだ。

 

「ぶへぇぁっ!?」

 

 おかめ面は俺のすぐ眼前で倒れ伏していた。

 しかし、その手でまるで捧げるように持ち上げられた刀袋には砂埃ひとつ付いていない。

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 黒死牟に殺される直前なのに、そのあまりに見事な転びっぷりに、俺は思わず素に戻る。

 彼女は「えへへ」とはにかみながら顔を上げた。

 

 お面から顔が出ている部分に擦り傷ができてしまっていた。

 だが彼女は気にした様子もなく、うれしそうに……。

 

 

「――まふゆさまに刀を持ってきましたぁ~っ!」

 

 

 そう言った。

 なんて能天気な……彼女は自分が殺されそうな状況にあることを自覚していないのだろうか?

 

 いや、そんなはずがない。

 だって、彼女が刀を差しだす手は隠しきれない恐怖で――ずっと震えているんだから。

 

「なんで、そこまで」

 

 思わず俺の声も震えた。

 だって、俺はもう諦めて戦うことをやめてしまっているのだ。

 

 幸い、今はなぜか……黒死牟が俺たちを殺すのを待ってくれているが、それだっていつ気が変わったっておかしくない。

 そんな状況だというのに、彼女は笑って言う。

 

 

「だって、私は――まふゆさまの担当刀鍛冶ですからぁ~っ!」

 

 

「っ……!」

 

「希望した刀をお渡しするのがお仕事ですからぁ~っ!」

 

「で、でもっ……わたしの希望に合う刀はなかったはず。いったいどうやって? もしかして、あなたが打ってくれたんですか!?」

 

「そうですぅ~! と、言えたらよかったんですけれど……ちがいますぅ~。悔しいですが、私にはまだその実力がなくてぇ~」

 

「じゃあ、いったいこの刀は?」

 

「私、女流刀鍛冶のお偉いさんにお願いしに行ってたんですぅ~! 私たちに代々伝わっている――神聖なお刀をお借りできませんか? ってぇ~!」

 

「あなたは……」

 

 俺は今さら気づいた。

 彼女の刀を差しだす手のひらとひたいには、くっきりと畳の跡がついていた。

 

 いったい何時間……いや、何日そうしていたのだろう?

 俺なんかのために……。

 

 一方の俺はどうだ?

 彼女をあっさりと見限って、さっさとべつの刀鍛冶に依頼をしにいって……。

 

 心のどこかで見下していたんじゃないのか?

 彼女は名前のないモブキャラクターだと。

 

 あぁ、そうか……どうやら俺は忘れていたらしい。

 この刀鍛冶の里をここまで変貌させたのだって、俺が声をかけた……たったひとりの名もなき女性――”無銘(モブ)”であったことを。

 

「でも、そしたら不思議なことが起こったんですぅ~! 私が『いい加減に出ていけ』って怒られることすらなくなって、ムシされはじめたとき……お館さまから連絡がきてぇ~」

 

「お館さまから!?」

 

「はいぃ~っ! 鬼の襲撃がはじまる直前だったと思いますぅ~! 『代々伝わる刀を幸代まふゆに渡してあげてほしい』『それは彼女のものだから』ってぇ~!」

 

「……!」

 

「いわゆる鶴のひと声ってやつでしたぁ~っ! みんなも『お館さまがおっしゃるなら、すぐに届けてあげなさい』って言ってくれてぇ~!」

 

 おかめ面は「きっとお天道(てんと)さまが見てくれていたんですね!」と無邪気に笑う。

 だが、それはおそらく俺の送った手紙を彼が読んだからだろう。

 

 これだけ遅くなった理由はわからない。

 もしかすると、情報の信憑性を……裏付けを取っていたのかもしれない。

 

「まふゆさま、どうか……抜いてあげてくださいぃ~。これが――あなたの刀ですぅ~」

 

 俺は刃こぼれした刀を鞘へとしまうと、腰から外して地面に置いた。

 代わりにその刀袋を受け取る。

 

 するりとその紐をほどくと、中から脇差ほどの長さの刀が現れる。

 その刀の拵えを見た瞬間、身体が震えた。

 

「……!」

 

 まるで雪のような白だった。

 細部に施された金や銀の装飾は、太陽の光を受けて煌めく氷の結晶がごとく。

 

 俺はそれをうやうやしく腰に差して、立ち上がった。

 鯉口を切り、鞘を払う。

 

「もしやと思ったが……なんと、見事な。私は400年以上の長い時間を生きてきたが、それでもこれほどのものにはまず出会えぬ」

 

 黒死牟がため息をこぼしていた。

 そうか……彼が俺たちを殺さず待ってくれていたのは、この刀への敬意からだったのか。

 

 刀袋の外から――鞘の内にあるときから、彼はすでに見抜いていたのだろう。

 この刀の美しさを。

 

「あぁ……」

 

 その刀は驚くほど、俺にしっくりときた。

 握った瞬間にわかった。

 

 

 これは――俺の刀だ。

 

 

 俺のためだけに打たれた刀。

 この刀は400年という時を経て、ついにあるべき持ち主のもとへと辿りついたのだ――!

 

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