TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第111話『鍛冶の神さま』

 

 おかめ面に届けられた刀。

 その刀身が、握っている柄に近いほうから徐々に色が変わっていく。

 

「……きれい」

 

 そう呟いたのは俺か、それともおかめ面だったか。

 その刀身は驚くほどに透明なって……まるで氷、いや――氷そのもの。

 

 戦国時代の良質な鉄が使われている、だけではない。

 刀自体の完成度が恐ろしく高い。

 

 あの時代、俺は幾度か刃こぼれなどで刀をダメにして替えたことがある。

 打ってくれたのは、里でも一番の腕を持つ里長……だが、しかしここまで透き通った刀身になったことは一度もなかった。

 

「すばらしい。幸代まふゆ、その刀は今――お前が握ることではじめて完成したのだ」

 

 その刀は大胆に”()”が入っていた。

 刀身の根元(おそらくは茎へ掻き通されている)から切っ先近くまで深く溝が彫られている。

 

 さらには、”(むね)を盗む”なんて表現もされるのだが、刀の背中側がとても薄くなっている。

 しのぶの日輪刀は刃をなくすことで軽量化していたが、この刀はその逆……。

 

 峰(棟)側を限界まで削ることで軽量化しているのだ。

 そのクセ、こんな異形なのに刀自体のバランスは驚くほどに整っている。

 

 俺の手にフィットした――細身の柄の握りやすさと相まって、まるで羽毛でも手のひらに乗せているような錯覚を起こしそうだ。

 いつもは少なからず重いと感じる刀が、しかし今は握っていてもまったく疲れがない。

 

「すごい……こんなにも軽いのに」

 

 ほかにも、さまざまな軽量化がほどこされているのがわかった。

 一方で、そこまでやると今度は刀の強度が気になりそうなものだが……すさまじいことに、この刀はその不安を一切感じさせない。

 

 この強度を保ちながら、それほどの軽量化。

 いったいなんと繊細な技か。

 

「それを作ったかたは、女流刀鍛冶の開祖といわれていますぅ~」

 

 おかめ面はそう俺に教えてくれる。

 現在の女流刀鍛冶はカラクリ式の槌で……おかめ面が俺に最初渡してきたような、長い刀も打てるようになった。

 

 しかし、当時はまだそのようなものもなかった。

 女性では筋力が足りず、大刀――普通の日輪刀を打つことは困難だった。

 

 その分、彼女は繊細なコントロールで刀を打ったそうだ。

 それこそ小刀――脇差サイズの刀を作らせたら、彼女の右に出る者はいないほどに。

 

「ですが、彼女の道のりは当然、簡単なものではなかったと聞きますぅ~」

 

 伝統を重んじる男の刀鍛冶からは邪道だと見下され……。

 集中のジャマだからとあちこちの鍛冶場を追い出され……。

 

 さらには途中で片方の目が悪くなり……今でいうヒドい乱視になっていたという。

 焦点の合わない目は彼女から鍛冶への集中力を奪った。

 

 それでも彼女は刀を打ち続けた。

 そして、あるとき彼女は思いついたそうだ。

 

「あぁ、ジャマなら取っちゃえばいいんだ――と」

 

 槌を打つときの距離感は身体が覚えている。

 けれど、炎の色だけは目で見なければ判断できない。

 

 それは片目があればできる。

 だから……視力が悪かったほうの目を自分でくり抜いた。

 

 

「そうして彼女は――”神”になった」

 

 

 隻眼となったことで彼女は最高の刀を打てるようになった。

 すさまじい……いや、おぞましいまでの執念。

 

 まるで神話に出てくる”天目一箇神(あめのまひとつのかみ)”のごとく。

 その姿にはさしもの男の刀鍛冶たちもなにも言えなくなったという。

 

 ……いや、ちがうな。

 彼女がその実力で全員を黙らせたのだ。

 

 結局のところ、彼らは刀鍛冶だから。

 良い刀を打てるかどうかでしか物事を判断しない。

 

 そして――彼女の打った刀は、この上なく美しかった。

 

 当時の里長ですら、刀を見た瞬間に涙を流したほどだったという。

 そうして女流刀鍛冶という地位を掴み取った。

 

「それで……神聖視、か」

 

「はいぃ~っ! その後、彼女は女性でも鍛冶に参加できるよう鍛冶場の女人禁制を撤廃させたり、女性が鍛冶をしやすいようにカラクリ式の槌を導入したりしたそうでぇ~……」

 

 もしこれが今の時代なら、メガネ……は高温になって火傷をしたり、集中のジャマか。

 コンタクト……も火の前にいるからひどく乾いてしまうか。

 

 それでも現代(・・)であればレーシック手術などでどうにかなっただろう。

 だが、それらがない時代だったからこそ――これほどの刀が生まれたのだと思う。

 

 こんなにも……恐ろしくさえ感じるほどに、美しい刀が作れたのだと思う。

 執念が――魂が、これほどまでにこもったのだと思う。

 

「『もし、あのときあの子にふさわしい刀があれば、あの子は死なずにすんだハズだ』――それが彼女の口グセだったと聞きますぅ~」

 

「そう、ですか」

 

「いったい『あの子』というのがだれを指すのかは、だれも知らなかったようですけれどぉ~。もしかしたら、まふゆさんみたいな人だったんですかねぇ~」

 

「大丈夫です。彼女の想いは――もう、きちんとその人に届いていますよ」

 

 この刀にはもうひとつ特徴があった。

 それは……。

 

 

 ――『悪鬼滅殺』の文字が彫られていること。

 

 

 鬼殺隊の『柱』が握る日輪刀にのみ刻まれるはずの文字。

 彼女がどんな想いでこの刀にもそれを刻んだのか……。

 

 俺にそこまでの実力があるとは到底思えない。

 だけど、それでも……。

 

 俺はスゥっと刀を構え、黒死牟と向き合う。

 もう、あのときのような恐怖はなかった。

 

「これほどの刀を前にしては、こちらも抜かねば不作法というもの」

 

 黒死牟がはじめて腰の柄へと手をかけ、刀を抜いた。

 その刀にはいくつもの眼球がついており――なんともまがまがしく、おぞましい。

 

 さらにいえばとても長大で、俺の刀とはリーチがまるでちがう。

 しかも、鬼の肉体から作られたそれは折れてもすぐに回復し……刃こぼれ知らず。

 

 だが、俺は負けるとはまったく思わなかった。

 すくなくとも刀だけは――こちらが勝っていると確信を持って言えた。

 

 そして、なにかひとつでも(まさ)っているものがあるなら、やりようはある。

 俺は今までずっとそうやって、少ない手札を駆使して戦ってきたのだから。

 

 

「鬼殺隊・『氷の呼吸』――幸代(ゆきしろ)まふゆ」

 

「上弦の壱・『月の呼吸』――黒死牟」

 

 

「「――参る」」

 

 

 400年越しの戦いが今、はじまった――!

 

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