TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第112話『進化する”呼吸”』

 

 黒死牟が刀を振るうと同時に、無数の刃が宙に煌めいた。

 これが黒死牟の『呼吸』……。

 

 

「月の呼吸・壱ノ型――”闇月(やみづき)(よい)(みや)”」

 

 

 それは一見ただの水平斬りにも思えたが――その実はまったく別物。

 ひと振りの斬撃のまわりに不規則で細かな刃がついている。

 

 異次元の速さだった。

 だが、今の俺の身体はそれに対応できていた。

 

 

「陸ノ型・漆ノ型……混成――”六華吹雪(りっかふぶき)(まい)”」

 

 

 ふたつの型を組み合わせて使う。

 漆ノ型”華吹雪(はなふぶき)”――荒れ狂う吹雪がごとき乱れ斬りと、陸ノ型”六華(りっか)の舞い”――風に煽られる雪がごとくふわりと敵の攻撃をいなす技。

 

 原作でも炭治郎が自身の呼吸に『雷の呼吸』を取り入れ、新たな技を生み出していた。

 でも俺の適性は『氷の呼吸』に特化しているから……その”中”で同じことをしたのだ。

 

 混成技によって己に迫る無数の刃を次々に受け流す。

 今まではこんなことできなかった。

 

 ただ刀が軽く、今までよりもずっと速く振れるようになったことで実現していた。

 それに……。

 

「っ……! 戦国時代の鉄か。それに……なんと鍛え上げられた刀身! 私の身体から造られたこの刀では斬る前に灼け落ちてしまうかっ!」

 

 見れば、黒死牟の握る刀はボロボロに刃こぼれしていた。

 この刀なら……いけるっ!

 

 刃こぼれを気にしなければならないヤツの行動には、必然的に隙が生まれた。

 動きを止めないまま、俺はヤツの刀を潜り抜け懐へと潜り込んだ。

 

 この瞬間だけは長い刀のリーチが逆に欠点となる。

 俺の手がブレ、刃が宙を一瞬で駆け抜ける。

 

 

「氷の呼吸・真・壱ノ型――”来光(らいこう)雪火(せっか)”」

 

 

 ほかの技すべての基本となる”壱ノ型”。

 そのシンプルな突きは――俺が一番最初に覚えた技だ。

 

 そして、俺が使える中でもっとも完成度の高い技でもある。

 それが最高の刀を手にしたことで、もはや今までとは別次元の技へと昇華していた。

 

 光が空から地上へと届く――そんな一瞬にも等しい間に、その切っ先は黒死牟へと到達する。

 しかし、間合いの内側に入り込まれたヤツの対応も早かった。

 

 

「月の呼吸・伍ノ型――”月魄災渦(げっぱくさいか)”」

 

 

 黒死牟は刀を振るうことなく斬撃を生み出した。

 俺は転がるようにして距離を取る。

 

 躱しきれなかった刃が身体中にいくつも小さな切り傷を作り、じわぁっと血が滲みだす。

 でも大丈夫だ。

 

 俺はその攻撃が来るとわかっていた。

 だから反応できたし、傷も浅い……それに。

 

「どういうことだ?」

 

 黒死牟は俺の突きを、最小限の動作――頸を傾けることで躱したハズ(・・)の姿勢で止まっていた。

 その頸からはツーっとひと筋の血が流れ落ちていた。

 

 頸を斬るにはほど遠い一撃。

 それはすぐに癒えてしまった。

 

 だが、俺の攻撃は確実に――ヤツの頸に届いていた。

 ヤツはジッと俺を見てくる。

 

「まさか、この私が”目算”を誤った? いや、たしかに速い一撃ではあったが……ちがうな。お前ではない――その刀、先ほどより伸びている? 刀身……ではないな。これは氷か?」

 

「……」

 

 すぐにバレてしまった。

 だが逆にいえば――あの黒死牟ですら一瞬、見抜けなかった。

 

「なんと珍妙な技だ。もはや呼吸というより血鬼術に近い。しかし、げに恐ろしきはその刀の透明度……私の”目”をもってしても、氷とのつなぎ目がほとんど見えぬとは」

 

 

「氷の呼吸――”氷結刀(ひょうけつとう)”」

 

 

 俺は短く答える。

 と同時に、今の一瞬のやり取りで俺は手ごたえを感じていた。

 

 ”氷結刀”の扱いが圧倒的にうまくなっている。

 重さに振り回されず――いや、うまく重さを使いこなし、流れるような動きができていた。

 

 ずっと長い刀を使い続けていた副作用だろう。

 これまでは伸ばせてもせいぜい標準的な日本刀の長さが限界だったが……。

 

 今ならもっと長くまで伸ばしても扱いきれそうだ。

 もちろん、強度の問題があるためどこまでも伸ばせるわけではないが。

 

 恐怖で滲んでいた汗と、切り傷からこぼれた血が混じり合って、ツーっとこめかみから頬を伝って落ちていく。

 俺はそれを拭うと、まっすぐ正面から黒死牟と向き合った。

 

「スゥゥゥ、スゥゥゥ……」

 

 全集中の呼吸を続けながら、ジッと構える。

 黒死牟には『透き通る世界』が見えている。

 

 こちらから動いても、それはすべて読まれて返り討ちになるだけ。

 だから――待つ。死力を尽くして待ち続ける。

 

 どんな動きも見逃すな。

 こちらが攻撃を当てられるとしたら、それはカウンターしかない。

 

 1秒が1分に、1分が永遠に感じる。

 静寂の中、俺は焦れそうになる心を必死に抑え続けた。

 

 それが無限に続くかのように思われたそのとき、ヤツの目がピクリと動いた。

 と同時に、静寂は唐突に終わりを迎えた。

 

 

「――ふむ、今宵はここまでとしよう」

 

 

 黒死牟がいきなり、そんなことを言いだしたのだ。

 そして、目の前に敵がいるというのに平然と刀を納めた。

 

「い、いったいなんのつもり?」

 

「わからないか? 私はお前に『見逃してやる』と言っているのだ」

 

「~~~~ッ!」

 

 とんでもない屈辱に、カァっと怒りが湧きかけ――しかし、それはすぐに鎮火した。

 握った刀の柄からひんやりと伝わってきた冷気が、俺の頭を冷やしてくれていた。

 

 俺はなにを、新しい刀を手に入れたからといって強くなった気になっているんだ。

 黒死牟のもの言いは正しい。

 

 武器によって彼我の差は大きく埋まった。

 しかし、それでもなおこちら側が圧倒的弱者であることは変わらない。

 

此度(こたび)の用はすでに済んだ。それに――愉快なものも見られた」

 

「……?」

 

 黒死牟の目は俺の握る刀と、そして――俺の顔へと向けられていた。

 そのとき、ドォオオオン! と遠くで大きな音が鳴った。

 

 見ればいつの間にか、山の中に巨大な樹木でできた龍がいた。

 今、出現したわけではなく……俺が黒死牟との立ち合いに集中していて気付かなかっただけで、もうずっとそこにあったらしい。

 

 それがまさに今、ボロボロと崩れていっていた。

 炭治郎たちが上弦の鬼――”半天狗”を倒したのだ。

 

 いつの間にか夜が明け、朝日が差し込んできている。

 鬼の時間に終わりが訪れていた――。

 

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