TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第113話『日の出』

 

「みんな、勝ったんだ」

 

 俺は視線の先で崩れ去っていく木龍を見ながらつぶやく。

 朝日が昇り、戦いの時は終わりを迎えようとしていた。

 

 そういえば、あれから新たなザコ鬼――”金魚鬼”も現れていない。

 おそらくは玉壺も無事、無一郎によって倒されたのだろう。

 

「頃合いだな」

 

「……次に会うときは、必ずあなたを倒す」

 

「そのときまでお前が生きていれば、相手をしてやろう」

 

 その言葉とともに、ぶぉん! と風圧を感じた。

 次の瞬間には、もう黒死牟の姿はどこにもなくなっていた。

 

 俺はあたりを警戒して、刀を構え続ける。

 しかし、いつまで経ってもなにも起こらないまま、あたりは日の光に満たされた。

 

 どうやら本当に去っていったらしい。

 それがわかった途端、力が抜けてぺたんとその場に崩れ落ちてしまう。

 

「い、生き残った……あの『上弦の壱』を前にして」

 

「まふゆさまぁ~っ! だだだ、大丈夫ですかぁ~っ!?」

 

 泣きながら、おかめ面が俺に飛びついてくる。

 あっ、こらっ……ちょっと、やめろ!?

 

「あっちも……こっちも! 傷だらけじゃないですかぁ~っ!? 女の子なのに、ほっぺたにもこんな大きな傷痕がぁ~っ!?」

 

「えっ? あぁ、いやそっちは……」

 

 目に入りかけた血を拭った際に、一緒に染め粉まで落ちてしまっていたらしい。

 頬の『氷の結晶』のような傷痕があらわになってしまっていた。

 

 ふと、黒死牟の視線が俺の顔へ向いていたことを思いだす。

 もしかして、ヤツはこれを見て勘違い(・・・)したとか? いや、まさかな。

 

「……え? ま、まふゆさま!? まふゆさまぁ~っ!?」

 

「急に叫んで、いったいどうし……あれ?」

 

 おかめ面が泣きそうな顔で俺の名前を繰り返し呼んでいて……。

 それで、ようやく気づいた。

 

 いつの間にか俺は地面に横たわっていた。

 全身からドクドクと血が流れ出ていた。

 

 あぁ、どうやら傷が浅かったというのは勘違い……戦いで興奮して自覚がなかっただけらしい。

 あるいは、浅い傷でも小さな体躯の俺にとっては十分なダメージだっただけか。

 

「いやぁ~!? まふゆさま、死なないでぇ~っ!?」

 

 俺はそのままゆっくりとまぶたを下ろした――。

 

   *  *  *

 

「――はぁあああ!? たったひとりで『上弦の壱』と戦ったぁ~!?」

 

 アオイの大声に俺の耳がキーンとした。

 しのぶは頭痛でも覚えたみたいに額を押さえ、カナエは「困った子ね」とでもいう風に頬に手を当て、カナヲは泣きそうな顔でギュッと俺を抱きしめたまま離そうとしない。

 

 『刀鍛冶の里』での戦いから数日後。

 俺は毎度のことながら蝶屋敷で意識を取り戻していた。

 

「そぉ~なんですよぉ~! こぉ~んなたくさん目のついた恐ぁ~い鬼でぇ~!」

 

 そして、なぜかこの場にはおかめ面もいた。

 彼女は俺の病院食であったはずのおにぎりをムシャムシャと食べながら、里で俺がどのように戦ったのかを蝶屋敷のみんなに語っていた。

 

「まふゆさまはそんな相手にひと太刀浴びせたうえ、単身で朝まで戦い続けて……相手を撤退に追い込んじゃったんですよぉ~!」

 

「『上弦の壱』を相手に!?」

 

 ちがう!? そうだけど、そうじゃない!?

 与えたのはただのかすり傷! 撤退も相手が勝手に帰っただけだ!?

 

「まふゆちゃん、無事でよかった……本当によかった」

 

「……姉さん」

 

 話を聞いていたカナエが安堵のあまりに泣き出してしまう。

 そんな彼女の肩を抱くように、しのぶが寄り添ってあげていた。

 

 カナエも上弦の鬼と遭遇戦となり、相手が撤退するまで――朝まで戦い続けたことがある。

 本来の歴史であれば彼女が死んでいたはずの戦い。

 

 彼女はそこで後遺症を負って、鬼殺隊の引退を余儀なくされた。

 だから、上限の鬼に単身で挑むことの無謀さをだれよりも知っているのだ。

 

「と、ところで! 里のほうは大丈夫なんですか!」

 

 俺は空気に耐え切れなくなって、話題を変えた。

 おかめ面は「そうですねぇ~」ともう1個おにぎりを頬張りながら語る。

 

 って、オイ。

 お前はいつまで他人の病院食を食ってんだコラ。

 

「里のお引っ越しはもうほとんど終わりましたよぉ~! 恋柱さまが手伝ってくださったおかげで、あっという間でぇ~」

 

「それはよかったです」

 

「あと霞柱さまも来てるみたいですぅ~。なんか、お人形? の修理を手伝ってましたぁ~!」

 

 きっと、自分が縁壱零式を壊してしまったから、その穴埋めをしているのだろう。

 無一郎にも……ちゃんと、やさしい心があるから。

 

「それと、その……里の被害はどのくらいでしょうか?」

 

「聞いてください! なんとビックリ……あんなにすごい騒ぎだったのに、死者がだれもいなかったんですぅ~! 全部、まふゆさまやみなさまのおかげですよぉ~!」

 

「……! そっか、それは……本当によかった」

 

 もちろん、建物への被害や重軽傷者は出ただろう。

 だが本来であれば失われていたはずの命をたくさん救うことができた。

 

「でも里の人に被害はなくても……」

 

 俺は悔しさをにじませながら呟く。

 歴史を変えてしまったことで、刀鍛冶の里に黒死牟がやって来てしまった。

 

 俺はお館さまに里の襲撃について手紙で共有していたが、応援が来なかったということは……ヤツに隊士が大勢、事前に殺されてしまっていたということだろう。

 そう、思っていたのだが。

 

「いえいえぇ~! 炭治郎さんたちもみんな無事だったそうですよぉ~!」

 

「そうではなくて」

 

「あっ、里を常駐で警護してくださっていた鬼殺隊員のほうですかぁ~? そちらも無事に……」

 

「いえ、そうでもなく!」

 

「……? あのぉ~、里にいた鬼殺隊員は今挙げたので全部だと思うんですけれどぉ~」

 

「えっ? でも里に応援の部隊が来ていたんじゃ?」

 

「たしかに恋柱さまはいらっしゃってましたけどぉ~」

 

 被害がない? いったいどういうことだ?

 俺たちは困惑して、お互いに顔を見合わせながら首をかしげあった――。

 

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