TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第114話『刻まれし銘』

 

 黒死牟にたくさんの隊士が殺されたわけじゃなかったのか?

 俺がおかめ面が顔を見合わせながら首を傾げていると、横からしのぶが声をかけてきた。

 

「まふゆ。そちらについては後日、私とふたりで話しましょう」

 

「えっと、はい……?」

 

「今日はまだ、まふゆも起きたばかりだから。みんなムリさせちゃダメよ。はい、解散。仕事に戻った戻った」

 

「「「はーい」」」

 

 蝶屋敷の面々が自分の仕事に戻っていく。

 そんな中、俺は一緒に立ち去ろうとしたひとりへと声をかけた。

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

「ほぇ~? 私ですかぁ~?」

 

 その相手とはおかめ面だった。

 すこし彼女に聞きたいことがあったのだ。

 

「もう今日、里に戻ってしまうんですか?」

 

「いえぇ~。今晩はこちらに泊めていただいて、明日の朝に発つ予定ですぅ~」

 

「でしたら、ひとつお願いが……」

 

 俺の頼みをおかめ面は快く了承した――。

 

   *  *  *

 

 その日の晩、病室のベッドで休んでいる俺のとなりにおかめ面の姿があった。

 俺は彼女に礼を述べる。

 

「ありがとうございます。引き受けてくださって」

 

「いえ、むしろ女流刀鍛冶としては光栄なことですからぁ~。では――はじめます」

 

 おかめ面はスッと背筋を伸ばすと、目の前に置かれた俺の刀へと深く頭を下げた。

 鞘から引き抜き、さらには目釘も抜いて拵えを外していく。

 

 俺は彼女に刀の手入れをお願いしていたのだ。

 あの戦いの直後、俺が意識を失っている間に一度は手入れしてくれたらしいが……。

 

 俺も見てみたかったから――できれば一緒に。

 裸になった刀身を見て、俺も彼女も揃って「「ほぅっ」」とため息を漏らした。

 

「やっぱりすごいですぅ~」

 

「……うん」

 

 刀身だけになったそれは今や完全な透明だ。

 一見するとガラス細工にも見えそうだが――そこから感じるのは脆さではなく、鋭さ。

 

「まふゆさま、どうぞぉ~」

 

 それからおかめ面はうやうやしく、その刀身を俺へと差し出した。

 俺は礼をするようにそれを受け取り、(なかご)に刻まれたその銘を読んだ。

 

「そっか、そんな名前だったんだ」

 

 そうして俺ははじめて、あのときお世話してくれた女性の名前を知った。

 彼女はもう名無しのモブなどではなかった。

 

 いや、モブなんてものは最初から存在しなかったのだ。

 みんな、この世界で生きているひとりの人間なのだから。

 

「ありがとうございます」

 

 おかめ面に刀身を返す。

 それを受け取った彼女は手入れを再開した。

 

 しばし、俺たちは無言で感傷に浸っていた。

 そろそろ手入れも終わりか、というところで彼女が口を開いた。

 

「でも悲しくなりますね。これが、まふゆさまの担当刀鍛冶としての最後のお仕事ですから。……刀鍛冶としては、やっぱり最後は自分で打った刀を渡して終わりたかったなぁ」

 

 ぽた、ぽた……と彼女の着物に小さな水滴がいくつも落ちる。

 お面の隙間から涙が溢れていた。

 

 俺はそんな彼女を見て「はぁ~」と嘆息した。

 呆れた声で言う。

 

「いったいなにを言っているんですか。わたしの担当はこれからもあなたでしょう?」

 

「……へっ?」

 

「自分のために命がけで戦場まで刀を届けてくれるような鍛冶師が、ほかにいますか?」

 

「でも……私はまふゆさまにふさわしい刀を打てなかったし。そもそも、まふゆさまにはもうこんなにすばらしい刀がありますし……」

 

「刀は消耗品ですよ……って、刀鍛冶にこんなことを言うのは釈迦に説法でしょうけれど。この刀だっていつかは必ず、ダメになるときが来ます」

 

「……!」

 

「ただ……幸いにもこの刀はすこしばかり頑丈そうですから、しばらくは大丈夫そうです。だから――そのときが来るまでに腕を磨いて、わたしの刀を打てるようになっていてください」

 

 

「わたしは、いつかまた――あなたの刀を握って戦いたい」

 

 

「~~~~っ!」

 

 おかめ面は先ほどまで以上にボロボロと涙を、お面の隙間から溢れさせていた。

 声はなく、ただ嗚咽のみが零れ続ける。

 

 今ならばわかる。

 一番最初、あの長い刀を握ったとき妙にしっくりときた理由を。

 

 女性向けに作られているから、だけではない。

 彼女が目標としていたのが、まさに――この刀を作った女流刀鍛冶の開祖だったからだ。

 

 すなわち――俺のための刀だったからだ。

 

「あなたの返事を聞きたいです。それとも、もしかしてあなたのほうがわたしの担当を辞めたくなってしまいましたか? その場合は、わたしに引き留める権利はありませんが」

 

 おかめ面は慌てた様子でブンブンと首を横へと振った。

 それから喜色の滲んだ涙声で彼女は言った。

 

「そんっ、なこと……ないっ、ですぅ~!」

 

 それからおかめ面はそっとお面を外した。

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった……けれど、かわいらしい顔が現れる。

 

「わ、私には開祖さまを越えられる自信がありませんっ……ですが! ”下手な鍛冶屋も一度は名剣”! いつか必ず、この刀を越える最高のひと振りを作ってみせますぅ~!」

 

「はい。楽しみにしてます」

 

「これからも、よろしくお願いしますぅ~っ!」

 

 そうして俺たちは本当の意味でパートナーになった。

 剣士と鍛冶師、そのどちらが欠けてもいけない。

 

 俺たちはその両方が揃うことではじめて、戦うことができるのだから――。

 

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