TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

119 / 136
第115話『風柱・不死川実弥』

 

 翌朝、俺は蝶屋敷の玄関でおかめ面が『刀鍛冶の里』へと帰るのを見送った。

 そのまま自分の足で病室へと戻る。

 

 今回は比較的浅い切り傷だけだったので、こうして歩き回ることに支障はない。

 回復の呼吸を使い続けているため、あと数日もすれば全快するだろう。

 

「……ん?」

 

 その道中のこと。

 炭治郎たちが眠っている病室に差し掛かったとき、出入り口付近にとある人物を発見した。

 

 鋭い三白眼に、顔や開襟された隊服から覗く全身に刻まれた傷痕。

 間違いない、アレは……。

 

「あァ? なんだテメェ……なに見てやがんだ、あァン!?」

 

 ひぇえええっ!?

 まだなにもしてないのに、めちゃくちゃガンつけられてるぅ!?

 

 彼の性格について俺は多少の知識がある。

 それでも、こう至近距離でドスの効いた声を出されると多少ビビッてしまう。

 

 

「えっと――”不死川実弥(さねみ)”さん、ですよね?」

 

 

 俺は恐る恐るといった様子で、そう訊ねる。

 彼こそが風柱――『風の呼吸』の使い手。

 

 鬼殺隊の中でも行冥に次ぐ実力者であり……。

 そして、玄弥のじつの兄でもある。

 

「はじめまして、わたしは幸代まふゆといいます。この蝶屋敷で、しのぶさんやカナエさんのお世話になっていて……」

 

「カナエに?」

 

「え? はい。どうかしたんですか?」

 

「あ、あァ……いや、そうかァ」

 

 実弥の視線が俺の首元へと向く。

 そこにある蝶柄のマフラーを見て、俺の言葉が事実であることを認めたようだった。

 

 しかし、なぜゆえカナエひとりだけ名指し?

 よくわからないが……まぁ、いろいろあるのかもしれない。

 

「それで、今日は弟さんのお見舞いにいらっしゃったんですか?」

 

「……!? チっ、そういうんじゃねェ。そもそもアイツはオレの弟なんかじゃねェよ」

 

 実弥はそう冷たく言い放つ。

 彼の玄弥に対する態度は非常に辛辣だ。

 

 なんとか、ふたりの仲を今のうちに改善できればよいのだけど……。

 と、そんなことを考えていたそのときだった。

 

「どうしてそんなふうに言うの? 悲しいわ。そんなことを言っては、弟くんがかわいそうよ~」

 

「っ!? か、カナエ……!?」

 

 ウワサをすれば影。

 カナエが「もう~」とかわいらしく頬を膨らませ、腰に手を当てながらそこに立っていた。

 

「……ん?」

 

 と、そこで気づいた。

 なぜか実弥の顔が真っ赤になって、挙動不審になっていた。

 

 不思議な反応だ。

 でもこれ、どこかで見たことがあるような……と考えて気づいた。

 

「あっ、玄弥とそっくりなんだ」

 

「……なッ!?」

 

 あー、そっかー。兄弟だもんなー。

 どうりでそっくりなわけだ。

 

 きっと実弥も玄弥と同じく、思春期なのだろう。

 21歳でそれはちょっと遅い気もするが、まぁそういうこともあるか。

 

「うんうん……」

 

「おいクソガキァ、テメェなにか失礼なことを考えてんじゃねェだろォな? チビだろうがオレゃあ容赦しねェ! ぶっ殺すぞ!?」

 

「こーらっ、小さい子を脅すんじゃありません」

 

「~~~~っ! ……っ、……っ!」

 

 カナエにたしなめられた実弥はなにか反論しようとして、しかし言葉が出てこないようだった。

 最初、ちょっと怖い気がしたけど……意外とそうでもないかも?

 

 心強い用心棒がいることもあって、俺はちょっと調子づいてくる。

 すこしでも仲直りの一助になれば、と思い玄弥のエピソードを話す。

 

「玄弥も実弥さんと同じく、すごく照れ屋なんですよ。わたしとおしゃべりしてるときも、いつもそうやって顔を真っ赤にしていて……」

 

 

「――なんだと?」

 

 

「え? ……ひゃうっ!?」

 

「ちょ、ちょっと実弥くん!? まふゆちゃんに乱暴しちゃ……」

 

「……」

 

 なぜか実弥は俺の首根っこを掴み上げると、じぃーっと観察するみたいに見てきた。

 えっ、な……なにごと!?

 

 もしかして俺、殺される!?

 調子に乗りましたごめんなさい許してーっ!?

 

「げ、玄弥のヤツ……テメェみたいなのが好みだったのか」

 

「へ?」

 

 ぼそっ、と実弥はつぶやくと意外にもやさしく……そぉっと俺を床に降ろしてくれた。

 な、なんかわからないけど許されたっぽい?

 

 カナエも「ほっ」とした様子で胸を撫でおろしていた。

 それから彼に言う。

 

「そろそろ弟くんのこと、認めてあげてもよいのではないかしら?」

 

「……ハッ! オレは……テメェとゼッテーに相容れねぇことがひとつある。それはテメェが、テメェの妹を鬼狩りにしたことだ」

 

 それまで実弥はカナエに赤くなるばかりで、まともに受け答えできていなかった。

 だが、その質問にだけは彼はハッキリと「否」を返す。

 

「どんな想いがあろうとも、家族を自分と同じ鬼狩りにするなんざ到底考えられねェ」

 

「実弥くん……」

 

「……」

 

 その言葉にカナエがどこか傷ついたような表情となる。

 それを見た実弥の表情も歪み……しかし、彼は決して今の発言を撤回しようとはしなかった。

 

 彼は弟である玄弥に危険なことをしてほしくないから――鬼狩りなんてやめてほしいから、そうやって彼を遠ざけようとしている。

 彼の辛辣な態度は愛情の裏返しなのだ。

 

 一方で、カナエはしのぶとふたりで戦うことを決めた。

 両者の想いは同じで、結果は対極だ。

 

「オレはもう行く。おいチビ、アイツにオレが来てたこと言うんじゃねェぞ。言ったらぶっ殺す」

 

 そう言い捨て、実弥は去っていった。

 直後、病室の中から三人娘のひとりの声が聞こえてきた。

 

「アオイさーん! 玄弥さんが目を覚ましましたー!」

 

 実弥はきっとその気配に気づいたから、この場を離れたのだろう。

 不死川兄弟が仲直りするのは、もうすこしだけ先になりそうだ――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。