TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
翌朝、俺は蝶屋敷の玄関でおかめ面が『刀鍛冶の里』へと帰るのを見送った。
そのまま自分の足で病室へと戻る。
今回は比較的浅い切り傷だけだったので、こうして歩き回ることに支障はない。
回復の呼吸を使い続けているため、あと数日もすれば全快するだろう。
「……ん?」
その道中のこと。
炭治郎たちが眠っている病室に差し掛かったとき、出入り口付近にとある人物を発見した。
鋭い三白眼に、顔や開襟された隊服から覗く全身に刻まれた傷痕。
間違いない、アレは……。
「あァ? なんだテメェ……なに見てやがんだ、あァン!?」
ひぇえええっ!?
まだなにもしてないのに、めちゃくちゃガンつけられてるぅ!?
彼の性格について俺は多少の知識がある。
それでも、こう至近距離でドスの効いた声を出されると多少ビビッてしまう。
「えっと――”不死川
俺は恐る恐るといった様子で、そう訊ねる。
彼こそが風柱――『風の呼吸』の使い手。
鬼殺隊の中でも行冥に次ぐ実力者であり……。
そして、玄弥のじつの兄でもある。
「はじめまして、わたしは幸代まふゆといいます。この蝶屋敷で、しのぶさんやカナエさんのお世話になっていて……」
「カナエに?」
「え? はい。どうかしたんですか?」
「あ、あァ……いや、そうかァ」
実弥の視線が俺の首元へと向く。
そこにある蝶柄のマフラーを見て、俺の言葉が事実であることを認めたようだった。
しかし、なぜゆえカナエひとりだけ名指し?
よくわからないが……まぁ、いろいろあるのかもしれない。
「それで、今日は弟さんのお見舞いにいらっしゃったんですか?」
「……!? チっ、そういうんじゃねェ。そもそもアイツはオレの弟なんかじゃねェよ」
実弥はそう冷たく言い放つ。
彼の玄弥に対する態度は非常に辛辣だ。
なんとか、ふたりの仲を今のうちに改善できればよいのだけど……。
と、そんなことを考えていたそのときだった。
「どうしてそんなふうに言うの? 悲しいわ。そんなことを言っては、弟くんがかわいそうよ~」
「っ!? か、カナエ……!?」
ウワサをすれば影。
カナエが「もう~」とかわいらしく頬を膨らませ、腰に手を当てながらそこに立っていた。
「……ん?」
と、そこで気づいた。
なぜか実弥の顔が真っ赤になって、挙動不審になっていた。
不思議な反応だ。
でもこれ、どこかで見たことがあるような……と考えて気づいた。
「あっ、玄弥とそっくりなんだ」
「……なッ!?」
あー、そっかー。兄弟だもんなー。
どうりでそっくりなわけだ。
きっと実弥も玄弥と同じく、思春期なのだろう。
21歳でそれはちょっと遅い気もするが、まぁそういうこともあるか。
「うんうん……」
「おいクソガキァ、テメェなにか失礼なことを考えてんじゃねェだろォな? チビだろうがオレゃあ容赦しねェ! ぶっ殺すぞ!?」
「こーらっ、小さい子を脅すんじゃありません」
「~~~~っ! ……っ、……っ!」
カナエにたしなめられた実弥はなにか反論しようとして、しかし言葉が出てこないようだった。
最初、ちょっと怖い気がしたけど……意外とそうでもないかも?
心強い用心棒がいることもあって、俺はちょっと調子づいてくる。
すこしでも仲直りの一助になれば、と思い玄弥のエピソードを話す。
「玄弥も実弥さんと同じく、すごく照れ屋なんですよ。わたしとおしゃべりしてるときも、いつもそうやって顔を真っ赤にしていて……」
「――なんだと?」
「え? ……ひゃうっ!?」
「ちょ、ちょっと実弥くん!? まふゆちゃんに乱暴しちゃ……」
「……」
なぜか実弥は俺の首根っこを掴み上げると、じぃーっと観察するみたいに見てきた。
えっ、な……なにごと!?
もしかして俺、殺される!?
調子に乗りましたごめんなさい許してーっ!?
「げ、玄弥のヤツ……テメェみたいなのが好みだったのか」
「へ?」
ぼそっ、と実弥はつぶやくと意外にもやさしく……そぉっと俺を床に降ろしてくれた。
な、なんかわからないけど許されたっぽい?
カナエも「ほっ」とした様子で胸を撫でおろしていた。
それから彼に言う。
「そろそろ弟くんのこと、認めてあげてもよいのではないかしら?」
「……ハッ! オレは……テメェとゼッテーに相容れねぇことがひとつある。それはテメェが、テメェの妹を鬼狩りにしたことだ」
それまで実弥はカナエに赤くなるばかりで、まともに受け答えできていなかった。
だが、その質問にだけは彼はハッキリと「否」を返す。
「どんな想いがあろうとも、家族を自分と同じ鬼狩りにするなんざ到底考えられねェ」
「実弥くん……」
「……」
その言葉にカナエがどこか傷ついたような表情となる。
それを見た実弥の表情も歪み……しかし、彼は決して今の発言を撤回しようとはしなかった。
彼は弟である玄弥に危険なことをしてほしくないから――鬼狩りなんてやめてほしいから、そうやって彼を遠ざけようとしている。
彼の辛辣な態度は愛情の裏返しなのだ。
一方で、カナエはしのぶとふたりで戦うことを決めた。
両者の想いは同じで、結果は対極だ。
「オレはもう行く。おいチビ、アイツにオレが来てたこと言うんじゃねェぞ。言ったらぶっ殺す」
そう言い捨て、実弥は去っていった。
直後、病室の中から三人娘のひとりの声が聞こえてきた。
「アオイさーん! 玄弥さんが目を覚ましましたー!」
実弥はきっとその気配に気づいたから、この場を離れたのだろう。
不死川兄弟が仲直りするのは、もうすこしだけ先になりそうだ――。