TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第12話『師匠の死』

 

「……やっぱり、ダメでしたか」

 

 俺は地面に転がっていた。

 渾身の、とっておきの一撃だった。

 

 鞘で刀身を隠し、その長さが変化していることを悟らせない。

 そうして不意をつく作戦。

 

 しかし、縁壱はそれがはじめからわかっていたみたいに受け流してしまった。

 そのまま俺はコツンと小突かれ、あっさりと倒された。

 

 あはは、ここまでコテンパンだといっそ清々しいな。

 ほんと……最後の最後まで敵わなかったなぁ。

 

「……とても良い一撃だったよ」

 

「う、う、うわぁあああん!」

 

 涙が、嗚咽が溢れてくる。

 終わってしまった。最後の稽古が終わったのだ。

 

 これでお別れ。

 涙が止まらなかった。俺は声を上げて泣いた――。

 

   *  *  *

 

 それから、俺たちは一緒にご飯を食べた。

 最近はずっと俺が飯の当番だったが、その日ばかりは縁壱が料理を作ってくれた。

 

 米とみそ汁、それから漬物。

 はじめて出会ったときと同じメニューだった。

 

「私は今晩、ここを発つ。君は夜が明けてから出発しなさい」

 

 縁壱はそう俺に告げた。

 黙りこくっている俺の頭を、彼はやさしく撫でる。

 

 温かい手だった。

 しかし、スっと彼の手が離れてしまう。

 

 彼の手は戸にかけられていた。

 ガラリ、と音が響く。

 

「今まで本当にっ……お世話になりましたぁあああ!」

 

 気づけば、俺は縁壱の背へと頭を下げていた。

 泣きながら礼を述べていた。

 

 縁壱は、ただひと言……。

 

 

「これからも精進するんだよ」

 

 

 そう言い残して、去っていった。

 赤い月の夜だった。

 

 それが縁壱との――永遠の別れとなった。

 

   *  *  *

 

 翌朝、散々に泣きはらしたあと俺は小屋を発ち……。

 そして、目撃することになる。

 

「……ぁ」

 

 道の先になにかが散乱していた。

 真っ赤なそれは、バラバラになった人の血肉だった。

 

 そして、一緒に(あか)色の布切れも散らばっていた。

 俺はそれに見覚えがあった。

 

「……お師匠、さま?」

 

 それは縁壱が身にまとっていた羽織と同じ色だった。

 息ができない、信じられない。

 

「あ、あ、あ……あぁあああっ!?」

 

 俺はその肉片へと駆け寄った。

 取り乱しながら、必死にくっつけようとする。

 

 福笑いみたいになってしまっている縁壱の頭をもとに戻そうとする。

 だが、どれだけやっても元には戻らない。

 

 別人であってほしかった。

 けれど、自分の目から入る情報すべてがそれは本人だと告げていた。

 

「なんで、なんで、なんでっ……!」

 

 あきらかに人にできることではない。

 鬼だ、鬼がやったのだ。ここには鬼がいた気配が残っていた。

 

 死体はまるで恨みでも晴らすかのように、ぐちゃぐちゃに損壊させられていた。

 彼の死体を食わずに立ち去ったくらいだ、よほどの因縁があったのだろう。

 

「あぁぁっ、あぁっ、あぁあああっ……!」

 

 後悔が絶えない。

 

 どうして、縁壱をひとりで行かせてしまったのだろう?

 どうして、ムリにでも一緒について行かなかったのだろう?

 

 けれど、仕方ないじゃないか。

 彼が死ぬなんて微塵も想像できなかったのだから。

 

 あるいは彼は……自分が死ぬとわかっていたから、俺に別れを切り出したのだろうか?

 だが、そんなことは関係ない。

 

「鬼……鬼、鬼、鬼ぃいいいッ!」

 

 いつもそうだ。

 俺の、わたしの大切なものはすべてヤツらが奪っていく。

 

 許せない。俺が、わたしが許さない。

 憎い、憎い、憎い……!

 

「……」

 

 あるとき、ピタリと涙が止まった。

 まるで凍ってしまったかのように。

 

 それから俺は縁壱の死体を丁寧に埋葬した。

 手を合わせ、そして歩き出した。

 

 なぜ? 決まっている。

 やることがあるからだ。

 

 

 ――鬼を殺せ。

 

 

   *  *  *

 

「――キキキ、オマエだろ! 知ってるぜぇ! 死に装束のような白い着物に、(あか)い羽織……!」

 

「……」

 

 鬼が俺の前に立っていた。

 最近、こういうことが増えた。鬼のほうから、俺を狙ってやって来るのだ。

 

 それは、とても良いことだ。

 探す手間が省けるし、その分……鬼に襲われる人も少なくて済む。

 

「なんだよ、見るからに弱っちいな! 身体も小せぇし、顔色まで悪い。おいおい、ちゃんとメシ食ってんのかぁ? ちなみにオレはたらふく喰ってるぜぇ? 上等な人間の肉をよぉ!」

 

 鬼は下品な声で笑っていた。

 俺は無視してチャキン、と鯉口を切った。

 

「スゥゥゥ……」

 

「キキキ! 刀まで短けぇじゃねぇか! そんなんで、本当にオレの頸が斬れると――」

 

 

「氷の呼吸・伍ノ型――”居合い・雪景色(ゆきげしき)”」

 

 

「あ?」

 

 コトンと鬼の頸が落ちた。

 崩れるようにその身体が消えていく。

 

「……スゥゥゥ」

 

 俺はシャランと刀を鞘へと納めると、息を吐いた。

 吐き出した息は冬の冷気で白く濁った。

 

 

 あの日から……縁壱が死んだ日から、何年もの月日が経っていた――。

 

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