TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
実弥との会話を終え、俺も自分の病室へと戻り……眠ろうとした矢先のこと。
部屋の外から激しい怒鳴り声と、争うような音が聞こえてきた。
「……なにかトラブル?」
俺は休む間もなく身体を起こし、様子を見に行くハメになる。
音の発生源は炭治郎たちのひとつとなりの病室だった。
「大人しくしてください!」
「してたらどうなんだよ!? この腕が生えてくんのか!?」
どうやら患者として運ばれてきた隊士のひとりが暴れているらしかった。
アオイと三人娘たちは怯えながらも、必死に安静を促している。
だが男は完全に我を失っていた。
近くにあった水差しを掴むと、それを彼女たちへと投げつけ……。
「――女子どもに当たってんじゃねェよ」
水差しを受け止め、アオイたちを守ったのは玄弥だった。
助けに入ろうとしていた俺は、足を止めて様子をうかがう。
女子どもに当たるな、か。
かつて最終選別で産屋敷家の女の子に乱暴を働いていた彼とは大違いだった。
「利き腕がねェなら、もう一方の手で刀を握りゃァいいだろ。そっちの手もなくなったら、口で刀を咥えりゃァいい。少なくとも、オレならそうする」
「なっ……!?」
「その程度の覚悟もねェんなら、鬼殺隊なんざやめちまえ」
男はしばらく放心したあと、崩れ落ちて泣き出した。
それを見届けると、玄弥は自分の病室へと戻っていく。
俺はなんとなく、隠れてそれを見送った。
そんな玄弥に三人娘のひとりが付き添っていた。彼女は……。
「――すみ」
「え? はい」
「……いや、なんでもねェ」
玄弥はポツリと彼女の名前を呼んだ。
しかし、スッと目を逸らす。そんな彼を見て、すみは……。
「あの、どうかされましたか?」
「なにがだ?」
「いえ、その……まるで泣いていらっしゃるように見えたので」
「……!」
まだケガの残っている玄弥をすみがベッドへと寝かせながら言う。
……俺には全然わからなかった。
けれど、彼女には彼の心が見えているようだった。
彼はジッと向けられた視線に負けたように答える。
「そんなんじゃねェ。ただ……すこし、兄ちゃんとケンカしちまってな」
「そうですか」
「
玄弥は意外なほどやさしい笑みを、すみへと向けていた。
無意識にだろう、彼女の頭へと手を伸ばし撫でている。
それから「ハッ」として、手を引っ込めた。
「わ、悪ィ……」
「なんだか今の玄弥さん、すこし『お兄ちゃん』っぽかったです」
「――っ! オレにも……」
玄弥の声は震えていた。
今度は俺にも、彼が今……はっきりと泣きそうな顔をしているのがわかった。
「オレたちにも妹がいたんだ。名前は……」
「――”
「えっ? それって……私と同じ名前、ですか?」
「あぁ、そうだ」
玄弥がやけに、すみへとやさしい目を向けていると思ったら……そういうことだったのか。
彼女はそんな彼へと頭を下げた。
「さきほどは助けてくださって、ありがとうございました」
「っ……! おうっ……、おうっ……!」
玄弥は何度もうなずきながら、片手で顔を覆った。
指の合間からボロボロと零れる涙が見えた。
亡くしてしまった――守れなかった妹を今度は救えた。
もしかしたら彼は、そんな風に感じたのかもしれない。
これ以上の盗み見は無粋だな。
そう思い立ち去ろうとしたとき、彼は涙を拭いながら言った。
「なぁ、すみ……お前、本気でオレの妹になる気はねェか?」
「えっ!?」
「た、たとえばの話だ! たとえば! ……テメェらにとってまふゆは姉みたいなもんだろ?」
「……ん?」
「そんで、おおおオレがまふゆとつつつ付き合っ……ゴニョゴニョで、そのっ、オレが義理のお兄ちゃんになったりしたらうれしくねェか!? なっ!?」
「……玄弥さん?」
「いや、むしろ今、呼んでみてくれねぇか!? おおお、お義兄ちゃんって!?」
「……不死川さん、ちょっとキモチワルイです」
すみがススーっと距離を取っていた。
玄弥、なぜそこでっ!? 途中まではめっちゃいい雰囲気だったのにっ!?
呼びかたまで他人行儀にされてしまっているし……。
なお、当の本人はまったく気づいていない様子で、「よしっ」となにかを決意していた。
「な、なァ……オレに協力してくれねェか? どうすればアイツと仲良くなれると思う!?」
「……とりあえず、女の子との接しかたは学んだほうがいいと思いますー」
呆れたようにすみが言う。
ん? あれ? もしかして玄弥が仲良くなりたいのって、俺なのか?
『刀鍛冶の里』での態度的に、てっきり避けられているとばかり。
でも……うん、俺も玄弥は女の子への接しかたを学んだほうがいいと思う。
「それは努力するしかねェな。あとは?」
「最低でもカナヲさまよりは強くなる必要があるかとー」
「カナヲ? って、しのぶさんの継子の? なんでソイツの名前が出てくるんだァ?」
「……なんとなくですー」
「ふーん、そうかァ。まァいい。……どのみちオレァ強くなるつもりだからよォ」
それから玄弥は声を低くした。
さきほどまでの、すこし冗談めいていた雰囲気ではない。
「里からここへ運ばれる道中で聞いた。アイツ、たったひとりで上弦の壱とやりあった――食い止めてたんだってな。オレたちゃあ、3人がかりでも敵わなかったっつーのによォ」
なんか、ここでも誤解されてるー!?
否定したいが、ここで出て行ってしまうと話を聞いていたことがバレてしまう……!?
「負けてられねェ」
玄弥は握った己の拳を見下ろし、そうつぶやいていた。
すみは彼に寄り添い「玄弥さんならきっと強くなれますー」と励ましていた――。
* * *
それから蝶屋敷では毎日のようになにかしらの事件が起きていた。
たとえば、日の光を克服した禰豆子が外で遊んでいたり。
伊之助がケガをして蝶屋敷にやってきて……。
「伊之助!」
「いもすけ?」
「親分、伊之助!」
「おやぷん・いのすけ!」
と、禰豆子に名前を一生懸命に覚えさせたり。
あとは、三人娘のひとりである、きよの髪飾りが野生のカラスに盗まれたり。
それを探しに伊之助は山にこもったり。
そしたら今度は、その間に善逸がケガをして蝶屋敷にやってきて……。
「――おかえり、いのすけ」
と、禰豆子に名前を間違えられて伊之助を逆恨みしたり。
伊之助が髪飾りを見つけてようやく帰ってきたり。
カナヲも任務から戻ってきて……。
俺や玄弥を合わせて、ひさしぶり? はじめて? 同期が全員揃ったり。
俺たちはそんな騒がしい日々を過ごしていた。
そして、ケガも全快したころ……。
「幸代まふゆさま、しのぶさまがお呼びです」
「え?」
蝶屋敷にやってきたカクシの人にそう言われた。
おそらくは例の件についての話だろう。
でも、なぜに人づて?
そう首を傾げていると、カクシは言った。
「私とともにお越しください。これからあなたを……」
「――産屋敷邸へとご案内させていただきます」