TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第121話『vs.不死川実弥』

 

 俺の”柱”昇格を認めるか否か。

 それは実弥との決闘――その結果に託されていた。

 

「ま、待ってくださいっ! まだっ……!」

 

「しのぶよォ、テメェがやってきたことを『他人はするな』じゃァ筋が通らねェだろ」

 

「っ……」

 

「ハッ、まァ安心しろ。どのみちコイツはオレの手で失格の烙印を押してやる。だから黙って見ていやがれェ……!」

 

 いよいよか。

 ごくり、と緊張で唾を飲み込む。

 

 間違いなく実弥は強者だ。

 だが俺も負けてはいない。

 

 すこし前までの俺ならとても敵わなかっただろうが、今はべつ。

 なにせあの『上弦の壱』に食らいつけたのだから。

 

 そう……。

 この俺の愛刀さえあれば、たとえ彼が相手であろうとも――。

 

「ほらよォ」

 

「……んん?」

 

 俺はポンと投げ渡された木刀を反射的にキャッチし、固まった。

 実弥もまた自身の日輪刀を呼び寄せた(カクシ)へ預けると、スッと木刀を構えた。

 

「え、えーっと?」

 

「なんだァ、今さらビビってんのかァ? あァん!?」

 

「こうなった以上は仕方ありません。まふゆ、刀は預かっておきます」

 

「えっ。あ、はい……」

 

 つい、しのぶに自身の日輪刀を渡してしまう。

 ……じゃなくて!?

 

「いやあの、決闘って木刀で!?」

 

「もちろんです。基本的に隊員同士のケンカはご法度ですから。それでも打ちどころが悪ければ大事になります。……どうか気をつけて」

 

 いや、考えてみたらそりゃそうだよね!?

 真剣で斬り合いなんてさせられないよね!?

 

 俺は手に持った木刀をジッと見下ろす。

 さっきまで腰にあった愛刀と比べると、めちゃくちゃ重く感じる。

 

 ダラダラと汗が流れだしていた。

 あ、あれー? もしかしなくてもこれ結構ヤバいのでは?

 

 あまねが俺たちのちょうど真ん中に立つと、スッと手を上げた。

 俺たちを交互に見ながら尋ねる。

 

「両名、準備はよろしいですか?」

 

「いつでも構いません」

 

 実弥が言う。

 俺は全然、構わなくないんだが!?

 

 しかし、今さら引けない。

 なんとかしてこの条件で結果を残すしかない。

 

「わ、わたしも大丈夫です」

 

「では……」

 

 

「――はじめ!」

 

 

 あまねの手が振り下ろされた。

 同時に実弥の姿が消えた。

 

 いや、ちがう。

 そう錯覚するほどの速度で、俺のすぐ脇まで駆け抜けてきていた。

 

「っ……!?」

 

 『上弦の壱』と比べれば大したことないだろう、なんて考えは甘かった。

 想定よりも数段、速い!

 

 一拍遅れて、彼が蹴った地面にあった砂利が散弾銃みたいにまき散らされるのが見えた。

 な、なんていう脚力!?

 

 

「風の呼吸・捌ノ型――”初烈風斬(しょれつかざき)り”」

 

 

 すれちがいざま、渦のような斬撃が叩き込まれてくる。

 俺は受け身を取る余裕もなく、転がるみたいに身体を投げ出してギリギリでそれを躱した。

 

「思ったより見えてやがるなァ」

 

「っ!? ――はぁっ、はぁっ……!?」

 

 荒い息を吐きながら、自分の頸に手を当てる。

 今……俺は死んでいた。

 

 実弥も「さすがに死んでしまうといけないから」と攻撃の瞬間すこし手を抜いた。

 だから、躱せた。

 

 が、もし全力で振り抜かれていたら回避は間に合わず、今ごろ俺は……。

 クソッ、なにをやってるんだ!

 

 俺はいつも油断される側だった。

 だれよりもそれの恐ろしさを知っているはずだったのに。

 

 でも、今ので頭が切り替わった。

 そもそも相手のほうが強いのだということを、ようやく思い出す。

 

「オラオラァッ! 次々行くぞォ! どこまでやれるか見せてみやがれェッ!」

 

「くっ……!?」

 

 実弥の攻撃に、俺は風に煽られる木っ端のごとく右往左往する。

 刀が重い。

 

 それに『上弦の壱』と戦っていたときと比べて、身体の動きそのものが鈍い。

 だんだんと、周囲で見ていた柱たちの目にも失望の色がチラつきはじめる。

 

「どうしたァ!? テメェの実力はそんなもんかァっ!?」

 

「うっ……ぐっ……!?」

 

 攻撃を受け流すたびに衝撃が刀を通して腕に伝わり、しびれをもたらす。

 このままではジリ貧だ。

 

 腕にダメージが蓄積して、技を放つことすらできなくなる。

 今、動くしかない。

 

 俺は賭けに出た。

 雄たけびを上げながら、一歩前に踏み出す。

 

 

「氷の呼吸・参ノ型――”雪崩(なだれ)”ぇえええ!」

 

 

 『氷の呼吸』、唯一の剛剣。

 これで強引に相手の連撃を断ち切り、流れをこちらに引き込む……。

 

「オイオイ、最後になにを見せてくれるのかと思えばただの破れかぶれかァ」

 

「……ぇ?」

 

 カンっと軽い音が鳴った。

 それだけだった。

 

 たった、それだけで……俺の渾身の一撃はあっさりと軌道を逸らされていた。

 刀に振り回されるみたいに、俺はバランスを崩して転び……。

 

「……これで終わりだァ」

 

 

「風の呼吸・壱ノ型――”塵旋風(じんせんぷう)()ぎ”」

 

 

 まるで竜巻のような斬撃が俺の全身へと襲いかかる。

 灸をすえる――そんな意味があったのだろう。

 

 食らえば明らかに無傷ではいられない攻撃。

 だが、それでも……やはり”配慮”という名の甘さが出ていた。

 

 だって――俺が弱かった(・・・・)から。

 

 あぁ、そうだ……これが俺の戦いかただ。

 だんだんと頭が冷えてきていた。

 

 瞬間、俺はより深く――全集中の呼吸を行った。

 血が高速で巡り、身体が今までよりも数段速く動く。

 

 

「氷の呼吸・肆ノ型――”霜走(しもばし)り”」

 

 

「なっ……!?」

 

 その緩急による落差は、眼前にいた実弥には消えたかのように錯覚しただろう。

 もっとも予備動作が少ない『肆ノ型』――音もなく地面を蹴り、俺は彼の背後に回り込む。

 

「テメっ……さっきまで全力じゃっ……クソがァあああ!」

 

 

「風の呼吸・陸ノ型――”黒風烟嵐(こくふうえんらん)”」

 

 

 しかし、実弥の反応速度はすさまじかった。

 回り込んだ俺に合わせて、すぐに技を切り替えて放ってきていた。

 

 身体を捻り、斜め下から掬い上げるように斬り上げてくる。

 それはドンピシャで俺の木刀の腹を叩き――カァアアアン! と澄んだ音が響いた。

 

 蓄積していた手のしびれもあって、俺の木刀は手からすっぽ抜け宙を舞っていた。

 そのまま彼は俺の頸へと刃を添えて……。

 

「オレの勝ちだ」

 

 

「いいえ――わたしのほうが速かったです」

 

 

「あァん?」

 

 木刀を失った俺の手には、代わりにクナイが握られていた。

 そのクナイは――彼の開襟された胸部へと突きつけられていた。

 

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