TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
実弥の木刀が俺の頸に添えられていた。
俺の握るクナイが彼の胸部に突きつけられていた。
「フザケてんじゃねェぞ、幸代まふゆ。オレたちは鬼殺隊だ。そんなクナイじゃ鬼の頸は落とせねェ。そもそも腹なんぞ刺しても鬼には意味がねェ。素直に認めやがれ、テメェの負けだァ」
そんな実弥に「……いえ」と横から否定の言葉が飛んでくる。
発したのはしのぶだった。
「おそらく、そのクナイには藤の花から抽出した毒が塗られています」
「あァん?」
「以前、宇随さんに頼まれて調合したことがあります。そして、まふゆは宇随さんのところで忍術の手ほどきを受けたことがありますから……」
「だからどうしたァ。だとしても、クナイじゃあオレは止められねェぞォ!」
「そのとおりです。でも、不死川さん……今、あなたが言ったんです。『オレたちは鬼殺隊だ』と。あなたは止められなくても――鬼の動きは止められます」
「ッ……!」
しのぶの言葉に実弥は「しまった」という風に顔を歪めた。
そんな彼に小芭内が舌打ち混じりに言う。
「バカが。余計なことを言わなければお前の勝ちだったものを、不死川」
「……あァクソがァ」
悪態を吐く実弥に俺は言った。
「不死川さんはすごく速かったです。けれど――宇随さんはもっと速かった」
以前、天元のもとで修業を受けているときに自慢されたことがある。
「オレは派手に柱の中で1番足が速い」と。
ちなみに2位は今、俺が戦った実弥であり……。
その後に行冥、しのぶと続くらしい。
「……チッ」
実弥は舌打ちしてその事実を認めた。
さて、ひと段落着いたところで……俺は内心で叫んだ。
――柱相手に真正面から戦うのキッツぅううう!?
不意打ち前提の俺を正面から戦わせないでくれ!?
最後のほうはなんとかついていけたが……。
勝てたのは実弥がとくに油断してくれていたおかげ。
なぜなら――彼は稀血だ。その中でも特別のレアモノ。
彼の血の匂いを嗅いだ鬼は酩酊状態になり、冷静さを失う。
そんな特性を最大限に利用するためか、彼はあえて鬼の攻撃を受ける戦闘スタイルをしている。
彼が隊服を開襟しているのもそのため。
肌を露出させ、あえて鬼に狙わせるためだ。
そのせいか彼は、致命傷にならない攻撃に対する反応がすこし鈍かった。
あえて敵に切らせて罠にハメようとするクセがあった。
それで俺のクナイにも一瞬反応が遅れた。
もしかしたら、彼以外が相手だと負けていたかもしれない。
「はッ、テメェに宇随の代わりが務まるとまでは思わねェ。だが……最低限の力はあるらしいィ。機転も利くようだしなァ。オレに対して――
実弥がそう言って木刀を放り捨てると、
いや、手加減なんてしていないのだが……。
まぁ弱いフリはしたし、序盤はたしかに調子が悪かったけど。
そんなことを考えていると、ふと実弥の視線が俺の顔に留まる。
「テメェ、その頬……」
「え? あっ……汗を掻いたから。これは古傷なので気にしないでください」
化粧が落ちて、頬についた『氷の結晶』のような傷が露出してしまっていたらしい。
俺はマフラーを引きあげてそれを隠した。
そういえば、調子のよかった『上弦の壱』との戦いでも化粧が落ちていたっけ。
いやまぁ、関係ないだろうけど。化粧の有無で強さが変わるなんて考えられないし。
「……」
実弥はなにやら考え込むようにジッと黙り込んでいた。
そんな彼に代わるように、小芭内が諦めたように肩をすくめる。
「ふんっ、こうなった以上は仕方あるまい」
「……そうだなァ。で、しのぶよォ。コイツの勝利を擁護したっつゥことはテメェも『認めた』でいいんだなァ」
実弥が言う。
あるいは、彼が剣を引いた本当の理由はそれだったのかもしれない。
思えば最初から、しのぶの心情をおもんばかって反対派に立っていたとさえ思える。
彼はその口調とは裏腹にだれよりもやさしい……。
「私は……まふゆがこれほどまでに戦えるだなんて、知りませんでした」
「しのぶさん……ごめんなさい。わたしは力を隠していました」
「いえ、事情があったのでしょう。それに……見てわかりました、あなたがどれほどの努力をしてその領域まで辿りついたのかを。いかにして、そのような戦いかたを身につけたのかを」
「……」
「私にはあなたを止める権利はありません」
「すいません。それから……ありがとうございます」
「いえ」
剣技を見ればわかる。
俺たちが同じ問題を抱えながら……それでも、剣を捨てなかったことは。
「勝負、あったようですね」
あまねが言った。
それから俺たち全員を見渡して、問う。
「
だれからも手は挙がらなかった。
そして、彼女は宣言する。
「ではここに……」
「――
どこからともなく、拍手が聞こえてくる。
全力で「きゃーっ!」「めでたい! めでたい!」と叩いているのが蜜璃と煉獄。
それから、しのぶもささやかに手を叩いてくれていた。
やさしい笑みで「おめでとう」とささやいてくれる。
「幸代さまには、氷の柱――”
「今後はそのように名乗ってください」
「謹んで拝命いたします」
そうして俺は”柱”になった。
しのぶに日輪刀を返してもらい、腰に差す。
そこに刻まれていた”悪鬼滅殺”の意味が、ようやくわかった気がした――。