TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
柱稽古の4つ目。
俺が小芭内のもとへ訪れたとき、まさにカナヲは彼と戦っている最中だった。
「……強すぎる」
カナヲは瞳孔の開ききった目で小芭内を見据えながら、的確に攻撃を加えていく。
軽い身のこなし……そしてなにより、すさまじい反応速度だった。
小芭内の攻撃はまるで蛇みたいに曲がり、掴みどころがないが……。
彼女はそれらをすべて、その超人的な反応速度で出先をつぶしていた。
すなわち――曲がる前にすべての攻撃が抑えられてしまっている。
これでは彼の持ち味は完全に殺される。
そうなると、さしもの彼も防戦一方だった。
そのとき……。
「あっ」
ついに小芭内がカナヲの攻撃に耐え切れずにバランスを崩した。
……かに見えた。
カナヲは反射的にそこへと攻撃を叩き込み……そして直後にそれが失策であったと気づいた。
木刀を手元に引き戻そうとするが間に合わない。
小芭内がバランスを崩したように見せたのはフェイクだった。
逆に隙を晒してしまったカナヲの――伸びきった腕に彼の木刀が叩き込まれ……。
「……ありがとうございました」
「……ぜぇっ、……はぁっ」
淡々と言うカナヲに対して、小芭内は息が荒くなっていた。
今の試合、勝ったのは彼だった。
しかし、勝負の内容はカナヲの圧勝だった。
たしかに彼女は戦いの中で判断ミスをしたが……。
逆にいえば、その小芭内はそのミスに頼らなければ勝てなかった。
絡め手に頼らなければ勝てない――そう彼が判断したのだ。
「……お前、名前は」
「栗花落カナヲです」
「その蝶の髪飾り、胡蝶のところのやつだな。継子か?」
「はい」
「そうか。わかった、もういい」
「……?」
「お前は合格だと言ったんだ。さっさとほかの柱のところへ行け」
「でも、まだ1回しか」
「いいから、行け」
「……わかりました」
礼儀正しくお辞儀をしてから、カナヲは振り返って……それで「あっ」と声をあげた。
集中していて、俺がいたことに今まで気づかなかったらしい。
「あの、まふゆ……」
「……」
「この前はごめんなさい」
カナヲが深々と頭を下げる。
しかし、俺はそれどころではない。
「私……必ず、まふゆを守れるくらいに強くなるから」
カナヲの声が耳に入ってこない。
さっきの試合は異常だった。
小芭内は柱の中では決して強いほうではない。
だが、最弱でもない。
今のカナヲは間違いなく柱の実力に迫っていた。
まだ経験が足りないため実戦では劣る部分もあるだろう。
だが、あるいは、もしかしたら……相手によっては。
具体的にいうと……。
――カナヲはすでにしのぶを越えている。
……かもしれない。
伸びしろを考えれば、むしろ俺よりも柱にふさわしかったのでは? とも思った。
10人目の”柱”とも称すべき実力者。
タイミングがちがえば、先に柱になっていたのは彼女のほうだったかもしれない。
「まふゆ?」
「おわっ!?」
いつの間にか、彼女の顔が俺の眼前にあった。
俺はビックリしてたたらを踏む。
「まふゆ? どうかしたの? やっぱりまだ、怒ってる?」
「う、ううん。そんなことないよ」
「そっか、よかった……! あっ、そうだ。遅くなったけど、”柱”昇格おめでとう!」
「ありがとう」
いつものカナヲに戻っていた。
俺は「ホっ」と息を吐いて……ふと、気づいた。
「あれ? なんかカナヲ……スカート短くなってない?」
「……やっぱりそうかな? でも”前田さん”は身長が伸びただけだって。それで相対的に短くなったように感じるだけだって」
「絶対ウソだ!?」
「あっ、でも恥ずかしいって言ったら”きゅろっとぱんつ”? っていうのにしてくれて。ほら、間のところが繋がってて……ズボンになってるから大丈夫だよって」
「騙されてる! 騙されてるよカナヲ!?」
しかし、そんな秘密があったのか。
原作でもだんだんと丈が短くなっていっていたし、最初はあきらかにスカートの描写だったのにいつの間にかキュロットパンツという設定になっていたが……そういうことだったのか。
「まぁ、わたしも今日まで甘露寺さんのところで、レオタード着せられて困ってたけど……」
「”れおたあど”?」
「あ、そっか。カナヲはまだなんだ? こーんなピッチリとした服で……。玄弥なんて女の子慣れしてないから、わたしのそのカッコ見て鼻血出しちゃって」
「……!? そ、そんな服装……なの!? まふゆの”れおたあど”姿、見たかった……」
「え、いや。なにもそこまで落ち込まなくても」
カナヲがズーンと沈んでいた。
いや、そんな見ても楽しいものじゃないと思うんだが。
「それよりカナヲ、次の稽古に行かなくていいの?」
「あっ、そうだった……。まふゆはこれから蛇柱さまの稽古なの?」
「うん」
「がんばってね! 私もがんばるから!」
「……うん」
「じゃあね」
言って、カナヲは去っていく。
俺はその背中を見送り……しばらく、動けなかった。
「……まふゆちゃんはどう思う?」
と、そこへ横から声がかかってくる。
やさしい音だ――すぐにだれかわかった。
「カナエさん」
そこに立っていたのはカナエだった。
俺と同じく、心配げにカナヲの去った方向を眺めている彼女に問う。
「カナエさんはご存じなのではありませんか?」
「どうして――カナヲがあそこまで
俺は直感していた。
カナエはその答えを知っている、と――。