TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
小芭内との柱稽古を終えた俺は、次の稽古に向かう……前に、蝶屋敷へと寄ることにした。
というのも、彼との稽古が激しすぎてすこしケガをしてしまったからだ。
「つ、疲れた……伊黒さん、絶対わたしで憂さ晴らししてたでしょ」
カナヲにいいようにやられたストレスの発散に付き合わされた気がする。
めっっっちゃ粘着質に、何度も何度も戦わされた。
まだ、俺を正式に”柱”としては認めてくれてなかったのも理由のひとつだったろう。
本当に徹底的にしごかれた。
『ふんっ……この程度で柱を名乗るつもりか。笑わせるな』
『もっと相手の嫌がることを考えろ。相手にうっとうしいと思わせろ』
『お前ひとりで勝つ必要はない。相手のジャマになることだけに徹しろ』
とまぁ、ネチネチネチネチと……。
言葉もそうだが、戦いかたもネチネチしたものを教えてくれた。
「でも……正直、どの稽古よりも有用だったかもしれない」
俺にとって、鬼を
それは縁壱にも教えてもらったことがなかった。
というより、戦国時代……俺が単身で戦っていた当時には使えなかった。
だから、彼も教えなかったのだと思う。
しかし、鬼殺隊に入った今ならべつ。
そして、そんな戦いかたは――俺に合っていた。
「いや、あの稽古自体がわたしとの相性がよかった」
というのも、障害物を躱しながら戦うという稽古において、俺は有利だから。
まさか……。
「身体がちっちゃいほうが――わたしのほうが有利だなんて、はじめての経験だったかも」
障害物を躱しながら戦ううえで、小さな身体はとても便利だった。
さらに言うと、俺は使用しているエモノも短い。
脇差ほどの長さ――練習用の木刀もそれに合わせて削ったものを使用している。
それもまた、障害物が多い状況だと有利に働いた。
この稽古、本当に俺にとって都合のいい条件ばかりが揃っていた。
おかげで今まで”弱さ”しかなかった自分の”強み”がわかった。
「障害物の多い場所で……あるいは障害物を用意して立ち回ることができたら、鬼との戦いをかなり有利に運べるかも」
そんなことを考えているうちに、蝶屋敷に到着。
アオイが出迎え、手当てをしてくれる。
「まふゆも、なかなか大変みたいね」
「うん。でも、ちゃんと成長してる実感はあるし、悪くはないよ」
「それならよかった。……はい、これでよし」
消毒などを済ませて包帯を巻いてもらい、具合を確認する。
うん、これならまたすぐに稽古に復帰できそうだ。
「ありがとう。ほかのみんなは?」
「もう大忙しよ! 柱の人たちって本当に容赦がないんだからっ!」
「あはは」
稽古中に出たケガ人の治療でてんてこまいのようだ。
だが、幸いタイミングがよかったらしく……。
「あぁ、でも……ちょうど今ごろ、しのぶさまはお昼休みに入られてるはずよ。せっかくだし、一緒にご飯を食べてきたら?」
「じゃあ、そうしてこよっかな」
そんな情報をもらって、俺は蝶屋敷の廊下を歩いた。
アオイの言っていたとおり、部屋で食事中のしのぶを発見する。
「しのぶさん。お昼、わたしも一緒にいいですか?」
「まふゆ、帰ってたのね。もちろん」
しのぶと向き合うように座って、俺も食事を摂りはじめる。
彼女はチラリと俺の包帯を見て言う。
「稽古は順調かしら?」
「はい。……伊黒さんだけちょっと、特別に厳しかったですけれど」
「あの人は……本当に、もう」
ピキピキとしのぶのこめかみに青筋が浮く。
これくらいの告げ口――意趣返しは許されるだろう。
「しのぶさんのほうはどうですか?」
「うふふ……あの人たちはきっと、ケガ人が出ても私たちが治療するから大丈夫、とか思っているんでしょうねぇ……」
「ヒィっ!? お、お疲れさまです」
「まふゆはなんにも悪くないのよ?」
もしかしなくても、鬼殺隊という組織が成り立っているのってしのぶのおかげなんじゃ?
彼女がいなかったら――蝶屋敷がなかったら、とっくに崩壊している気がする……。
「ところで、しのぶさんは柱稽古には参加されないんですか?」
「見てのとおり手が空いていなくて」
「そうですか」
「それに近々……いえ、なんでもありません」
いつも微笑みを絶やさないしのぶだが、今日は珍しくイラ立ちが顔に出てしまっていた。
その理由を俺は知っている。
彼女は「鬼と――”
理性では承知していても、感情は納得していないのだろう。
「でも、しのぶさんの体調が良さそうで安心しました」
「どうしてですか?」
「え? ……あっ」
俺は自分が口を滑らせたことに気づいた。
現在、しのぶの身体には……血液・内臓・爪の先に至るまで、高濃度の藤の花の毒が回っているはずだ。
そのため本来の歴史では、ずっと顔色が悪かった。
しかし、今はカナエが生きていることもあってか、比較的余裕がありそうで……。
それでついポロッと漏らしてしまったのだ。
だが、考えてみれば俺はその情報をまだ知らないはずで……。
「べつに私は風邪なんて引いていませんよ?」
だが俺は、そう言ってクスリと笑ったしのぶを見て――すさまじい違和感に襲われた。
なにかがおかしかった。
そして、ようやく違和感の正体に気づく。
これ、いくらなんでも……。
――
ドクンドクンと動悸がした。
キュウっと視界が狭まっていく。
もしかして、俺はとんでもない勘違いをしていたのでは。
そして、すでに……取り返しのない事態が起きてしまっているのでは?
いや、今までもいくつも兆候はあった。
俺が見落としていただけで。
「もしかして……」
「――しのぶさんは毒を飲んでいないんですか?」
気づけば俺は、震える声でそう問うていた――。