TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第130話『幼女教官』

 

 もしかして、しのぶは藤の花の毒を体内に取り込んでいないのか?

 そんな質問に彼女は呆れた顔で……。

 

 

「――毒を飲めだなんて、まふゆは私に死んでほしいのですか?」

 

 

 冗談でも言われたみたいに、笑った。

 勝利が、平和が……手から零れ落ちていく感覚。

 

 なぜこうなった?

 すでに手遅れにも関わらず、俺はその原因を考えずにはいられなかった。

 

 『上弦の弐』は非常に強力な鬼だ。

 同時に、女を喰うことに異様に執着があり意地汚ならしい、という特徴を持つ。

 

 そこでしのぶが選んだのが『己の肉体を丸ごとヤツに喰わせる』という作戦だった。

 彼女の肉体――体重37キロ分をすべて毒に変えて……。

 

 

 ――致死量の700倍の毒を叩き込む。

 

 

 いや……あれ?

 倒すのに必要なのは70倍の毒だっけ?

 

 ともかく、大量の毒を摂取させることでようやく弱体化させ倒すことができる。

 だが今の彼女はそれをしていなかった。

 

 べつに俺だって彼女の死が前提の作戦なんて肯定しているわけじゃない。

 ただ、心のどこかで思っていたのだ。

 

 ――最低限の保険はある、と。

 

 俺はもう鬼の恐ろしさを知っているから。

 たとえ相討ちであろうとも絶対にここで討伐しなければならないことを痛いほどに理解している。

 

 もし逃せば、いったいどれほどの人間が死ぬかわからない。

 だから、あくまでこれらの戦いは勝つ前提で、そのうえでどこまでいい結果を掴むのかに挑むものなのだと……そう心のどこかで甘く考えてしまっていた。

 

「今からじゃ間に合わない」

 

 全身を毒化させるには1年以上、藤の花の毒を摂取し続ける必要がある。

 だが……なぜだ?

 

 なぜ、しのぶはそうしていないんだ?

 カナエを殺されたカタキを取るためには、それが必要……。

 

「――っ!」

 

 あ、あぁあ……あぁあああっ!?

 そうだ、そうじゃないか。

 

 ――カナエは生きている(・・・・・)

 

 俺は理解した。

 今、目の前にいるのは本来の歴史とはまるでちがう人生を歩んだしのぶだ。

 

 考えてみれば当然だ。

 姉が生きているのだから当然、自分の命と引き換えにカタキを取ろうなんて考えるはずもない。

 

 ――このままでは童磨を倒せない。

 

 そして上弦の鬼を1体でも倒しそこねれば鬼殺隊は負ける。

 なにせ無惨ひとりでも全員でかかってようやく倒せる相手だ。

 

 なのに、そこに敵の増援が現れてしまえば……。

 無惨が生き延びるという最悪の結末が訪れる。

 

「まふゆ? さっきから、いったいどうしたの?」

 

 この世界では代わりに本来の歴史よりも戦力は多い。

 きっと大丈夫なはずだ。倒せるはずだ。

 

 ……本当に?

 

 はたして童磨はそれで倒せるような相手か?

 そのとき、ふとある考えが俺の頭に浮かんだ。

 

 焼け石に水かもしれない。

 でも……なにもやらないよりはずっといい。

 

「しのぶさんにひとつお願いがあります」

 

 理論上可能なはずだ。

 なぜなら俺はそれを、すでに一度経験しているのだから。

 

 700倍は難しいだろう。

 でも70倍くらいなら可能かもしれない。

 

 しのぶにできないなら俺がやるしかない。

 俺は覚悟とともに彼女に告げる。

 

「――――」

 

 内容を聞いたしのぶは猛烈に反対した。

 だが、それでも俺は根気強く訴え続け……やがて彼女は俺の説得に折れた。

 

 それから俺は数日間、柱稽古を休んだ。

 表向きの理由は『ケガの療養』だったが実際は『施術』のためだった。

 

「しのぶさん、ありがとうございます」

 

「っ……こんな戦術っ……絶対、使わせたりしませんっ! その前に必ずっ、決着をつけますからっ……!」

 

 この作戦のベースを考えたのはしのぶ本人なんだけどなぁ、と俺は苦笑する。

 彼女は今にも泣き出しそうな顔で俺を睨んでいた――。

 

   *  *  *

 

 俺はひさしぶりに柱稽古に戻ってきていた。

 次は5つ目……風柱・不死川実弥で無限打ち込み稽古だ。

 

 内容は至ってシンプル。

 ただひたすらに実弥に斬りかかっていくだけだ。

 

「うん。身体の調子は……今のところは大丈夫そう」

 

 そう確かめながら、目的地へと辿りつく。

 ただ、ちょうどお昼休憩中だったようで実弥の姿はなかった。

 

 まぁ、死屍累々に転がっている隊員たちの姿はいっぱいあったけれど。

 まずは屋敷の中に上がらせてもらおう……と、したそのとき。

 

 

 ――ドバゴォオオオンッ!

 

 

 障子が吹っ飛んで、中からだれかが転がり出てきた。

 それは……炭治郎と玄弥だった。

 

 炭治郎は骨折が残っていたので、1週間ほど遅れて柱稽古に参加したはずだったが……。

 俺が休んでいる間に追いついていたらしい。

 

 玄弥もついに、実弥の稽古に来ていたようだ。

 そして……俺はこのシーンに見覚えがあった。

 

「今、なんつった? テメェ……鬼を喰っただとォ?」

 

 炭治郎たちのあとに続いて出てきたのは、憤怒の形相をした実弥だ。

 大切な弟が……玄弥がそんなムチャな行為をしていたと知ってしまい、なにがなんでも鬼殺隊を辞めさせようと躍起になっている。

 

「どういうつもりですか!」

 

「再起不能にすんだよォ。ただしなァ、今すぐ鬼殺隊を辞めるなら許してやるぜ」

 

 炭治郎の言葉にそう実弥が返す。

 不死川兄弟の気持ちは、お互いを大切に想うがゆえに……ことごとくすれちがっていた。

 

 俺も慌てて止めに入ったが、ケンカはすぐに隊員全員を巻き込んだ乱闘へと変わった。

 そうなっては、さすがに俺にもどうすることもできず……。

 

   *  *  *

 

 気づけば、夕方になっていた。

 あたりはヒドイありさまだった。

 

 上から正式にお怒りを受けて、炭治郎たちと実弥は接近禁止が言い渡された。

 そして、俺はというと……。

 

 

「――氷柱さまには一時的に、風柱さまの代わりとして柱稽古を受け持っていただきます」

 

 

「……はいぃいいいっ!?」

 

 謹慎を言い渡された実弥の代わりに、隊員たちに稽古をつけることになってしまっていた。

 ななな、なんでそうなるぅううう――!?

 

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