TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第15話『忍法・雪隠れ』

 

 ガチガチと刃が、鬼の頸の表面で音を立てている。

 刃が通らないっ……!

 

「悲しいのう、悲しいのう。哀れなほどに非力じゃのう」

 

「ぐっ……!」

 

 刃が頸に当たったまま、鬼は平然とこちらへ歩み寄ってくる。

 ぐぐぐっ、と切っ先が押し返された。

 

「人間は弱いのう。こうして、すこし力を入れるだけで皮膚に傷をつけることすらできなくなる。中でもお前はとびっきりに貧弱じゃのう」

 

 わかっていた。

 いつかこんな日が来ると。

 

 俺には力がない。筋肉がない。

 この細く頼りない腕では――この鬼の頸は斬れない。

 

「っ……!」

 

 ギリっと歯を食いしばった。

 悔しさが抑えきれず、表情に出てしまう。

 

「わかったか? これが鬼と人間の差じゃ。人間は絶対に鬼には敵わぬ」

 

「……力じゃ鬼には敵わない。そんなこと知っている」

 

「では――」

 

「だけど! それが『勝てない』ということにならない!」

 

「なんじゃ、まだ諦めんとな? ……ふむ? おぬし、まだ策を隠し持っておるな?」

 

「……」

 

 俺は飛び退って、鬼との距離を取った。

 

 自分でも言っていたとおり、ヤツの身体……その硬度は一定ではない。

 最初、斬れていたのもその証拠だ。

 

 力の入っていないタイミングならば、攻撃は通じる。

 そして、すでに準備は整っていた。

 

 俺は下段よりもさらに下――()ずり下段から刀を振りあげる。

 それによって地面の雪が舞い上げられ、ヤツの視界を遮った。

 

 

忍法(・・)――”雪隠れ”」

 

 

 これは鬼殺しとしての技じゃない。

 戦国時代を生きる中で出会った、現役の”(シノビ)”に教わった技だ。

 

 現在こそが忍の全盛期。

 彼らの技は本物(・・)だ。

 

「ぬぅっ!? どこじゃ、どこへ消えよった!?」

 

 環境が俺に味方していた。

 横から叩きつけるように降る雪がヤツから視覚を奪っている。

 

 俺はまるでその白い世界に溶けるかのように、姿をくらませていた。

 真っ白なこの身体は雪山の景色によく馴染んだ。

 

「こざかしいマネを! 出てこい、出てこんか!」

 

 舞い散る雪の動きに呼吸を合わせる。

 気配を限界まで消す。

 

 そして、俺は地面を蹴った。

 死角から一気にヤツへと迫る。

 

 そのとき――ニヤリ、とヤツの表情が歪んだ。

 

「バカめ、せっかくの技が台なしじゃわ! おぬしの(あか)い羽織は白によう映える!」

 

 言って、鬼は拳を振り抜いた。

 縁壱の使っていた羽織は雪の中でも目立ってしまっていた――が。

 

「なっ、バカな!? 羽織だけじゃと!?」

 

 鬼は攻撃の直後だ。

 さらには動揺もしている。

 

 その身体が一瞬、緩んだのがはっきりとわかった。

 今なら――斬れる!

 

「氷の呼吸・壱ノ型……」

 

 

「――なぁんてのう?」

 

 

 グルリ、と鬼の頸が180度ぐるりと回った。

 

「……なっ!?」

 

 なんで、バレて……!?

 ありえない。間違いなく見えていなかったはずだ。

 

 それほど完璧に”雪隠れ”は決まっていた。

 なのに……!

 

「くっ!?」

 

 ゴォオオオ! と目の前で炎が上がっていた。

 強烈な熱が俺の肌を焼き、一瞬で眼球から水分を奪っていく。

 

 

「血鬼術――”発火式(はっかしき)(えん)”」

 

 

 炎を纏った鬼の拳が俺へと迫る。

 出そうとしていた型をギリギリで切り替えた。

 

 

「こ、氷の呼吸・陸ノ型――”六華(りっか)の舞い”!」

 

 

 すさまじい熱量。

 もし、この拳を受け流せなければ……死ぬ!

 

「ぐぅううう!?」

 

 刀身がギャリギャリと音と火花を散らした。

 なんという固さ! なんという力!

 

 ――だ、ダメだ……力を流しきれない!

 

 ムリに型を変えたから体勢が十分じゃなかった。

 いや、そうでなかったとしても……これは!

 

 身体が押し込まれていく。

 そして……。

 

 ――ドォオオオン!

 

 すさまじい爆発音が響いた。

 身体が吹き飛び、(まり)のごとく何度も地面を跳ねて雪の上を転がった。

 

「ぐはっ……っぷはぁっ!? ……ぜぇっ、はぇっ!?」

 

 呼吸が途切れる。

 汗が一気に噴き出していた。

 

 ふと背後の景色が視界に入り、俺は思わず目を見張った。

 

「なんだ、これは」

 

 そこは、えぐり取られてなにもなくなっていた。

 降り積もっていたはずの雪が一瞬で消え、赤く熱された地面が露出していた。

 

 もし食らっていたら、骨すら残らなかったかもしれない。

 

 余波だけでもすさまじいダメージだった。

 全身が痛くてたまらない。

 

「なんじゃい、もろいのう。直撃しとらんのに、ずいぶんと重症ではないか」

 

 衝撃がいまだに手に残っている。

 ガチガチと震えてしまって力が入らない。

 

 うまく刀を握れなかった。

 吹き飛ばされたとき、取り落とさなかったのはほとんど奇跡だと思った。

 

 いや、ちがう……これは奇跡なんかじゃない。

 これまでの鍛錬と執念がそうさせたのだ。

 

 鬼が笑いながら燃える手のひらをこちらへと向けてくる。

 

「ほれほれ、うさぎ狩りじゃあ! 避けい、避けい!」

 

「っ!」

 

 次々と炎が飛んでくる。

 俺は転がるようにして、それをなんとか躱し続けた。

 

 身体はあっという間に泥と煤にまみれていった。

 息が苦しい。身体が痛い。傷や火傷が増えていく。

 

「ぜぇっ、はぇっ……うぐっ!?」

 

 惨めだった。

 俺は弄ばれていた――。

 

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