TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
ガチガチと刃が、鬼の頸の表面で音を立てている。
刃が通らないっ……!
「悲しいのう、悲しいのう。哀れなほどに非力じゃのう」
「ぐっ……!」
刃が頸に当たったまま、鬼は平然とこちらへ歩み寄ってくる。
ぐぐぐっ、と切っ先が押し返された。
「人間は弱いのう。こうして、すこし力を入れるだけで皮膚に傷をつけることすらできなくなる。中でもお前はとびっきりに貧弱じゃのう」
わかっていた。
いつかこんな日が来ると。
俺には力がない。筋肉がない。
この細く頼りない腕では――この鬼の頸は斬れない。
「っ……!」
ギリっと歯を食いしばった。
悔しさが抑えきれず、表情に出てしまう。
「わかったか? これが鬼と人間の差じゃ。人間は絶対に鬼には敵わぬ」
「……力じゃ鬼には敵わない。そんなこと知っている」
「では――」
「だけど! それが『勝てない』ということにならない!」
「なんじゃ、まだ諦めんとな? ……ふむ? おぬし、まだ策を隠し持っておるな?」
「……」
俺は飛び退って、鬼との距離を取った。
自分でも言っていたとおり、ヤツの身体……その硬度は一定ではない。
最初、斬れていたのもその証拠だ。
力の入っていないタイミングならば、攻撃は通じる。
そして、すでに準備は整っていた。
俺は下段よりもさらに下――
それによって地面の雪が舞い上げられ、ヤツの視界を遮った。
「
これは鬼殺しとしての技じゃない。
戦国時代を生きる中で出会った、現役の”
現在こそが忍の全盛期。
彼らの技は
「ぬぅっ!? どこじゃ、どこへ消えよった!?」
環境が俺に味方していた。
横から叩きつけるように降る雪がヤツから視覚を奪っている。
俺はまるでその白い世界に溶けるかのように、姿をくらませていた。
真っ白なこの身体は雪山の景色によく馴染んだ。
「こざかしいマネを! 出てこい、出てこんか!」
舞い散る雪の動きに呼吸を合わせる。
気配を限界まで消す。
そして、俺は地面を蹴った。
死角から一気にヤツへと迫る。
そのとき――ニヤリ、とヤツの表情が歪んだ。
「バカめ、せっかくの技が台なしじゃわ! おぬしの
言って、鬼は拳を振り抜いた。
縁壱の使っていた羽織は雪の中でも目立ってしまっていた――が。
「なっ、バカな!? 羽織だけじゃと!?」
鬼は攻撃の直後だ。
さらには動揺もしている。
その身体が一瞬、緩んだのがはっきりとわかった。
今なら――斬れる!
「氷の呼吸・壱ノ型……」
「――なぁんてのう?」
グルリ、と鬼の頸が180度ぐるりと回った。
「……なっ!?」
なんで、バレて……!?
ありえない。間違いなく見えていなかったはずだ。
それほど完璧に”雪隠れ”は決まっていた。
なのに……!
「くっ!?」
ゴォオオオ! と目の前で炎が上がっていた。
強烈な熱が俺の肌を焼き、一瞬で眼球から水分を奪っていく。
「血鬼術――”
炎を纏った鬼の拳が俺へと迫る。
出そうとしていた型をギリギリで切り替えた。
「こ、氷の呼吸・陸ノ型――”
すさまじい熱量。
もし、この拳を受け流せなければ……死ぬ!
「ぐぅううう!?」
刀身がギャリギャリと音と火花を散らした。
なんという固さ! なんという力!
――だ、ダメだ……力を流しきれない!
ムリに型を変えたから体勢が十分じゃなかった。
いや、そうでなかったとしても……これは!
身体が押し込まれていく。
そして……。
――ドォオオオン!
すさまじい爆発音が響いた。
身体が吹き飛び、
「ぐはっ……っぷはぁっ!? ……ぜぇっ、はぇっ!?」
呼吸が途切れる。
汗が一気に噴き出していた。
ふと背後の景色が視界に入り、俺は思わず目を見張った。
「なんだ、これは」
そこは、えぐり取られてなにもなくなっていた。
降り積もっていたはずの雪が一瞬で消え、赤く熱された地面が露出していた。
もし食らっていたら、骨すら残らなかったかもしれない。
余波だけでもすさまじいダメージだった。
全身が痛くてたまらない。
「なんじゃい、もろいのう。直撃しとらんのに、ずいぶんと重症ではないか」
衝撃がいまだに手に残っている。
ガチガチと震えてしまって力が入らない。
うまく刀を握れなかった。
吹き飛ばされたとき、取り落とさなかったのはほとんど奇跡だと思った。
いや、ちがう……これは奇跡なんかじゃない。
これまでの鍛錬と執念がそうさせたのだ。
鬼が笑いながら燃える手のひらをこちらへと向けてくる。
「ほれほれ、うさぎ狩りじゃあ! 避けい、避けい!」
「っ!」
次々と炎が飛んでくる。
俺は転がるようにして、それをなんとか躱し続けた。
身体はあっという間に泥と煤にまみれていった。
息が苦しい。身体が痛い。傷や火傷が増えていく。
「ぜぇっ、はぇっ……うぐっ!?」
惨めだった。
俺は弄ばれていた――。