TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「かぁっかっかぁあああ!」
鬼の笑い声が雪山に響く。
ヤツはわざと、俺がギリギリで躱せるような攻撃をしてきていた。
なぶって楽しんでいる。
それができるくらい、俺とヤツとの間には力の差が存在していた。
「……ぁ」
だが、やがて俺は足をもつれさせて転んでしまう。
近くに敵の攻撃が着弾し、俺は木っ端のごとく吹き飛ばされた。
「か、はっ!? ぁ……、ぅぐ……」
「もう終わりかのう? まったく、あっけないのう!」
俺は地面に倒れ伏していた。
そんな俺を見て、鬼はバカにするように笑っている。
クソっ、クソっ……!
俺はなんて弱いんだ! なんで、こんなにも……!?
「は、ぁ……はぁっ、……ぐ、うぅ……」
「おぉ、まだ立つか! しかし、ずいぶんとツラそうじゃのう?」
なんとか立ち上がりはしたものの、もはや満身創痍。
立っているだけで精一杯で、身体もフラフラと揺れて安定しない。
それでも、縁壱に叩き込まれた教えが俺の身体を動かしていた。
チャキ、と刀を構えていた。
「かかっ、悪くない! 最後の一瞬まで、わしを楽しませよ!」
「う、う、うわぁあああっ!」
俺は地面を蹴った。
まっすぐに鬼へと向かって突貫していく。
「なんじゃ、最後は破れかぶれか。つまらんのう。こんな攻撃、当たるはずもなかろう」
余裕がある。そう思ったのだろう。
鬼はまるで見せつけるかのように、俺の攻撃をギリギリで躱そうとした。
……ありがとう。
と、俺は心の中で呟いた。
俺を侮ってくれて。あざけってくれて、ありがとう。
そして、よかった……。
――俺が
おかげで――勝てる。
「スゥゥゥゥゥゥ!」
瞬間、俺は乱れたフリをしていた呼吸を整えた。
鬼が「ハッ」と気づくが、あきらかに反応が遅れていた。
ギリギリまで引き絞っていた力を開放する。
まっすぐ前へと腕を突き出した。
「全集中・氷の呼吸・壱ノ型――”
面よりも線、線よりも点。
圧力は、かかる面積が狭いほどに高まる。
力のない俺では鬼の頸は斬れない。
だが、点の攻撃……突きでなら、正面からでもヤツの固い皮膚を突破することができる。
「それがどうした! まだ回避は間に合う! 恨むなら、己の短い手足を恨むんじゃのう!」
ヤツは度重なる俺の攻撃で、しっかりと刃渡りを覚えていたらしい。
ギリギリで届かないと見切っていた。
たったの一寸……3センチが、この小さな体躯には途方もなく遠かった。
だからこそ……。
――この技は当たる。
「なんじゃ、これは……なぜ切っ先がわしに触れている!? なぜ届いておる!? なぜ――刀身が伸びておるぅううう!?」
突き技だからこそ、鬼は当たるまで気づけなかった。
正面から刀身の長さを推し測ることは非常に難しい。
「――”
俺は呟くようにその技の名前を告げた。
縁壱との最後の稽古でも見せた、とっておきだ。
これは『型』には存在しない――俺のオリジナル。
水分を凍らせて氷の刃を作り、刀身を伸長させたのだ。
腕の長さが足りないからこそ……刀の長さが足りないからこそ、生まれた技。
そして、この技は氷のように透明な日輪刀だからこそ成り立っていた。
それらは非常によく馴染み、一目では氷で作られた刃だと気づけない。
「届けぇええええええ!」
「ぬぅうううううう!?」
刃を押し込む。
鋭い切っ先がヤツの体内へとズブズブと入っていき、そして……。
「――っ!?」
「……おやぁ?」
刀がピタリと止まっていた。
切っ先はたしかにヤツの身体に突き立っていた。
しかし、それは――たったの1センチにも満たない、ほんのわずかだけだった。
ヤツの胸部からツーっと一筋の血が流れている。
だが、それ以上はどれだけ力を込めても刃は入っていってくれない。
「そんな、ウソ……」
今の俺に出せる最大の威力だぞ!?
なのに、たったのこれだけなんて!?
いくらなんでも硬すぎる!
いや、ちがう……俺が非力すぎるんだ。
「いやはや、驚かされたわい。刀が伸びるとはまっこと面妖な! で、それがなんじゃ?」
「このっ、このっ! 刺さってよ……刺さって! お願いだからっ……!」
しかし、刃はビクともしなかった。
ようやくここまできたのに、こんな……。
「……はぁ、弱いのう。本当に弱いのう」
鬼が哀れみさえ込めた目で、俺を見下ろしていた。
「これがおぬしの奥の手だったんじゃろう? 斬れぬなら突く……まぁ、悪くはないのう。じゃが、それでもこの程度」
「黙れっ!」
「そもそも、鬼に刺し傷など意味はない。四肢切断でもないかぎり、傷など瞬く間に治るからの」
「このっ……!」
「哀れじゃのう」
ガシっと鬼が俺の両肩を掴んだ。
ミシミシっと肩の骨が軋む。
「~~~~っ!?」
あまりの痛みに、言葉にならない声が出た。
鬼は自身の胸元に刺さった刀に視線を落として、言ってくる。
「おぬしは間違いなく、わしが今まで戦った鬼狩りの中でもっとも強い。それにこのような愉快な技まで持っておる」
「こんのっ……バカに、しやがって!」
愉快だって? ふざけるな!
この技は、お前を楽しませるために身につけたわけじゃない!
「はっ、ずいぶん、と……運がよかった、んだね……。わたしみたいな、弱い……鬼狩りにしか出会ったことがない、だなんて……」
「かかっ! 息も絶え絶えのクセに、まだ減らず口が叩けるとはな! 気まで強い……おぬしには”心”と”技”が揃っとる。じゃが、それでも勝てぬ。なぜかわかるか?」
「それは――おぬしが人だからじゃ」
「おぬしには強靭な肉体が……”体”が欠けておる」
「ぅぐっ!?」
鬼の鋭い爪が肩に食い込む。
白い着物にじわぁっと血の赤が滲んでいた。
……うるさい、うるさい!
そんなことはお前に言われなくたって知っている!
「じつに悲しい。頸を落とさぬかぎり、わしは死なぬ。しかし、おぬしにはそれができるだけの力がない。つまり……おぬしでは絶対にわしは殺せぬ」
「……っ」
鬼は顔を近づけ、俺の目を覗き込んでいた。
鼻先が触れてしまいそうなほどの距離。
ボコボコと沸騰するヤツの眼球が視界いっぱいに広がっていた。
それがニィっと……まるで三日月みたいに細められた。
「おぉ、そうじゃ! ひとつだけ解決できる、良い方法を思いついたぞ!」
「なにを……」
「――おぬしも鬼になればええ」
鬼は醜く歪んだ笑みを浮かべていた――。