TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「おぬし、わしになにをした!? どういうことだ、炎が出ぬ……わしの体温が異様に低い!?」
鬼は愕然とした様子で自身の身体を見下ろしていた。
ヤツはすぐに立ち上がったが、不調はあきらかだった。
「あなたが油断して、わたしの攻撃を何度も受けてくれたおかげだよ」
「氷の呼吸・番外――”
斬りつけるたびに相手の体内に蓄積されていた冷気。
それは、まるで”
「お前を殺す」
殺意を込めて、俺は鬼を睨みつけた。
重ねて告げる。
「殺す」
足を踏み出し、鬼へと近づく。
「殺す!」
刀を構える腕に力を込める。
「――殺す!」
「ヒィっ!?」
次の瞬間、鬼は情けない声を上げてビクッと後ずさった。
ヤツは間違いなく今、俺に怯えた。
こんなちっぽけな人間に。
幼くて、か弱い……女の肉体である俺に。
「……は? わしは今、なにをした?」
鬼は自分の行動に気づき、愕然とした様子で呟いた。
強者と弱者が逆転していた。
「まさか、このわしがこのような小娘に? いや、ありえぬ……そんなわけが!?」
俺がさらに1歩、鬼へと近づいた。
ヤツがまたビクリと後退していた。
「な、なぜじゃ……なぜ、こんな瀕死の人間にわしが怯えねばならぬぅううう!?」
俺はそんな鬼の様子に……。
「――ははっ」
と、笑った。
「知らなかった。強者っていつもこんな景色を見てたんだね」
そうか、こんなものが……。
だれかから
「いつもわたしが怯える側だったから。これまで、わたしに怯えるほど……あなたほど情けない鬼は、さすがにいなかったから」
あぁ、ほんと最悪の気分だ。
こんなのが強者の見る景色というなら、俺はずっと弱者でいい。
「ふざけるなキサマぁあああ!? わしを見下すなぁあああ! 絶対にただでは済まさぬぞ! 殺す、殺してやるっ!」
「あはっ……弱い者ほどよく吠えるとは、うまいこと言ったもんだね。口では威勢のいいことを言ってるけど、わたしに1歩も近づこうとしないんだ?」
「~~~~っ! キサマ……キサマぁあああ――ヒっ!?」
ダン! と俺は強く1歩踏み込んだ。
鬼の喉から、また情けない悲鳴がこぼれた。
「こんな、こんなことがあってたまるか。わしは鬼じゃぞ……鬼なんじゃぞぉおおお!」
そのとき、ハっとしたように鬼が振り返った。
つられて視線を向けると、いつの間にか遠くの空が明るくなりはじめていた。
「ぬぅっ!? もう朝か! いつの間にそんなに時間が……ええいっ、仕方あるまい! 勝負は次回に持ち越しじゃのう!」
「逃げるの? わたしから?」
「ふざけるな! わしは太陽から逃げるんじゃ! かっかっかっ!」
鬼のクセに、ヤツは朝がきたことに助けられたような表情をしていた。
逃げるための言い訳を見つけられた、と言わんばかりだった。
「絶対に逃がさない。必ずここで殺す」
「バカが! わしの
「待てっ!?」
「かっかっか、残念じゃのう! おぬしにわしは討てんかったんじゃあ!」
「このっ……卑怯者がぁあああっ!」
”雪中花の毒”が効いているはずなのに、驚くほどの足の速さだった。
鬼の発言は事実だった。
「おぬしのことは明日の夜――十全に回復してから殺してやる! かかっ、人間は不便じゃのう! 傷を癒すのに何週間、何ヶ月とかかるんじゃから!」
ダメだ、このままじゃ逃げられる!
回復されてしまう!
こいつを討つチャンスは今、この瞬間しかないのに!
なのにっ……!
「かぁっかっかぁあああ!」
鬼の背中はあっという間に遠ざかっていった――。
* * *
「……おやぁ? かかかっ、気配がない! 逃げ切った! わしの勝ちじゃ!」
鬼は雪の降る真っ白な世界を駆けながら、ひとり勝ち鬨を上げていた。
その視線を空へと向ける。
「じゃが……、ちぃっ! もう日が昇ってしまうのう。これ以上は移動できぬ」
そう言いながらあたりを見渡すと、ちょうど近くに洞窟があった。
「仕方あるまい。今日はここで身体を休めようぞ。ヤツもこれだけ離れれば、わしを見つけるなどできまいて。かかかっ! 吹雪がきれいに足跡を消してくれたわい」
そう洞窟へと歩み寄っていく。
それはまるで勝者の凱旋のようだった。
「あのガキめ……よくも、よくも! わしにあのような屈辱を! 絶対に許さぬ! 日が沈んだらすぐに殺しに行ってやる。必ず、わしの手で殺――」
「氷の呼吸・壱ノ型――”
鬼の腹から透明な刃が生えていた。
ブシュウウウ! と血が吹き出す。
「ぁ、が……ぐぁあああっ!? な、なぜ――なぜキサマが
「言ったでしょ? お前は絶対に逃がさない!」
俺は油断していた鬼の身体に、背後から刀を突き刺していた――。