TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第2話『前世の記憶』

 

「お……お母さん! お母さんっ!」

 

 わたしは笠も蓑も……炭を入れていたカゴもすべて投げだして、燃える我が家へと駆け寄った。

 近づくとそれだけで、あまりの熱に身体がジュッと焼けそうになる。

 

「うっ!?」

 

 ダメだ、中に入れない!

 そんなとき、燃え盛る家の中からだれかが出てきた。

 

 母が脱出してきたんだ!

 そう期待とともに視線を向け……しかし、その母とは似ても似つかぬ大きな体躯を見て固まる。

 

「お母さん……じゃ、ない」

 

「あぁん?」

 

 やけに派手な色の着物を纏った男だった。

 と、そこで違和感を覚えた。

 

 この男はどうして、これほどの炎に包まれているのに平気そうなんだろう?

 いや、そもそもこの男は本当に……。

 

 

「――人間、なの?」

 

 

「……ほう? なかなかええ勘をしとるのう、そこな娘」

 

 目が合った。

 瞬間、ひゅうっと喉の奥が鳴った。

 

 わからない。

 けれど、本能が「逃げろ」と叫んでいた。

 

 しかし恐怖にすくんだ身体は、わたしが逃げ出すことを許してはくれなかった。

 

「ぁっ……」

 

 足がもつれてべしゃんっと地面に転んだ。

 力が入らない。立ち上がれない。

 

 チョロチョロと音が鳴って、下半身が濡れていた。

 

「臭いのう、まったく……食事の前じゃというのに。おぬしはあとで焼いて消毒せねばいかぬな」

 

「……焼いて(・・・)?」

 

 恐怖でカチカチと歯を鳴らすばかりだった口が、そのときばかりは動いた。

 それだけは聞き逃せなかった。

 

 気づけば、わたしは問うていた。

 

「も、もしかして……あなたが、わたしの家を焼いたの?」

 

「そうに決まっておろう。家も、それからその中にいた――この女ものう」

 

「……ぁ」

 

 言われて、わたしは男の手元へと視線を落とした。

 手に持っているものに気づく。

 

 ……いや、本当はずっと前からわかっていた。

 ただ認めたくなかっただけ。認められなかっただけ。

 

 男の手にあったのは……。

 

 

 ――こんがりと焼けた母の頭だった。

 

 

「わしは昔から、肉も魚も生は好かんかった。こんがり火を通したのが好みでな。そして、今は――焼いた人間の肉がなによりの好物じゃわい」

 

「そん、な……お母、さん?」

 

 焼けただれていようとも、自分の母の顔を見間違えようはずもない。

 男はわたしの言葉にうれしそうな表情をした。

 

「おぉ! なんじゃおぬし、こやつの娘じゃったか! かっかっか、それはよい! じつによい! 大切な者の前で見せつけながら肉を喰らうと、一層にうまくなるからのう!」

 

 男がわたしに近づいてくる。

 そして、焼けた母の顔を目の前に突きつけてきた。

 

「ほれ、どうじゃ? ええ焼き加減じゃろ? 香ばしいのう、ええ匂いだのう」

 

「ひっ……ぁ、あっ……」

 

 男は大きく口を開いた。

 待って、やめ――。

 

 

 ――バキっ! メリ、ムシャ、モグ……。

 

 

 目の前で、頭蓋骨ごと母の頭が欠けた。

 中から脳みそがこぼれて、ボトっと地面に落ちた。

 

 バリボリ、クチャクチャと咀嚼音が響いていた。

 それは一生、耳にこびりつきそうなほどにイヤな音だった。

 

 やがて、男はペッと母だったものを吐き出した。

 ベチャっ、とソレがわたしの頭にかかった。

 

 男はただひと言、感想を述べた。

 

 

「――マズイ」

 

 

「あ、あ、あぁあああーーーー!?」

 

「かぁーぺっぺっ! まったく……このように質の悪い肉、わしが食うには値せぬわ。じゃが……かっかっか! おぬしの悲鳴はなかなか悪くない! 愉快じゃ、愉快じゃ!」

 

「あぁあああ、あぁあああーーーー!?」

 

「じゃが、いかんのう。この村の人間はどいつもこいつも。途中で何人かつまんだがどれもマズすぎる。骨と皮ばかりで、脂がまったく乗っとらん」

 

「あぁー、あぁー、あぁーーーー!?」

 

「頭ならうまいかもと思ったが、脳みそまで栄養が足りとらんようじゃ」

 

「あぁあああぁあああぁーーーー!」

 

「いつまで叫んでおる」

 

「むぐっ!?」

 

 顔面をわし掴みにされる。

 口元が覆われ、身体はぶらんと宙で揺れていた。

 

 ジタバタと暴れる。

 必死に男の手を剝がそうとするが、まるで岩のようにビクともしない。

 

「おぬしの悲鳴にも、もう飽いた。そろそろ殺すか」

 

「――っ!?」

 

 本気だ。この男は人の命なんてなんとも思っていない。

 それが直感的にわかった。

 

 男がわたしの頭を握る手に力を入れた。

 ミシリと頭の中に音が響いた。

 

「~~~~ッ!」

 

 あ、頭が割れる……!

 痛みで身体がビクンビクンと痙攣しはじめる。

 

「ほれほれ。もっとがんばって抵抗せねばあっさりと砕けてしまうぞ? ……っと、うん?」

 

 もう限界だ……砕ける! と思った瞬間、唐突に男は手を離した。

 わたしは地面を転がり、激しい頭の痛みにのたうち回った。

 

 でも、なんで急に解放されたんだろう?

 そんな疑問とともに男を見上げると、彼はじっと地面に視線を向けていた。

 

「かっかっか、おもしろいものを見つけたぞ。決まりじゃ、この村を――滅ぼす」

 

「なにを、言って」

 

「よろこべ、死ぬ前によいものを見せてやろう」

 

 男は地面に両手をつけた。

 ゴォオオオ! とすさまじい熱がその身体から立ち上り……。

 

 

血鬼術(・・・)――”発火式(はっかしき)(えん)”」

 

 

 男はそう言葉を口にした。

 

「……”血鬼術”?」

 

 なんだ、それは。

 いや……わたしは、それを知っている(・・・・・)

 

 なにか、既視感のようなものがわたしを襲っていた――。

 

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