TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
刃が、背後から鬼の身体を貫通していた。
ヤツが肩越しに俺を見下ろして叫ぶ。
「バカな、ありえぬ! さっきまで
そう――”目”だ。
俺はずっと不思議に思っていた。
ヤツはあまりにも勘が鋭すぎたから。
”忍法・雪隠れ”が効かなかった。
それともうひとつ……俺の、わたしの故郷を焼いたときのことだ。
なぜヤツにはマグマ溜まりのある場所がわかった?
理由はひとつ……。
「待て。お主の身体、いったいどういうことじゃ? ありえぬ、あまりにも――
冷たい。
つまりは――”温度”だ。
この鬼は通常の視覚に加えて、もうひとつの
熱を感知できる能力を備えていたのだ。
ゆえに、奇襲が通用しなかった。
そして、今回は……逆にそれを利用した。
「まさかキサマ……呼吸で、空気と同じ温度まで
「あぁ、そうだよ」
ヤツはよほど、その目に自信を持っていたのだろう。
逃げる最中、一度も振り返らなかった。
いや、もし振り返ったとしても、通常の視覚では俺を見つけることは困難だったろう。
この吹雪でなにかを見つけるのは至難の業だ。
ヤツのような――派手な着物でも纏っていないかぎり。
「わしの目をかいくぐるために、そこまで!? バカな、死ぬ気かキサマ!?」
気温は氷点下に達している。
当然、そこまで温度を下げた俺の皮膚は凍っていた。
「なぜ、その状態で動ける!? なぜ、まだ死んでおらぬ!?」
「温度を下げたのは体表だけだ」
「じゃとしても、そんなことをすれば身体にどれだけの負荷がかかることか!」
「だからこそ、お前の不意を突けた」
俺はニィィィと笑みに顔を歪ませた。
凍っていた顔の皮膚がバキバキとヒビ割れ、血が噴き出した。
だが、もはや痛みなど感じなかった。
「こ、この狂人がぁあああッ!」
そのとき、ついに太陽の光が差し込んでくる。
日向が広がり、どんどんと影を侵食しはじめていた。
「ま、マズい!? このままでは……このっ、刀が抜けぬ! 手を離せぇいっ!?」
鬼が必死に暴れる。
だが、俺が刀身から冷気を送り込み続けているせいで、その動きは鈍い。
「く、クソう! こうなったら……!」
鬼はズルズルと俺を引きずったまま移動をはじめた。
洞窟へと逃げ込もうとしている。
「逃が、すかぁあああ!?」
「ぐぅううう!? 日がっ、日がぁあああ!? 焼ける、灰になるぅううう!」
ジュゥウウウと鬼の身体が太陽に焼かれはじめていた。
あとすこし! あとほんのちょっと堪えれば俺の勝ちだ!
だが……。
「か、かかっ! やったぞ! 今度こそ勝った! わしは生き残ったんじゃぁあああ!」
鬼は洞窟へと辿りついてしまっていた。
その全身は日に焼かれ、爛れていたが……まだ死んではいなかった。
俺は殺しきることができなかったのだ。
「吹雪で日の光が弱まっとった! そのおかげで間に合った! あとほんのすこし、おぬしに力があれば……その身体が重ければ、結果はちがったかもしれんがのう! かかっ!」
「っ……!」
「それで、おぬしはここからどうするつもりじゃ? たしかにわしは弱っとる。じゃが、おぬしの片腕……もう、ほとんど力が入らんのではないか?」
そのとおりだった。
焼かれ、折られた左腕は柄に添えているだけで精一杯。
「万全の状態でも、何度も打ちつけねば斬れなかったんじゃ。今のおぬしには、もはやわしの頸を斬る術など残っておるまいて!」
悔しいがそのとおりだった。
俺にはもうヤツの頸が斬れない。
「あとは、わしはただ待つだけでよい。己の回復を……あるいは、おぬしが弱るのをのう!」
「スゥゥゥ……はぁ、くっ……、スゥゥゥ……」
「ほぅら、早くも呼吸が乱れてきよった。そらぁそうじゃろう。わしの動きを止めるほどの冷気を送り続けるには、すさまじい体力を使うはずじゃ」
鬼は現在、日の光に当たったダメージと、俺が送り込む冷気で動きを封じられている。
しかし、どちらか片方でも欠ければ、ヤツはすぐさま動き出す。
そうなれば、俺の細首など一瞬で刎ねられる。
さすがに俺も、こう密着していては攻撃を躱すことなど不可能。
「さぁ、先に限界が来るのはどっちじゃ? 呼吸か、体温か……ほれ、唇が真っ青じゃぞ? どうじゃ諦めては? わしが温めてやるぞ、かかっ!」
「はぁ……スゥゥゥ、はぁ、はぁっ……」
「もう受け答えする余裕もないか! さぁて、いつまでもつかのう?」
あまりの寒さで、カチカチと歯の付け根が合わなくなってくる。
身体が震え、手足の感覚もほとんどない。
だが、手を離すわけにはいかない。
こいつを殺せるチャンスはもう今しかないのだから。
だから、どうか俺の限界がくる前にだれか――。
「――『だれか早く来てくれ』かのう?」
「……っ!」
「なんじゃ、まるで心でも読まれたかのような反応は。もし、それが唯一の希望だとしたら……残念じゃのう? おぬしに助けなど決して来ぬ」
「……なん、で」
「どれだけ山奥まで来たと思っとる。痕跡も残ってない。なにより、このあたり一帯にだれもいないことは、この
鬼もそれがわかっていたから、この洞窟で休もうとしていたのだろう。
ここなら夜まで見つからないと踏んだからこそ。
「だから言ったんじゃ! わしの勝ちじゃとなぁ! もし、おぬしに仲間でもいよったらべつじゃったがのう!」
「仲間……」
だが、もう遅い。
どうやら本当に、俺に勝ち目は残っていないらしい。
鬼の言うとおり、助けが来るよりも先に俺の限界が訪れるだろう。
「……そうか」
「かっかっかぁあああっ! ついに諦めよったか!」
「いいや、逆だ。おかげで覚悟が決まった」
勝てないなら――