TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
覚悟は決まった。
俺は『氷の呼吸』を全開にした。
「スゥゥゥウウウっ!」
「なっ、冷気がさらに増して!? バ、バカかおぬし!? なにを考えておる!? これ以上体温が下がれば、キサマ……本当に死ぬんじゃぞ!?」
「うん、そのつもり」
「なに?」
「――わたしは、わたしの命を諦める」
「は? キサマ、いったいなにを言って?」
「わたしにはもうお前の頸を斬るだけの力が残ってない。だから、お前にはわたしと一緒に氷漬けになってもらう。永遠に眠ってもらう」
死の恐怖はなかった。
ただ、使命感と納得だけがあった。
――俺の命はこのときのためにあったのだ、と。
今、ここで死ぬために生まれてきた。
そのために前世の記憶を取り戻したのだ。
「お前は、わたしの命と引き換えにしてでも、今ここで殺す!」
「ふ、ふざけるなキサマぁあああ! やめい! 離せ! 刀からその手を離さんかぁあああ!?」
鬼の身体が腹部から徐々に凍りついていく。
「クソがぁあああ! 死んでたまるかぁあああ!?」
ゴォオオオ! と、鬼の身体が再び熱を帯びはじめる。
鬼の身体がゴキリと回って、俺の首に手をかける。
ジュゥウウウ! と肉の焦げる臭いがした。
「キサマと心中なんぞ、ごめんじゃぁあああ! その前にキサマを殺してやるぅううう!」
喉が焼ける。
呼吸するたびに激しい痛みが俺を襲う。
ヤツの体内で俺の送り込む冷気と、熱気とがせめぎ合っていた。
漏れ出た熱が周囲を灼熱の地獄へと変えていた。
「死ねぇえええいっ! 血鬼術――”
鬼の身体から噴き出した熱が、洞窟の内壁をドロドロに溶かしていく。
それは、まさしく地獄の光景。
あらゆる地獄の熱がここに集まっているかのようだった。
「――懐かしい」
あのときもこうだった。
こんな洞窟……横穴の中で熱に耐えていた。
「くそう! なぜじゃ! なぜこやつは燃えぬ!? なぜまだ力尽きない!?」
「気づかないの?」
「なにを!?」
「お前は熱を生み出し続けてる。けれど……わたしはただ、熱を逃がしてるだけだって」
「なっ!?」
そこには圧倒的な効率の差が存在する。
だから鬼であるこいつに、人間の俺が対抗できている。
鬼は疲れ知らずのケガ知らずだ。
だからといって無限に力を使えるわけじゃない。
「凍る……わしの身体が、凍っていくぅううう!」
凍結の範囲が徐々に広がっていく。
ピシリ、ピシリと鬼の身体に亀裂が入りはじめていた。
同時に俺の身体をも冷気は侵食している。
もう身体中ほとんど完全に凍ってしまって、歩くこともできない。
それでも――刀を握るこの手だけは緩めない。
「これで、本当に終わりだ」
「氷の呼吸・奥義・零ノ型――”
絶対零度を生み出し、相手を永久の眠りへといざなう技。
己ごと敵を凍結させる『氷の呼吸』の奥義――いや、最終手段である。
「わたしと一生に地獄へ落ちろぉおおおッ!」
「じ、自殺志願者がぁあああ! 死にたいならひとりで死ね! わしを巻き込むなぁあああ!」
鬼の身体が、俺の身体が凍っていく。
やがて、凍結は鬼の首元にまで到達し……。
――炎が、止んだ。
熱を放っていた鬼の手足は、まるで冷えた溶岩のごとく真っ黒に固まっていた。
そして、凍ったヤツの首には……ピシィッと大きな亀裂が走っていた。
「そんな……わしは、死ぬのか?」
ボロボロと手足の先から鬼の身体が崩れはじめていた。
ヤツはその凍りゆく顔を歪め、泣き喚いていた。
「ふ、ふざけるな!? やめろ、消えたくない! イヤじゃ、死ぬのはイヤじゃあああ!? わしはこれからも、おもしろおかしく生きるんじゃあ!? 家族と一緒に……、家族?」
ふと、鬼の表情が固まった。
ぽつり、となにかを思い出したかのように呟く。
「そうじゃ、わしの名前は……」
そんな言葉を最後に、鬼は崩れて消え去った。
俺はついに勝ったのだ。
――やったよ……お母さん、みんな。わたし、ついに
いつしか洞窟内の灼熱は収まり……それどころか、凍りはじめていた。
そして、ガラガラと音を立てて崩れてゆく。
――お師匠さま、見ていてくれましたか? 今から、わたしもそっちに行きます……。
洞窟が完全に崩落するのと同時に、俺の全身も完全に氷漬けとなった。
心肺が停止する。
こうして俺は第2の人生に幕を下ろした――。
……そのはずだった。
「――もしも~し、大丈夫ですか~?」
そんな声が聞こえるまでは――。
これにて戦国時代が終了!!
次章から――大正時代がはじまります!!