TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
閑話1『天下の大泥棒』
――
ケンカでは負け知らず。
子どもの時分から、大人にじゃって負けたことがなかった。
そんな、ある日のことじゃ。
「ありがとう、本当にありがとう。おかげで助かりました」
「……ああん?」
わしが殴り飛ばした相手がどこぞのお偉いさんじゃった。
しかも、ずいぶんとあくどいことをやっとったらしく、大勢に感謝された。
人からそんなに礼を言われたのははじめてじゃった。
じゃから、わしは思った。
――わしが人よりも強く生まれてきたのは、このためではないか? と。
それから、わしは己の力を大義のために使うようになった。
圧政を行う金持ち連中から義賊として盗みを働いては、貧しいものへと富を再分配した。
いつしか、わしは”天下の大泥棒”とまで呼ばれるようになっておった。
だが、ある日……いきなり、わしは捕えられた。
密告されたんじゃ。
そして――大釜で、生きたまま油で煮られた。
妻や子ども、父や母まで一族郎党みんなまとめて、だ。
公開処刑だった。
「どうか家族だけは救ってくれ! 悪いのはわしだけじゃ!」
そう、見物に来ていた……自分がこれまで助けた者たちへと懇願した。
じゃが、だれも助けてはくれなんだ。
「わしのしたことは、いったいなんじゃったのか?」
結局、わしは妻や子の苦しみを長引かせないために……。
――自分の手で家族の頭を油の中へと沈めた。
じゃが、結果的にそれで家族の遺体が”下敷き”になってしもうた。
熱が伝わらず、身体が特別に頑丈だったわしだけが夜になっても死ねずにいた。
見物人どもは、そんなわしを「鬼」と呼んだ。
家族を踏み台にしてでも自分だけは生き残ろうとする悪鬼じゃと。
「憎い、憎い、憎い……!」
すべての人間が憎くて仕方がなかった!
そんなときじゃ――”あの方”がわしの前に現れたのは。
「――力をやろう。お前の恨み、存分に晴らすといい」
そうしてわしは本物の”鬼”となった。
力を与えられたわしは、その晩のうちに見物人を皆殺しにした。
それから、わしを密告した男のもとを訪れた。
わしを密告したのは、かつて金を分け与えてやった相手じゃった。
復讐のためではなかった。
ただ、不思議でならんかったんじゃ。
わしには思いつかなかったから。
「なぜ、わしを売った?」
「だ、だって……」
「――オレの取り分が少なかったから」
「……は?」
わしには、聞いてもその答えの意味が理解できなかった。
そやつは言った。
「だ、だってアンタやほかのヤツらだけズルいだろ。オレはこれっぽっちしかもらえなかったのに。なぁ、わかるだろ? だから、どうか許し――ぎゃぁあああッ!?」
「そんなことで、キサマは……わしからすべてを奪ったのかぁあああッ!?」
わしはそやつを焼き殺した。
それから、わしがこれまでに金を分け与えた相手も順番に殺して回った。
間違っていた。
わしが間違っていたんじゃ。
「他者のため――そんな行為はすべて無価値じゃ!」
もう他人なんぞどうでもよかった。
今後はもう、わしの力は……己と、その家族のためだけに振るう。
自分たちだけが楽しむために盗み! 奪い! 殺す!
それこそが正しい生きかた!
「――かっかっかぁっ! 今度こそ生を謳歌してやるんじゃあっ!」
あぁ、そうじゃった。
なぜ、忘れていたのか。
わしの本当の名は――。