TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「ここで面倒を見る……って、えぇえええ!?」
俺は思わず叫んだ。ほ、本気なのか!?
しかし、そんな突拍子もないアオイの提案に、しのぶは……。
「じつはね――私も同じ提案をしようと思っていたの!」
そうあっさりと頷いていた。
な、なんでぇ~!?
「よし、なら決まりですねっ!」
と、アオイが話を進めようとする。
それには、俺もさすがに「いやいやいや!?」と声が出た。
「いくらなんでも、そこまで迷惑をかけるわけには!?」
「気にすることないわよ! そもそも、ウチには似たようなのがすでにひとりいるからね!」
「いやでも、あの……」
必死に食い止めようとするが、あっという間に話が進んでいってしまう。
「自分のこともわからないのよね? じゃあ――あなたに名前をつけてあげないと!」
「それもそうですね。名前がないと呼ぶときに不便ですし」
「えーっと!?」
ふたりがわーぎゃーと騒ぎながら、筆と半紙を囲んでいた。
しばらくして、俺の前にすさまじい達筆で書かれた文字が突きつけられる。
「というわけで、あなたの名前は今日から――”
「イヤぁーーーーっ!?」
ななな、なんでそんな名前になるんだ!?
まったくワケがわからない!
「あの、『神崎』ってアオイさんと同じ苗字ですよね?」
「そうなの! じつは、あたしずぅーっと妹が欲しかったの!
「ひゃ、百歩譲ってそれはいいとして。この名前は!? 絶対に人の名前じゃないですよね!?」
「それは、あたしも反対したんだけど……苗字を『神崎』にするための尊い犠牲というか」
「えぇ~? いいじゃないですか~、鮭大根! おいしいですよ~?」
「これ、犠牲になってるのわたしだーっ!? あと、おいしいのはネタだけでいいですから!?」
……あぁっ!? 今、思い出した!
そういえば、しのぶってすさまじいネーミングオンチなんだった!?
「それで、鮭大根さんはこれから――」
「……あ、あのぉっ!?」
俺はついに堪えきれなくなって叫んだ。
「わたし、名前を思い出しました! ”まふゆ”っていうんでした!」
「「……えぇ~?」」
なんで、ふたりともちょっと残念そうなんだ!?
あと、思わず本名を言ってしまったが……まぁ、仕方ない。
「それで苗字は?」
「えっ?」
「あるでしょう?」
言われて、戦国時代にはそんなものなかったと気づく。
だから、俺には苗字がないのだ。
けれど、なにかを答えなければならない。
そんなときに頭をよぎったのは……母の名前、だった。
彼女の名前は『
だから、俺はそこから借りることにした。
「――”
「そう、いい名前ね」
そう言ってアオイもしのぶもやさしく笑って言ってくれた。
それから……。
「今からでも神崎に変えていいのよ?」
「鮭大根でもいいんですよ?」
と続けた。
おい!? せっかくの空気が台無しだよ!?
「結構です! とくに鮭大根だけは絶対に!」
「残念です。でも名前だけでも思い出せてよかったですね」
「にしても、あんた……」
アオイが首を傾げながら、俺に視線を向けてくる。
えっと、どうしたんだろう?
「あんた、いったいどこの出身なのかしら? ほんと、すっごい
あぁ、そういうことだったのか。
じつは俺もずっと、ふたりの言葉がところどころわからなかったり、聞き取りづらかったりするなーと思っていたのだ。
それで、勝手に解釈して脳内で補完しながら聞いていたのだけれど……。
なるほど、どうやらそれは”言語がちがったから”らしい。
ただし、地域による差ではなく……。
――時代の差、だけれど。
まぁ、400年も経てば言語なんてまったくの別物だもんな。
ただ、大正時代の言語は100年後の現代語とはかなり近い。
前世の……未来の記憶があってよかった。
それがなければ、俺は言語の習得からはじめないといけないところだった。
「とりあえず1ヶ月は絶対安静ですよ。傷もそうですが、体温も戻っていませんし……なにより、身体の一部がまだ凍っていますから」
「えっ!?」
俺の身体まだ凍ってんの!? そんなことってあるのか!?
だけど、言われても正直ピンとこないな。
だって、全身くまなく痛すぎるんだもん。
まぁ、なんにせよ……。
「これからお世話になります」
まさか、こんなことになるとは思っていなかったけれど。
俺はこれから一緒に過ごすこととなるふたりに、そう言ってお辞儀をした。
「じゃあ、元気になるためにもまずは食事にしましょうか。お腹が空いているでしょう?」
言われて、自分が腹ペコであることに気づく。
アオイが「ちょっと待ってて」と告げてから数分後、お盆に器を載せて戻ってくる。
「はい、まふゆ! いっぱい食べてね! といっても、胃が弱ってるから重湯なんだけどね」
トロリとした白く濁った液体が入っていた。
いわゆる、固形物の入っていないおかゆだ。
俺は匙を手に取り、それを口に運ぼうとして……。
「こらっ、まふゆ!」
「ひゃいっ!?」
アオイに怒られてしまう。
えっ、なにか悪いことをしたのか!? 困惑しながら顔を見返すと……。
「ちゃんと”いただきます”しないとダメでしょ?」
「あっ」
そうか。忘れていた。
今はもう大正時代なんだった。
戦国時代……400年前にはまだなかった文化。
それで慣れてしまっていたから、つい。
「……いただきます」
俺は手を合わせ、それから改めて重湯を口へと運んだ。
アオイが「うん、よろしい!」とお姉さんぶった笑みを浮かべていた。
でも、うーん……どうしよう。
これもう、今さら言えるような雰囲気じゃないよなぁ。
「まふゆー! いい子いい子ー! キャー、かわい~~~~!」
ご飯を食べるだけで、アオイがものすごく褒めてくる。
新たな妹分ができてうれしいのだろう。
そんな俺たちの様子を、しのぶも微笑ましそうに眺めていた。
だけど、じつは俺……。
――アオイどころか、しのぶよりも年上なんだよなぁ……。
完全に言うタイミングを逃してしまったなぁ。
そんなことを、俺は重湯をすすりながら思ったのであった――。
* * *
それから数日後のこと――。
「……」
「……あ、あのー?」
俺はなぜか、無言で佇むカナヲと睨み合いになっていた――。