TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第24話『我が名は”神崎鮭大根”』

 

「ここで面倒を見る……って、えぇえええ!?」

 

 俺は思わず叫んだ。ほ、本気なのか!?

 しかし、そんな突拍子もないアオイの提案に、しのぶは……。

 

「じつはね――私も同じ提案をしようと思っていたの!」

 

 そうあっさりと頷いていた。

 な、なんでぇ~!?

 

「よし、なら決まりですねっ!」

 

 と、アオイが話を進めようとする。

 それには、俺もさすがに「いやいやいや!?」と声が出た。

 

「いくらなんでも、そこまで迷惑をかけるわけには!?」

 

「気にすることないわよ! そもそも、ウチには似たようなのがすでにひとりいるからね!」

 

「いやでも、あの……」

 

 必死に食い止めようとするが、あっという間に話が進んでいってしまう。

 

「自分のこともわからないのよね? じゃあ――あなたに名前をつけてあげないと!」

 

「それもそうですね。名前がないと呼ぶときに不便ですし」

 

「えーっと!?」

 

 ふたりがわーぎゃーと騒ぎながら、筆と半紙を囲んでいた。

 しばらくして、俺の前にすさまじい達筆で書かれた文字が突きつけられる。

 

 

「というわけで、あなたの名前は今日から――”神崎 鮭大根(かんざき さけだいこん)”よ!」

 

 

「イヤぁーーーーっ!?」

 

 ななな、なんでそんな名前になるんだ!?

 まったくワケがわからない!

 

「あの、『神崎』ってアオイさんと同じ苗字ですよね?」

 

「そうなの! じつは、あたしずぅーっと妹が欲しかったの! カナヲ(・・・)のときは悔しい思いをしたからねー! 次こそは、って決めてたのよ!」

 

「ひゃ、百歩譲ってそれはいいとして。この名前は!? 絶対に人の名前じゃないですよね!?」

 

「それは、あたしも反対したんだけど……苗字を『神崎』にするための尊い犠牲というか」

 

「えぇ~? いいじゃないですか~、鮭大根! おいしいですよ~?」

 

「これ、犠牲になってるのわたしだーっ!? あと、おいしいのはネタだけでいいですから!?」

 

 ……あぁっ!? 今、思い出した!

 そういえば、しのぶってすさまじいネーミングオンチなんだった!?

 

「それで、鮭大根さんはこれから――」

 

「……あ、あのぉっ!?」

 

 俺はついに堪えきれなくなって叫んだ。

 

「わたし、名前を思い出しました! ”まふゆ”っていうんでした!」

 

「「……えぇ~?」」

 

 なんで、ふたりともちょっと残念そうなんだ!?

 あと、思わず本名を言ってしまったが……まぁ、仕方ない。

 

「それで苗字は?」

 

「えっ?」

 

「あるでしょう?」

 

 言われて、戦国時代にはそんなものなかったと気づく。

 だから、俺には苗字がないのだ。

 

 けれど、なにかを答えなければならない。

 そんなときに頭をよぎったのは……母の名前、だった。

 

 彼女の名前は『幸代(さちよ)』といった。

 だから、俺はそこから借りることにした。

 

 

「――”幸代(ゆきしろ)”です。幸代まふゆ……それが、わたしの名前です」

 

 

「そう、いい名前ね」

 

 そう言ってアオイもしのぶもやさしく笑って言ってくれた。

 それから……。

 

「今からでも神崎に変えていいのよ?」

 

「鮭大根でもいいんですよ?」

 

 と続けた。

 おい!? せっかくの空気が台無しだよ!?

 

「結構です! とくに鮭大根だけは絶対に!」

 

「残念です。でも名前だけでも思い出せてよかったですね」

 

「にしても、あんた……」

 

 アオイが首を傾げながら、俺に視線を向けてくる。

 えっと、どうしたんだろう?

 

「あんた、いったいどこの出身なのかしら? ほんと、すっごいなまり(・・・)だわ」

 

 あぁ、そういうことだったのか。

 

 じつは俺もずっと、ふたりの言葉がところどころわからなかったり、聞き取りづらかったりするなーと思っていたのだ。

 それで、勝手に解釈して脳内で補完しながら聞いていたのだけれど……。

 

 なるほど、どうやらそれは”言語がちがったから”らしい。

 ただし、地域による差ではなく……。

 

 

 ――時代の差、だけれど。

 

 

 まぁ、400年も経てば言語なんてまったくの別物だもんな。

 ただ、大正時代の言語は100年後の現代語とはかなり近い。

 

 前世の……未来の記憶があってよかった。

 それがなければ、俺は言語の習得からはじめないといけないところだった。

 

「とりあえず1ヶ月は絶対安静ですよ。傷もそうですが、体温も戻っていませんし……なにより、身体の一部がまだ凍っていますから」

 

「えっ!?」

 

 俺の身体まだ凍ってんの!? そんなことってあるのか!?

 だけど、言われても正直ピンとこないな。

 

 だって、全身くまなく痛すぎるんだもん。

 まぁ、なんにせよ……。

 

「これからお世話になります」

 

 まさか、こんなことになるとは思っていなかったけれど。

 俺はこれから一緒に過ごすこととなるふたりに、そう言ってお辞儀をした。

 

「じゃあ、元気になるためにもまずは食事にしましょうか。お腹が空いているでしょう?」

 

 言われて、自分が腹ペコであることに気づく。

 アオイが「ちょっと待ってて」と告げてから数分後、お盆に器を載せて戻ってくる。

 

「はい、まふゆ! いっぱい食べてね! といっても、胃が弱ってるから重湯なんだけどね」

 

 トロリとした白く濁った液体が入っていた。

 いわゆる、固形物の入っていないおかゆだ。

 

 俺は匙を手に取り、それを口に運ぼうとして……。

 

「こらっ、まふゆ!」

 

「ひゃいっ!?」

 

 アオイに怒られてしまう。

 えっ、なにか悪いことをしたのか!? 困惑しながら顔を見返すと……。

 

「ちゃんと”いただきます”しないとダメでしょ?」

 

「あっ」

 

 そうか。忘れていた。

 今はもう大正時代なんだった。

 

 戦国時代……400年前にはまだなかった文化。

 それで慣れてしまっていたから、つい。

 

「……いただきます」

 

 俺は手を合わせ、それから改めて重湯を口へと運んだ。

 アオイが「うん、よろしい!」とお姉さんぶった笑みを浮かべていた。

 

 でも、うーん……どうしよう。

 これもう、今さら言えるような雰囲気じゃないよなぁ。

 

「まふゆー! いい子いい子ー! キャー、かわい~~~~!」

 

 ご飯を食べるだけで、アオイがものすごく褒めてくる。

 新たな妹分ができてうれしいのだろう。

 

 そんな俺たちの様子を、しのぶも微笑ましそうに眺めていた。

 だけど、じつは俺……。

 

 

 ――アオイどころか、しのぶよりも年上なんだよなぁ……。

 

 

 完全に言うタイミングを逃してしまったなぁ。

 そんなことを、俺は重湯をすすりながら思ったのであった――。

 

   *  *  *

 

 それから数日後のこと――。

 

「……」

 

「……あ、あのー?」

 

 俺はなぜか、無言で佇むカナヲと睨み合いになっていた――。

 

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