TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
頬に残った
「傷跡は残ってしまいましたが、体調のほうは思っていたよりもずっと回復が早いですね。この分なら、機能回復のためにも軽く歩いたりしはじめてよさそうです」
「よかったね、まふゆ! ほんと最初はどうなることかと思ったんだから!」
その診断を聞いて、アオイは満面の笑みを浮かべていた。
俺以上にうれしそうだった。
「そういえば言葉もずいぶんとこっちに馴染んできましたね」
「そうですね。きよちゃん、すみちゃん、なほちゃんの3人がたくさん話しかけてくれるので」
そう言って、せっせと荷物を運んだり患者さんのお世話をしている3人娘に視線を向ける。
みんなそっくりだが、三つ子や姉妹ではないらしい。
「この調子なら、お正月は一緒におせちを食べられそうですね」
そうか、今はそんな季節か。
俺は雪の降る窓の外の景色を見ながら、思った。
お雑煮は戦国時代にもあったが、おせちはずいぶんとひさしぶりだな。
前世ぶりか。
「そういえば、みなさんっておいくつになられるのですか?」
「あら、あまり女性にそういうことを聞くものではありませんよ?」
「あたしは次で19歳よ! しのぶさまは20歳になられるわ!」
……ん? あぁ、そうか。
この時代は新暦にこそなっているが、まだ年齢は数えが一般的だもんな。
数え年だと生まれた時点で1歳、そして年が明けるごとにみんなで一斉に歳をとる。
だから、満年齢と比べておよそプラス2歳される。
ということは、えーっと……。
実際にはだいたいアオイが17歳で、しのぶが18歳か。
……命を懸けて戦うにはあまりにも若すぎる年齢だ、と思った。
この時代はみんな早熟だったと聞くが、だとしても。
「まふゆは……そっか、覚えてないんだもんね。見た目からして
いやいや、そこまで若くはないが!?
そうだ、今こそ本当のことを告げ――。
「あっ!」
と、アオイが声を上げた。
振り返ると、病室の入り口にカナヲが立っていた。
「カナヲも来たのね! ちょうどよかったわ! この子はあたしの1歳下で……」
ぬわーん!? またタイミングを逃してしまった!
カナヲはまっすぐにしのぶの元へと向かっていく。その手には手紙があった。
「しのぶさま、連絡が来ています」
「あら、なにかしら?」
「3日後に帰ってくる、とのことです」
「そうなの! よかったわ。じゃあ、お正月はみんなで一緒に過ごせるわね!」
そう言って、しのぶが口元をほころばせた。
俺は「えっ」とあたりを見渡す。
しのぶ、アオイ、カナヲ、きよ、すみ、なほ……。
俺が知る蝶屋敷の住人はすでに全員揃っていた。
「えっと、帰ってくるって……いったいだれがですか?」
「まふゆさんは初対面でしたね。この屋敷の
「……? あの、主人ってそれはしのぶさんじゃないんですか?」
「いえいえ、ちがいますよ。この屋敷の主人は――」
* * *
そして、3日後。
俺たちは玄関に集まってその人物を出迎えていた。その人物とは……。
「おかえりなさいっ――
子どもっぽい笑みを浮かべて、しのぶがその人物へと抱き着いていた。
そこに立っていたのは、しのぶの姉……”胡蝶カナエ”だった。
俺の知るかぎりでは――すでに
「あらあら、しのぶは甘えんぼさんね~」
「いいんですっ。姉さんの前でだけは」
「もう~。柱になったんだから、みんながいる場ではしっかりしなきゃダメでしょ~?」
俺は理解した。しのぶがどこか想像よりも幼く見えた理由を。
カナエだ。彼女が生きていたからだ。
今、俺の前にいるのは――心のよりどころを失わなかったしのぶなのだ。
でも、いったいなぜ!? なにが起きている!? いや、ちがう……。
――俺が寝ている間に、なにが
良いことのはずなのに、すさまじい違和感と気持ち悪さがあった。
なにか、すでに取り返しのつかないことが進行しているような感覚。
「……うっ」
「その……大丈夫?」
グラリとよろけたところをカナヲが支えてくれた。
なんだか、めまいがしていた。
「あらあら、まぁまぁ! 大丈夫かしら~?」
「その子、まだようやく最近歩けるようになったばかりで」
「そうだったの~。それでカナヲが寄り添ってあげてたのね~」
カナエがそういって、玄関を上がってくる。
ぽふん、とカナヲの頭の上に手を置いた。
「えらいえらい。カナヲはとってもやさしいわね~」
「~~~~っ」
カナエに頭を撫でられて、カナヲはその頬を赤く染めていた。
それから消え入りそうなくらい小さな声で言う。
「あの、その……おかえりなさい」
「はい、ただいま~。うふふ、今日もカナヲはかわいいわね~」
「……カナエさまのほうがかわいい、です」
「あらあら、うれしいことを言ってくれるわね~」
そうか、カナヲが思っていたよりもずっと表情豊かだったのも同じ理由か。
カナエが生きていたことで、まるで水面に波紋が広がるがごとく変化が連鎖していた――。