TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第27話『蝶のはばたき』

 

 頬に残った傷跡(あざ)を見つめていた俺に、しのぶが言う。

 

「傷跡は残ってしまいましたが、体調のほうは思っていたよりもずっと回復が早いですね。この分なら、機能回復のためにも軽く歩いたりしはじめてよさそうです」

 

「よかったね、まふゆ! ほんと最初はどうなることかと思ったんだから!」

 

 その診断を聞いて、アオイは満面の笑みを浮かべていた。

 俺以上にうれしそうだった。

 

「そういえば言葉もずいぶんとこっちに馴染んできましたね」

 

「そうですね。きよちゃん、すみちゃん、なほちゃんの3人がたくさん話しかけてくれるので」

 

 そう言って、せっせと荷物を運んだり患者さんのお世話をしている3人娘に視線を向ける。

 みんなそっくりだが、三つ子や姉妹ではないらしい。

 

「この調子なら、お正月は一緒におせちを食べられそうですね」

 

 そうか、今はそんな季節か。

 俺は雪の降る窓の外の景色を見ながら、思った。

 

 お雑煮は戦国時代にもあったが、おせちはずいぶんとひさしぶりだな。

 前世ぶりか。

 

「そういえば、みなさんっておいくつになられるのですか?」

 

「あら、あまり女性にそういうことを聞くものではありませんよ?」

 

「あたしは次で19歳よ! しのぶさまは20歳になられるわ!」

 

 ……ん? あぁ、そうか。

 この時代は新暦にこそなっているが、まだ年齢は数えが一般的だもんな。

 

 数え年だと生まれた時点で1歳、そして年が明けるごとにみんなで一斉に歳をとる。

 だから、満年齢と比べておよそプラス2歳される。

 

 ということは、えーっと……。

 実際にはだいたいアオイが17歳で、しのぶが18歳か。

 

 ……命を懸けて戦うにはあまりにも若すぎる年齢だ、と思った。

 この時代はみんな早熟だったと聞くが、だとしても。

 

「まふゆは……そっか、覚えてないんだもんね。見た目からして14(12)歳くらいかしら?」

 

 いやいや、そこまで若くはないが!?

 そうだ、今こそ本当のことを告げ――。

 

「あっ!」

 

 と、アオイが声を上げた。

 振り返ると、病室の入り口にカナヲが立っていた。

 

「カナヲも来たのね! ちょうどよかったわ! この子はあたしの1歳下で……」

 

 ぬわーん!? またタイミングを逃してしまった!

 カナヲはまっすぐにしのぶの元へと向かっていく。その手には手紙があった。

 

「しのぶさま、連絡が来ています」

 

「あら、なにかしら?」

 

「3日後に帰ってくる、とのことです」

 

「そうなの! よかったわ。じゃあ、お正月はみんなで一緒に過ごせるわね!」

 

 そう言って、しのぶが口元をほころばせた。

 俺は「えっ」とあたりを見渡す。

 

 しのぶ、アオイ、カナヲ、きよ、すみ、なほ……。

 俺が知る蝶屋敷の住人はすでに全員揃っていた。

 

「えっと、帰ってくるって……いったいだれがですか?」

 

「まふゆさんは初対面でしたね。この屋敷の主人(・・)ですよ」

 

「……? あの、主人ってそれはしのぶさんじゃないんですか?」

 

「いえいえ、ちがいますよ。この屋敷の主人は――」

 

   *  *  *

 

 そして、3日後。

 俺たちは玄関に集まってその人物を出迎えていた。その人物とは……。

 

 

「おかえりなさいっ――姉さん(・・・)!」

 

 

 子どもっぽい笑みを浮かべて、しのぶがその人物へと抱き着いていた。

 そこに立っていたのは、しのぶの姉……”胡蝶カナエ”だった。

 

 

 俺の知るかぎりでは――すでに死んでいる(・・・・・)はずの人物だった。

 

 

「あらあら、しのぶは甘えんぼさんね~」

 

「いいんですっ。姉さんの前でだけは」

 

「もう~。柱になったんだから、みんながいる場ではしっかりしなきゃダメでしょ~?」

 

 俺は理解した。しのぶがどこか想像よりも幼く見えた理由を。

 カナエだ。彼女が生きていたからだ。

 

 今、俺の前にいるのは――心のよりどころを失わなかったしのぶなのだ。

 でも、いったいなぜ!? なにが起きている!? いや、ちがう……。

 

 

 ――俺が寝ている間に、なにが起こった(・・・・)!?

 

 

 良いことのはずなのに、すさまじい違和感と気持ち悪さがあった。

 なにか、すでに取り返しのつかないことが進行しているような感覚。

 

「……うっ」

 

「その……大丈夫?」

 

 グラリとよろけたところをカナヲが支えてくれた。

 なんだか、めまいがしていた。

 

「あらあら、まぁまぁ! 大丈夫かしら~?」

 

「その子、まだようやく最近歩けるようになったばかりで」

 

「そうだったの~。それでカナヲが寄り添ってあげてたのね~」

 

 カナエがそういって、玄関を上がってくる。

 ぽふん、とカナヲの頭の上に手を置いた。

 

「えらいえらい。カナヲはとってもやさしいわね~」

 

「~~~~っ」

 

 カナエに頭を撫でられて、カナヲはその頬を赤く染めていた。

 それから消え入りそうなくらい小さな声で言う。

 

「あの、その……おかえりなさい」

 

「はい、ただいま~。うふふ、今日もカナヲはかわいいわね~」

 

「……カナエさまのほうがかわいい、です」

 

「あらあら、うれしいことを言ってくれるわね~」

 

 そうか、カナヲが思っていたよりもずっと表情豊かだったのも同じ理由か。

 カナエが生きていたことで、まるで水面に波紋が広がるがごとく変化が連鎖していた――。

 

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