TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第31話『最終選別』

 

 俺がアオイに頼まれて、保管庫へ荷物を取りに行ったときのことだった。

 なにかゴソゴソとやっているカナヲの後ろ姿が見えて、声をかけたのだが……。

 

「その、どうして刀を?」

 

「……っ、……っ」

 

 カナヲは両手でギュッと刀の鞘を握りしめたまま、ぱくぱくと口を開閉させていた。

 あちこちをキョロキョロと見渡して……。

 

 うん、明らかに挙動不審だな。

 俺は呆れながら言う。

 

「事情はわかりませんが、勝手に持ち出したら怒られますよ?」

 

「……」

 

 カナヲはしばらく黙り込んだあと銅貨を取り出した。

 クルクルと宙を舞ったそれは、最終的に彼女の手の甲で表向きに止まった。

 

 彼女は観念したように口を開いた。

 

「私、行くの」

 

「行くって、そんなもの持っていったいどこへ?」

 

「鬼殺隊に入るから」

 

「鬼殺隊……まさかカナヲさん、”最終選別”へ行くつもりなんですか!?」

 

 カナヲはコクリと頷いた。

 しまった、もうそんな時期だったのか!?

 

 俺は基本的にキーワードがあれば、その記憶を思い出せる。

 かといって細かな時期など、そもそも前世で覚えていなかったことはどうにもならないのだ。

 

「えっと、でも場所がわからないんじゃ?」

 

「患者さんが言ってたの」

 

 言われてピンと来た。

 ちょっと前に入院していた、どこかのお弟子さんだ。

 

 もうすぐ最終選別だったのに稽古中にケガをしてしまって行けなくなった、と悔しがっていた。

 カナヲはきっと、その人から最終選別が行われる場所を聞いたのだろう。

 

 自分から聞き出したのか、それとも偶然知ってしまったのか。

 それが、どちらかなのかはわからないけれど。

 

「いや、でも……わたし、カナヲさんがこれまで剣術の稽古をしているところって見たことない気がするんですけれど」

 

「……? したことないけれど?」

 

「えぇっ!?」

 

 いや、それはさすがに……どうなんだ!?

 本来の歴史でもそうだったのか? それとも歴史が変わってこうなったのか?

 

 あー、ダメだ。思い出せない。

 おそらく前世でそのあたりのことを、はっきりとは覚えていなかったのだろう。

 

「それじゃあ、カナヲさんは呼吸も使えないんですよね? やっぱり危なすぎるんじゃ?」

 

「大丈夫。カナエさまやしのぶさまが稽古してたの見てたから」

 

「なるほどー、って見てただけ!?」

 

「それじゃあ、行くね」

 

「待って待って!? 勝手に行こうとしないで!? まだ全然、話は終わってないですから!?」

 

 えーっと!? なんとかして考える時間を稼がないと!

 そ、そうだ!

 

「その、カナヲさんはそもそもどうして隊士になろうとしているんですか?」

 

「……できないから」

 

「え?」

 

「私、なにもできないの。看護も手当ても何度やってもうまくいかなくて、迷惑かけてばかりで……アオイちゃんやみんなみたいにはなれないの」

 

「それは、その」

 

 否定できない。たしかにカナヲはそういったことがヘタクソだ。

 なんなら、手伝いはじめて1ヶ月もまだ経っていないが、俺のほうができているかも。

 

「だから、せめて……」

 

 カナヲがどこか決意を滲ませた表情で呟いていた。

 参った、わからない……。

 

「遅刻したらいけないから」

 

 カナヲが言って、歩き出す。

 くそっ……いったい、どうするのが正解なんだ!?

 

 彼女が選別へ行くべきは今で合っているのか?

 それともまだそのときじゃないのか!?

 

「……わたし緩んでたんだ」

 

 自分はあのとき死んだと思っていたから。

 それがうっかり生き残ってしまって、緊張が一気に解けてしまった。

 

 それに宿敵の鬼を倒して明確な目標もなくなって……。

 ある種の燃え尽き症候群のようになってしまっていた。

 

 そして、なにより――ここはすごく居心地がよかったから。

 

 本来ならもっと情報収集のために、がむしゃらに動き回るべきだったのに。

 いつまでもダラダラとしてしまった。

 

「……カナヲさん!」

 

 俺はその背中に声をかけた。

 腹は決まった。

 

「わかりました。それじゃあ……」

 

 

「――わたしも一緒にいきます!」

 

 

 カナヲを行かせるでも、引き留めるでもない、第3の選択だった――。

 

   *  *  *

 

 藤の花の匂いが濃い。

 あたり一面、紫色の景色の中に俺たちは立っていた。

 

 

「「――みなさま、今宵は鬼殺隊・最終選別にお集まりくださってありがとうございます」」

 

 

 そうして鬼殺隊に入るための試練がはじまった――!

 

 

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