TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第32話『花の呼吸』

 

 俺はカナヲとともに藤襲山(ふじかさねやま)を訪れていた。

 最終選別の集合場所である境内には、俺の見知った顔(・・・・・)がいくつもあった。

 

「……よかった」

 

 まずは「ホッ」と安堵する。

 カナヲを引き留めなくて正解だった。タイミングは”今”だったのだ。

 

 そんな俺の呟きが聞こえてしまったらしい。

 黄色い髪の少年がチラリとこちらに視線を向けてくる。

 

 そうだった、彼は耳がいいんだった。

 俺はカナヲの陰に入って、その視線を遮った。

 

「……?」

 

 カナヲが不思議そうにこちらを見てくる。

 俺が隠れたのは、重要人物となるべく関わらないようにするためだ。

 

 自分という存在が歴史にどのような影響を与えてしまうのか、わからないから。

 そのためにいつもとは装いも変えていた。

 

 頭から大きめの羽織を被衣(かつぎ)のようにすっぽりと被って、髪を隠していた。

 本当は染め粉があれば一番だったのだけれど、急には見つけられなかった。

 

 それから、化粧で頬の傷跡も隠している。

 やりかたは以前、カナエが教えてくれていた。

 

「私はそのままのまふゆちゃんも大好きだけれど~、いつかまふゆちゃんが『そうしたい』って思う日が来るかもしれないから、教えておくわね~」

 

 と言って。

 なるべく目立たないためにそうしたのだが、こうして実際に来てみると……。

 

 ――なんか、変な髪色してる人とか、顔に傷ある人とか多くね!?

 

 わざわざ、ここまでやって隠す必要はなかったかも。

 まぁ、もう今さらだけど。

 

「この藤襲山(ふじかさねやま)には鬼が閉じ込められております」

 

「ここで7日間生き抜く。それが最終選抜の合格条件でございます」

 

 黒髪と白髪の子どもが交互に話して、ルールを説明してくれる。

 そして……。

 

 

「「では、いってらっしゃいませ」」

 

 

 最終選別がはじまった――!

 

   *  *  *

 

 鬼どもが嫌う、藤の花が咲いているエリアを出て山の中腹へ。

 俺とカナヲは一緒に行動していた。

 

「カナヲさんはこれからどうするか、決めていますか?」

 

「……7日間生き抜く?」

 

「そ、そうではなく」

 

 カナヲが戦えるかどうかもわからない。

 あとは水や食料なんかもどうにかしないと。

 

「とりあえず水場を探しましょうか」

 

 こくりとカナヲが頷いて、俺たちは歩き出した。

 と、そのときだった。

 

「キヒヒ! 女だ、女! それもふたりも!」

 

「っ……!」

 

 なんとも幸先の悪い。

 さっそく、鬼と出くわしてしまう。

 

「……仕方ない」

 

 とりあえずは俺が倒すしかないだろう。

 俺は頭から被っていた羽織をめくった。

 

 刀を抜くためにはそうする必要があったのだ。

 なぜなら、今の俺は刀を背中にかついでいたから。

 

 ――せめて、脇差があればよかったんだけど。

 

 この日輪刀もカナヲのものと同様、保管庫から拝借したものだ。

 そのため……まぁ、当然なんだが俺に合っていない。

 

 俺には長すぎるのだ。

 使うにもそうだが、なにより腰に差そうとすると鞘の先端……(こじり)を地面にすりそうになる。

 

 それでかつぐしかなかった。

 正直、あまり使いたいシロモノではないが……やむを得ない。

 

 俺はカチャリと、かついでいる刀の柄に手をかけた。

 鬼はそんな俺を見てニヤニヤと笑っていた。

 

「んんんー? なんだぁオメェ? ずいぶんと白いなぁ? 白い女だ! うまそうだ!」

 

「……うん?」

 

 この反応……もしかして、この鬼は俺のことを知らないのか?

 いや、当たり前か。

 

 俺にとってはまだ最近の記憶だが、実際には400年も昔の話。

 無惨も、鬼ならまだしも、まさかあの時代の人間が今も生きているなどとは思うまい。

 

「これって使えるんじゃ?」

 

 もしかして、不意を突けるのでは?

 ただし、使えるのは一度きりだ。

 

 一度でも察知されれば、無惨を介してすべての鬼に情報が伝わってしまう。

 無惨は鬼の心が読める。

 

 離れている鬼からでも、ぼやけはするが可能だったはず。

 となると、この鬼はなるべく実力を隠して倒したい。

 

「キヒヒ! なんだぁ、ビビってんのかぁ? 来ねぇなら、こっちからいっちまうぜ――あん?」

 

「えっ?」

 

 虚を突かれたのは鬼も俺も一緒だった。

 ふわり、と桃色の着物が俺のすぐそばを通りすぎていた。

 

 

「――フゥゥゥ」

 

 

 独特の呼吸音が聞こえてくる。

 カナヲがあっという間に鬼の眼前にまで到達していた。

 

 そして、そのまま淀みなく刀が振り抜かれる。

 彼女はその技の名を告げた。

 

 

「花の呼吸・肆ノ型――”紅花衣(べにはなごろも)”」

 

 

 鋭い踏み込みから、まるで衣を纏うかのような大きな円を描く斬撃が放たれる。

 それがあっさりと鬼の頸を切断していた。

 

 鬼は理解が追いついていないのか、ポカンと口を開けたままだった。

 頭がポロリと落ちて……。

 

「あ」

 

 その鬼の最期の言葉はそれだけだった。

 灰となって消えていった。

 

「……ふぅ」

 

 さすがにカナヲも緊張したのか、わずかに汗をにじませていた。

 逆にいえば、たったそれだけだった。

 

 俺は理解する。

 カナヲの才能は――本物だ。

 

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