TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「倒した」
鬼をあっさりと斬ったカナヲが報告してくる。
いや、それは見ればわかるんだけど……。
「実戦、本当にはじめてなんですよね? どころか呼吸を使うのもはじめてなんですよね?」
「はじめて」
……すさまじい才能だ。
本当にカナヲは見ただけで『花の呼吸』を習得してしまっていたのだ。
とんでもなく”目”が良い。
だけでなく、それについてこれるだけの肉体も併せ持っている。
「でも、ダメだった。カナエさまがやってたみたいにできなかった」
「……いやいやいや」
稽古も受けていない。刀を握るのもおそらくはじめて。
それでこれだけできていて、上出来でないはずがない。
というか、当たり前みたいに元柱であるカナエと比べるな。
そんなホイホイできてたま……いや、できかけてるんだよなぁ。
おそらくだが、呼吸との相性もいいのだろう。
彼女の日輪刀がいずれ桜色に染まることを俺は知っている。
「キッキッキ! 人間! 女! 見つけた! 食う!」
また次の鬼がやってくる。
だが、俺はもう自分の刀の柄に手を伸ばすことはなかった。
だって、鬼の相手はカナヲひとりで十分すぎたから――。
* * *
それからカナヲは俺たちに近づいてきた鬼を何体も屠った。
そのたびに彼女の剣は鋭さを増していった。
戦いの中で感覚を掴み、すごい早さで上達している。
わかってはいたが、俺とはちがいすぎた。
――これが才能、か。
べつに嫉妬したりはしない。
そんな感情は400年前に置いてきた。
刀を握ってたったの2ヶ月で、『柱』にまで登りつめるような人だっている世界だ。
いや、この世界にかぎらず神さまは平等ではない。
「あなた、大丈夫ですか?」
「ひっ!?」
その青年は折れた刀を握ったまま、地面に座り込んで震えていた。
彼もまた俺と同じ、持たない側の人間だ。
まさに今、鬼に喰われようとしていたところに俺たちが通りがかった。
それで俺たちが……というか、カナヲが鬼を倒して助けた。
「あなたはもう下山してください」
「……え?」
俺はぼそりと、カナヲに聞こえないよう青年の耳元で告げた。
それは俺なりのやさしさだった。
「この程度の鬼に苦戦して死にかけるなら、あなたは鬼殺隊には向いてない」
「ふっ、ふざけるな! お前みたいなガキに、なにが――うっ!?」
「……」
青年が叫び、俺へと拳を振りかぶった。
次の瞬間、カナヲが無言でその鼻先に刀を突きつけていた。
「ありがとうございます、カナヲさん。でも大丈夫です」
「……そう」
カナヲがすっと刀を引いた。
青年は恐怖と怒りが入り混じったような表情で叫ぶ。
「オレがやらなきゃ、殺された母ちゃんの無念はどうなる!? 恨みはどうなる!?」
「それは、きっとほかの隊員が背負っていってくれます」
「で、でもっ……!」
「鬼を倒すために必要な力は、なにも剣士だけではないと思います」
「……う、うぅっ」
やがて青年はうなだれ、そのまま山を下っていった。
これは俺なりの人助けだった。
もし彼がこのまま山に残っていたら死んでいただろうから。
俺はこの最終選抜の結果を
「あの人も……それからさっきの人も、その前も。みんなまふゆちゃんに怒ってた」
「そうですね」
今の青年にかぎらず、じつはすでに何人にも俺は同じ言葉を告げていた。
その中には下山を選ばない人もいた。
俺はそういう人は、ムリに下山させたりはしなかった。
いや、できなかったのだ。
だって――それはかつての俺自身だから。
だが、凡人が一矢報いるには執念や努力だけでは足りない。
幸いにも俺は『運』に――いや、『縁』に恵まれたが、彼らはきっと……。
「まふゆちゃん?」
「大丈夫です。行きましょうか」
それから俺たちは鬼を倒したり、たき火をしたり、山菜や川魚を食べたり。
あとは冬の寒さを和らげるため、寄り添って一緒に眠ったりして過ごし――。
* * *
「……ずいぶんと悪知恵を働かせた鬼がいるんだな」
それは5日目の
俺はゆっくりとまぶたを上げ、呟いた。
カナヲは俺に肩を預けたまま、まだ「すぅ、すぅ」と寝息を立てていた。
このあたりは日向になっている。
べつに陽気が気持ちいいから、日向ぼっこをしながらお昼寝していたわけではなく……。
夜は鬼が出るため、安全を考えると必然的に眠るのがこの時間になってしまうのだ。
「……出てこないつもりか」
俺はカナヲを起こさないよう、静かに立ち上がった。
彼女が目を覚ます気配はなかった。
カナヲは強いし、表情の変化も乏しい。
だから、平気そうに見えてしまうが……実際はちがう。
表情に出にくいだけ。
はじめての実戦で、しかも長期戦。
じつはかなり疲労が溜まっていた。
そこへ――。
「……ふっ」
俺はパシッ! と日陰の奥から飛んできたものをキャッチした。
それは折れた刀の切っ先だった――。