TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第33話『白昼の戦い』

 

「倒した」

 

 鬼をあっさりと斬ったカナヲが報告してくる。

 いや、それは見ればわかるんだけど……。

 

「実戦、本当にはじめてなんですよね? どころか呼吸を使うのもはじめてなんですよね?」

 

「はじめて」

 

 ……すさまじい才能だ。

 本当にカナヲは見ただけで『花の呼吸』を習得してしまっていたのだ。

 

 とんでもなく”目”が良い。

 だけでなく、それについてこれるだけの肉体も併せ持っている。

 

「でも、ダメだった。カナエさまがやってたみたいにできなかった」

 

「……いやいやいや」

 

 稽古も受けていない。刀を握るのもおそらくはじめて。

 それでこれだけできていて、上出来でないはずがない。

 

 というか、当たり前みたいに元柱であるカナエと比べるな。

 そんなホイホイできてたま……いや、できかけてるんだよなぁ。

 

 おそらくだが、呼吸との相性もいいのだろう。

 彼女の日輪刀がいずれ桜色に染まることを俺は知っている。

 

「キッキッキ! 人間! 女! 見つけた! 食う!」

 

 また次の鬼がやってくる。

 だが、俺はもう自分の刀の柄に手を伸ばすことはなかった。

 

 だって、鬼の相手はカナヲひとりで十分すぎたから――。

 

   *  *  *

 

 それからカナヲは俺たちに近づいてきた鬼を何体も屠った。

 そのたびに彼女の剣は鋭さを増していった。

 

 戦いの中で感覚を掴み、すごい早さで上達している。

 わかってはいたが、俺とはちがいすぎた。

 

 ――これが才能、か。

 

 べつに嫉妬したりはしない。

 そんな感情は400年前に置いてきた。

 

 刀を握ってたったの2ヶ月で、『柱』にまで登りつめるような人だっている世界だ。

 いや、この世界にかぎらず神さまは平等ではない。

 

「あなた、大丈夫ですか?」

 

「ひっ!?」

 

 その青年は折れた刀を握ったまま、地面に座り込んで震えていた。

 彼もまた俺と同じ、持たない側の人間だ。

 

 まさに今、鬼に喰われようとしていたところに俺たちが通りがかった。

 それで俺たちが……というか、カナヲが鬼を倒して助けた。

 

「あなたはもう下山してください」

 

「……え?」

 

 俺はぼそりと、カナヲに聞こえないよう青年の耳元で告げた。

 それは俺なりのやさしさだった。

 

「この程度の鬼に苦戦して死にかけるなら、あなたは鬼殺隊には向いてない」

 

「ふっ、ふざけるな! お前みたいなガキに、なにが――うっ!?」

 

「……」

 

 青年が叫び、俺へと拳を振りかぶった。

 次の瞬間、カナヲが無言でその鼻先に刀を突きつけていた。

 

「ありがとうございます、カナヲさん。でも大丈夫です」

 

「……そう」

 

 カナヲがすっと刀を引いた。

 青年は恐怖と怒りが入り混じったような表情で叫ぶ。

 

「オレがやらなきゃ、殺された母ちゃんの無念はどうなる!? 恨みはどうなる!?」

 

「それは、きっとほかの隊員が背負っていってくれます」

 

「で、でもっ……!」

 

「鬼を倒すために必要な力は、なにも剣士だけではないと思います」

 

「……う、うぅっ」

 

 やがて青年はうなだれ、そのまま山を下っていった。

 これは俺なりの人助けだった。

 

 もし彼がこのまま山に残っていたら死んでいただろうから。

 俺はこの最終選抜の結果を知っている(・・・・・)

 

「あの人も……それからさっきの人も、その前も。みんなまふゆちゃんに怒ってた」

 

「そうですね」

 

 今の青年にかぎらず、じつはすでに何人にも俺は同じ言葉を告げていた。

 その中には下山を選ばない人もいた。

 

 俺はそういう人は、ムリに下山させたりはしなかった。

 いや、できなかったのだ。

 

 だって――それはかつての俺自身だから。

 

 だが、凡人が一矢報いるには執念や努力だけでは足りない。

 幸いにも俺は『運』に――いや、『縁』に恵まれたが、彼らはきっと……。

 

「まふゆちゃん?」

 

「大丈夫です。行きましょうか」

 

 それから俺たちは鬼を倒したり、たき火をしたり、山菜や川魚を食べたり。

 あとは冬の寒さを和らげるため、寄り添って一緒に眠ったりして過ごし――。

 

   *  *  *

 

「……ずいぶんと悪知恵を働かせた鬼がいるんだな」

 

 それは5日目の昼間(・・)のことだった。

 俺はゆっくりとまぶたを上げ、呟いた。

 

 カナヲは俺に肩を預けたまま、まだ「すぅ、すぅ」と寝息を立てていた。

 このあたりは日向になっている。

 

 べつに陽気が気持ちいいから、日向ぼっこをしながらお昼寝していたわけではなく……。

 夜は鬼が出るため、安全を考えると必然的に眠るのがこの時間になってしまうのだ。

 

「……出てこないつもりか」

 

 俺はカナヲを起こさないよう、静かに立ち上がった。

 彼女が目を覚ます気配はなかった。

 

 カナヲは強いし、表情の変化も乏しい。

 だから、平気そうに見えてしまうが……実際はちがう。

 

 表情に出にくいだけ。

 はじめての実戦で、しかも長期戦。

 

 じつはかなり疲労が溜まっていた。

 そこへ――。

 

「……ふっ」

 

 俺はパシッ! と日陰の奥から飛んできたものをキャッチした。

 それは折れた刀の切っ先だった――。

 

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