TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第34話『合格者たち』

 

「カナヲさん、すぐに戻ってきますからね」

 

 小さく呟き、俺は地面を蹴った。

 日陰へと足を踏み入れる。

 

「逃がさない」

 

 この鬼はかなりタチが悪い。

 ここで殺しておかないと、ほかの参加者が危ない。

 

 前方から聞こえていた足音との距離は、あっという間に縮まっていった。

 俺は先ほど飛んできた折れた刀の切っ先を、棒手裏剣の要領で投げ放った。

 

 これも戦国時代、(シノビ)に教わった技術だ。

 当時、手裏剣といえば平型ではなく棒型のほうが主流だった。

 

「ぎっ!?」

 

 小さな悲鳴が聞こえた。

 やがて、俺は足を止めた。

 

 追いついたのだ。

 そこには、足の甲を地面に縫い留められた鬼の姿があった。

 

「くふふっ、勘のいいガキめ。あのまま眠っていれば、痛みもなく殺してやったものを」

 

 鬼が折れた刀の切っ先を足から抜き、放り捨てる。

 ブシュっ! と血が噴き出したが、すぐに回復しはじめる。

 

 ギギギと鬼が振り向き、俺たちは対峙していた。

 よくもまぁ考えたもんだ。ヘドが出る。

 

「……人間とちがって鬼は眠らないもんね」

 

「そうさ! くふふふ、人間どもはみんなバカばかりだ。とくに付け焼刃のガキどもはとくにバカだ。オレたちが昼間には襲ってこないと思ってやがる!」

 

 鬼にとって日光は天敵だ。

 普通ならまずそんな中で行動したりしない。

 

 だが、藤襲山(ふじかさねやま)という特殊な環境がこの鬼の生存戦略を作り出したのだろう。

 鬼というのは本当に……。

 

「昼間、眠っている人間を日陰から飛び道具で殺し、そして夜になってから食らってきたんだな」

 

「ご名答~! くふふふふふふっ!」

 

 鬼の笑い声というのはどうしてこう、どいつもこいつも不愉快な音をしているのか。

 さっさと終わらせよう。

 

 俺はチャキリと背中の刀へと手を添えた。

 ソイツはそんな俺を見て、ニヤリと笑っていた。

 

「お前はオレに追いついたと思っているだろうが、ちがう。オレはお前をここまで誘い込んだのさ! ここに日向はない、オレたち鬼のテリトリー! くふふふっ!」

 

「もう黙っていいよ」

 

 まるで舞うみたいにくるりと身体を回転させながら、俺は背中の刀を抜いた。

 いわゆる”曲抜き”にも近い抜刀だった。

 

 俺では手が短すぎて、背中から普通に抜こうとしても鞘に引っかかってしまう。

 だから刀を抜く瞬間だけ、相手に見えないように手を柄から鍔や刀身に持ち変えたのだ。

 

 これは剣術ではなくタネのある曲芸。

 わざとこんなことをしたのには理由がある。

 

 この刀を普通に抜けない――この刀に慣れていないことを、悟らせないためだ。

 わざわざ弱点を晒すつもりはない。

 

 ――俺は弱者(・・)だから。

 

 相手がどんな鬼であっても、それは油断する理由にはならない。

 今、できる最善を尽くして鬼を殺す。

 

「くふふふ、死ねぇえええっ!」

 

 叫び、鬼がこちらへと跳びかかってくる。

 そういえば、実戦って数ヶ月……と400年振りか。

 

「……重いな」

 

 刀の感触をたしかめていた。

 普通に振っても刀に身体を持っていかれそうだ。

 

「なら、こう(・・)だな」

 

 だから、俺は相手に背が向くくらい身体グイっとねじり、遠心力を利用して刀を振り抜く。

 その一撃はカウンターのように、跳んできた鬼の頸を捉えた。

 

 

「水の呼吸・陸ノ型――”ねじれ渦・(モドキ)”」

 

 

 スパっと鬼の頸が両断されていた。

 その頭と胴体がべつべつの方向へと転がっていく。

 

「バカ、な……」

 

 鬼はそれだけ言ったあと、灰となって消えた。

 俺は安全を確認し、また曲抜きの要領で納刀した。

 

「……ふぅ~」

 

 息を吐く。

 なんとかなったな。といっても、とくに心配していたわけでもないけれど。

 

 『氷の呼吸』は『水の呼吸』の派生だ。

 だから、俺でもある程度なら大元であるそちらの型も使える。

 

 ただし、あくまで本当にそれっぽい――動き(・・)のみだが。

 

 俺ではほかの呼吸を使っても、”錯覚”させられるほどの一撃を放てないのだ。

 適正が『氷の呼吸』に寄りすぎているから。

 

 しかし、今はまだそれを鬼に見せるわけにもいかず……。

 だから今回のは非常手段。

 

「そうだ。カナヲが起きる前に戻らないと」

 

 俺とカナヲの最終選別はそんな風にして過ぎていった。

 そして……。

 

   *  *  *

 

 ――1週間後。

 俺たちは再び、藤の花の咲く境内へと戻ってきていた。

 

 

「「おかえりなさいませ」」

 

 

 白髪と黒髪の子どもが声を揃えて言った。

 太陽の光がまぶしかった。

 

 俺たちは最終選別を無事、生き抜いたのだ――!

 

 

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