TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「カナヲさん、すぐに戻ってきますからね」
小さく呟き、俺は地面を蹴った。
日陰へと足を踏み入れる。
「逃がさない」
この鬼はかなりタチが悪い。
ここで殺しておかないと、ほかの参加者が危ない。
前方から聞こえていた足音との距離は、あっという間に縮まっていった。
俺は先ほど飛んできた折れた刀の切っ先を、棒手裏剣の要領で投げ放った。
これも戦国時代、
当時、手裏剣といえば平型ではなく棒型のほうが主流だった。
「ぎっ!?」
小さな悲鳴が聞こえた。
やがて、俺は足を止めた。
追いついたのだ。
そこには、足の甲を地面に縫い留められた鬼の姿があった。
「くふふっ、勘のいいガキめ。あのまま眠っていれば、痛みもなく殺してやったものを」
鬼が折れた刀の切っ先を足から抜き、放り捨てる。
ブシュっ! と血が噴き出したが、すぐに回復しはじめる。
ギギギと鬼が振り向き、俺たちは対峙していた。
よくもまぁ考えたもんだ。ヘドが出る。
「……人間とちがって鬼は眠らないもんね」
「そうさ! くふふふ、人間どもはみんなバカばかりだ。とくに付け焼刃のガキどもはとくにバカだ。オレたちが昼間には襲ってこないと思ってやがる!」
鬼にとって日光は天敵だ。
普通ならまずそんな中で行動したりしない。
だが、
鬼というのは本当に……。
「昼間、眠っている人間を日陰から飛び道具で殺し、そして夜になってから食らってきたんだな」
「ご名答~! くふふふふふふっ!」
鬼の笑い声というのはどうしてこう、どいつもこいつも不愉快な音をしているのか。
さっさと終わらせよう。
俺はチャキリと背中の刀へと手を添えた。
ソイツはそんな俺を見て、ニヤリと笑っていた。
「お前はオレに追いついたと思っているだろうが、ちがう。オレはお前をここまで誘い込んだのさ! ここに日向はない、オレたち鬼のテリトリー! くふふふっ!」
「もう黙っていいよ」
まるで舞うみたいにくるりと身体を回転させながら、俺は背中の刀を抜いた。
いわゆる”曲抜き”にも近い抜刀だった。
俺では手が短すぎて、背中から普通に抜こうとしても鞘に引っかかってしまう。
だから刀を抜く瞬間だけ、相手に見えないように手を柄から鍔や刀身に持ち変えたのだ。
これは剣術ではなくタネのある曲芸。
わざとこんなことをしたのには理由がある。
この刀を普通に抜けない――この刀に慣れていないことを、悟らせないためだ。
わざわざ弱点を晒すつもりはない。
――俺は
相手がどんな鬼であっても、それは油断する理由にはならない。
今、できる最善を尽くして鬼を殺す。
「くふふふ、死ねぇえええっ!」
叫び、鬼がこちらへと跳びかかってくる。
そういえば、実戦って数ヶ月……と400年振りか。
「……重いな」
刀の感触をたしかめていた。
普通に振っても刀に身体を持っていかれそうだ。
「なら、
だから、俺は相手に背が向くくらい身体グイっとねじり、遠心力を利用して刀を振り抜く。
その一撃はカウンターのように、跳んできた鬼の頸を捉えた。
「水の呼吸・陸ノ型――”ねじれ渦・
スパっと鬼の頸が両断されていた。
その頭と胴体がべつべつの方向へと転がっていく。
「バカ、な……」
鬼はそれだけ言ったあと、灰となって消えた。
俺は安全を確認し、また曲抜きの要領で納刀した。
「……ふぅ~」
息を吐く。
なんとかなったな。といっても、とくに心配していたわけでもないけれど。
『氷の呼吸』は『水の呼吸』の派生だ。
だから、俺でもある程度なら大元であるそちらの型も使える。
ただし、あくまで本当にそれっぽい――
俺ではほかの呼吸を使っても、”錯覚”させられるほどの一撃を放てないのだ。
適正が『氷の呼吸』に寄りすぎているから。
しかし、今はまだそれを鬼に見せるわけにもいかず……。
だから今回のは非常手段。
「そうだ。カナヲが起きる前に戻らないと」
俺とカナヲの最終選別はそんな風にして過ぎていった。
そして……。
* * *
――1週間後。
俺たちは再び、藤の花の咲く境内へと戻ってきていた。
「「おかえりなさいませ」」
白髪と黒髪の子どもが声を揃えて言った。
太陽の光がまぶしかった。
俺たちは最終選別を無事、生き抜いたのだ――!