TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「……あ、ぅ……うぅ……」
どうやら俺は悪運が強かったらしい。
崖から放り出された俺だったが、なんとか死なずに生き残っていた。
落ちたときはまだ
さらには小さな横穴を見つけ、そこへ逃げ込むことができた。
でも、時間の問題だ。
入り口付近は溶岩の川で覆われていて、ここから出ることはできない。
そして、横穴の中も灼熱に包まれていた。
「熱い、熱いぃ……! 痛い、苦しい、だれか助けて……!」
ジゥウウウと身体が焼けていく。
俺の人生、ここで終わり……?
「せっかく
前世――あるいは未来の記憶というべきか。
俺はもっとべつの世界に生きていた。
そこは科学技術が今よりも発展した世界だ。
身体もこんな幼い少女ではなく、成人した男性だった。
そのときの名前は……。
「……ダメだ、思い出せない」
記憶は歯抜けになっていた。
きっかけがなければ思い出せないらしい。
今わかるのは”この世界”のざっくりとしたこと。
おそらく、あの鬼の言葉が記憶を呼び覚ます引き金となったのだろう。
人喰い鬼と、それを狩る者がいる世界。
鬼は非常に強力な術を使い、人はそれに対抗するため”呼吸”と呼ばれる力を使い……。
「けど、それがわかったからなんだっていうんだ。そんな知識が今なんの役に立つ!? このままじゃ、どうせ俺は死ぬだけ……いや、待て」
ふと自分の思考に引っかかりを覚えた。
あぁ、そうだ……ある! ひとつだけあるじゃないか!
「――”呼吸”だ!」
もし俺にわずかでも生存の可能性が残っているとしたら、それしかない。
この世界にだけ存在する、
「……すぅぅぅ、はぁぁぁ」
俺は深く呼吸をはじめた。
イメージするんだ。体内の熱を息とともに体外へと吐き出す様子を。
はは、自分でもこんなことバカバカしいと思っている。
もし、もとの世界で死に瀕してそんなことをやりはじめた人を見たら、気が触れたのだと思う。
「……すぅぅぅ、はぁぁぁ」
それでも俺は呼吸を続けた。
だって……ここは”あの世界”だから。
もとの世界ならありえなくても、この世界なら起こりうるかもしれないから。
いや、ちがう。できなければ……死ぬだけなのだ。
「……すぅぅぅ、はぁぁぁ」
信じろ! できると信じろ! 信じて呼吸し続けるんだ!
もう、それしかないんだからっ!
そのときだった。
ふと、自分の呼吸音が変わった。
「――スゥゥゥ、スゥゥゥ」
同時に、わずかに体温が下がった気がした。
今の呼吸だ。感覚を掴め、繰り返せ――”集中”しろ!
「ス、ゥゥゥ……、スゥゥ、スゥ……」
最初はなかなかうまくいかなかった。
だが、徐々に精度が上がっていく。
「スゥゥゥ、スゥゥゥ……」
やがて、安定して行えるようになっていく。
だが、その呼吸法は非常に体力を消耗した。
「スゥゥゥ……げほっ、ごほっ、スゥゥゥ……」
肺が痛い。息が苦しい。
だが、続けなければ死ぬ。
呼吸が途切れた途端に、すさまじい熱が襲ってきて身体を焼いた。
そこはまるで地獄の業火の中だった。
いったい、いつまで続ければいいんだ!?
終わりが見えず心が折れそうになる。それを支えたのは……。
――憎い憎い憎い! あの鬼が憎いッ!!!!
どこまでも深い憎悪だった。
俺の……”わたし”の家族や村のみんなを焼いたあいつを殺すまでは、絶対に死ねない!
「スゥゥゥ、スゥゥゥ」
意識がもうろうとしていた。
それでも、俺は死に物狂いで呼吸を続けた。
だんだんと、今の自分が
混ざり合っていくのを感じる。
そして……。
* * *
いつの間にか、丸1日以上が過ぎていた。
俺は固まった溶岩の上に立って空を見上げていた。
「そっか。わたし――生き残ったんだ」
まだ足の下の溶岩は、じんわりと熱を持っていた――。