TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第4話『氷の呼吸』

 

「……あ、ぅ……うぅ……」

 

 どうやら俺は悪運が強かったらしい。

 崖から放り出された俺だったが、なんとか死なずに生き残っていた。

 

 落ちたときはまだ溶岩(・・)が到達しておらず、雪がクッションになった。

 さらには小さな横穴を見つけ、そこへ逃げ込むことができた。

 

 でも、時間の問題だ。

 

 入り口付近は溶岩の川で覆われていて、ここから出ることはできない。

 そして、横穴の中も灼熱に包まれていた。

 

「熱い、熱いぃ……! 痛い、苦しい、だれか助けて……!」

 

 ジゥウウウと身体が焼けていく。

 俺の人生、ここで終わり……?

 

「せっかく思い出した(・・・・・)っていうのに……!」

 

 前世――あるいは未来の記憶というべきか。

 俺はもっとべつの世界に生きていた。

 

 そこは科学技術が今よりも発展した世界だ。

 身体もこんな幼い少女ではなく、成人した男性だった。

 

 そのときの名前は……。

 

「……ダメだ、思い出せない」

 

 記憶は歯抜けになっていた。

 きっかけがなければ思い出せないらしい。

 

 今わかるのは”この世界”のざっくりとしたこと。

 おそらく、あの鬼の言葉が記憶を呼び覚ます引き金となったのだろう。

 

 人喰い鬼と、それを狩る者がいる世界。

 鬼は非常に強力な術を使い、人はそれに対抗するため”呼吸”と呼ばれる力を使い……。

 

「けど、それがわかったからなんだっていうんだ。そんな知識が今なんの役に立つ!? このままじゃ、どうせ俺は死ぬだけ……いや、待て」

 

 ふと自分の思考に引っかかりを覚えた。

 あぁ、そうだ……ある! ひとつだけあるじゃないか!

 

 

「――”呼吸”だ!」

 

 

 もし俺にわずかでも生存の可能性が残っているとしたら、それしかない。

 この世界にだけ存在する、(ことわり)を超えた特殊技能。

 

「……すぅぅぅ、はぁぁぁ」

 

 俺は深く呼吸をはじめた。

 イメージするんだ。体内の熱を息とともに体外へと吐き出す様子を。

 

 はは、自分でもこんなことバカバカしいと思っている。

 もし、もとの世界で死に瀕してそんなことをやりはじめた人を見たら、気が触れたのだと思う。

 

「……すぅぅぅ、はぁぁぁ」

 

 それでも俺は呼吸を続けた。

 だって……ここは”あの世界”だから。

 

 もとの世界ならありえなくても、この世界なら起こりうるかもしれないから。

 いや、ちがう。できなければ……死ぬだけなのだ。

 

「……すぅぅぅ、はぁぁぁ」

 

 信じろ! できると信じろ! 信じて呼吸し続けるんだ!

 もう、それしかないんだからっ!

 

 そのときだった。

 ふと、自分の呼吸音が変わった。

 

 

「――スゥゥゥ、スゥゥゥ」

 

 

 同時に、わずかに体温が下がった気がした。

 今の呼吸だ。感覚を掴め、繰り返せ――”集中”しろ!

 

「ス、ゥゥゥ……、スゥゥ、スゥ……」

 

 最初はなかなかうまくいかなかった。

 だが、徐々に精度が上がっていく。

 

「スゥゥゥ、スゥゥゥ……」

 

 やがて、安定して行えるようになっていく。

 だが、その呼吸法は非常に体力を消耗した。

 

「スゥゥゥ……げほっ、ごほっ、スゥゥゥ……」

 

 肺が痛い。息が苦しい。

 だが、続けなければ死ぬ。

 

 呼吸が途切れた途端に、すさまじい熱が襲ってきて身体を焼いた。

 そこはまるで地獄の業火の中だった。

 

 いったい、いつまで続ければいいんだ!?

 終わりが見えず心が折れそうになる。それを支えたのは……。

 

 

 ――憎い憎い憎い! あの鬼が憎いッ!!!!

 

 

 どこまでも深い憎悪だった。

 俺の……”わたし”の家族や村のみんなを焼いたあいつを殺すまでは、絶対に死ねない!

 

「スゥゥゥ、スゥゥゥ」

 

 意識がもうろうとしていた。

 それでも、俺は死に物狂いで呼吸を続けた。

 

 だんだんと、今の自分がどちら(・・・)なのかもわからなくなってくる。

 混ざり合っていくのを感じる。

 

 そして……。

 

   *  *  *

 

 いつの間にか、丸1日以上が過ぎていた。

 俺は固まった溶岩の上に立って空を見上げていた。

 

 

「そっか。わたし――生き残ったんだ」

 

 

 まだ足の下の溶岩は、じんわりと熱を持っていた――。

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