TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第43話『鬼に金棒よりも強力な』

 もうすぐ春が近いというのに、夜の空気は吐く息が白くなるほど冷たかった。

 俺は町の大通りをひとり、羽織を被衣(かつぎ)のように頭から被って歩いていた。

 

 あたりは暗闇と静けさが支配していた。

 光源は俺の持つランタンだけだった。

 

 そのとき……。

 

 

 ――バァアアアン!

 

 

 発砲音が反響した。

 撃ち抜かれた俺は、その場にバタリと崩れ落ちた。

 

 そのまま、1秒……2秒……俺はバッ! とその場から転がる。

 直後、俺が倒れていた地面に弾痕が刻まれた。

 

 俺は”作戦”が失敗したことに「チッ」と舌打ちした。

 

「気づかれたか」

 

 俺は路地に飛び込んで民家のひとつを遮蔽物にすると、頭から被っていた羽織を払った。

 そこにはきれいに穴が空いていた。

 

「いいアイデアだと思ったんだけどな」

 

 俺の襟首からはぴょこんっと背中にかついだ長い刀の柄が突き出していた。

 その柄に羽織を引っ掛けて、身長を誤魔化していたのだ。

 

 敵が人間か鬼かはまだわかっていなかったが……。

 老人たちの話から、敵が銃をエモノとしていることは明白だったから。

 

「わたしを仕留めたと思って、回収に来たところを狩る予定だったのに」

 

 被害者は行方不明になっているという話だ。

 ならば人間だろうと鬼だろうと、殺したと思えば近づいてくると予想していたのに。

 

「けど、やっぱり頭を狙ってきたな」

 

 この事件の犯人は、銃に強いこだわりがあると思っていた。

 町中で人を攫うなら隠密性にすぐれた刃物……あるいは爪や牙のほうが向いている。

 

 にもかかわらず銃をあえて使うということは、射撃の腕に絶対の自信があるのだ。

 あるいは……。

 

「人殺しを射的ゲームだとでも思っている、か」

 

 ヘド(・・)が出るが、現代人の俺だからこそ相手がどこを狙うか予想できた。

 だって、俺だってもしもこれがゲームで人間が的なら――ヘッド(・・・)ショットを狙うから。

 

 だから、そこに罠を張った。

 あえて頭を狙いやすいようにランタンで照らして、誘導したのだ。

 

 逆に頭以外なら、撃たれたとしてもある程度は隊服が防いでくれるはず。

 最悪、貫通しても呼吸で出血を止めることはできる。

 

 肉を斬らせて、骨を断つ作戦。

 まぁ、結局は気づかれてしまったのだけれど。

 

「目がいい? それとも用心深い? どちらにせよ厄介だな、これは」

 

 だが、これで相手のいる方角はわかった。

 俺は民家を遮蔽物にしながら全力で駆けていた。

 

 さっきの銃声、着弾から音が聞こえるまでがあきらかに遅かった。

 驚くほど遠方からの精密狙撃。

 

「逃げられる前にすこしでも近づかないと――、っ!?」

 

 進行方向でなにかがチカッと瞬いた。

 俺は受け身を取るヒマもなく、慌てて前方へとダイブした。

 

 たなびいた髪の一部がパン! と弾けた。

 遅れて銃声が轟いた。

 

「ど、どうなってるの!?」

 

 敵の移動が早すぎる!?

 それに、いくらなんでも夜目が利きすぎだ!?

 

 俺は最初の銃撃を受けた際、その場にランタンを捨ててきた。

 だから、今は完全に暗闇に紛れていたはずなのに。

 

 それに白い羽織を狙ってくるならまだしも……。

 ヤツは正確に頭部を撃ってきた。

 

「さすがに人間に出来る芸当じゃない。鬼で確定だな。ったく、ただでさえ身体能力にすぐれた鬼が銃まで使うとか卑怯すぎるでしょ!?」

 

 もちろん、納得する部分もなくはない。

 人間を殺すのに、人間を殺すための道具を使うのは非常に合理的だ。

 

 それに、こちらは近づかねば鬼の頸を斬れないのだ。

 一方的に遠距離から攻撃できる手段があるなら、使ったほうが得だろう。

 

「くそっ」

 

 俺は急いでほかの遮蔽物へと飛び込み、またその陰を駆けた。

 今回は遠かったから、マズルフラッシュを見てからでも躱せた。

 

 でも、近づくほどその猶予は失われていく。

 どれだけ鍛えても……”この世界”ではどうかわからないが、人間の反応速度には上限がある。

 

 ――0.5秒。

 

 人間は行動するまでに、物理的にそれだけの時間が必要となる。

 ただし、俺が”見た”と認識してからではない。

 

 無意識が判断してから、の計算だ。

 俺たちが『避けよう』と考えるよりも0.3秒前からすでに身体は動きはじめている。

 

 思考は無意識のあとづけにすぎない。

 だから、差し引きで0.2秒。

 

 距離にして――50m。

 

 それが理論上、俺が躱せる限界の距離だ。

 敵がどんな銃を使い、その初速がどれほどなのかはわからないため、おおよそだけど。

 

「そもそも、そこまで近づけるかどうかって問題が――、っ!? またっ!?」

 

 俺はマズルフラッシュが見えると同時に、転がるようにして銃弾を躱した。

 今回は来るとわかっていたため、そこまで体勢を崩さずに済んだ。

 

 そのまま止まらず、遮蔽物を移しながら駆け続ける。

 この調子で行けばだんだんと距離は縮まるはず……。

 

「……?」

 

 しかし、次の銃弾を躱したとき違和感を覚えた。

 想定よりも距離が――縮まっていない(・・・・・・・)

 

「ま、まさかコイツ引き撃ちしてるのか!?」

 

 いや、距離という有利を保つならそれがベストにはちがいない。

 だが、これが本当に鬼の取る戦法なのか!?

 

 銃を使っていたり、やけに用心深かったり、距離を取ったり。

 例外が多すぎる!?

 

「今回の任務、割り当てられたのがわたしでよかった」

 

 おそらくほかの新人隊士だったら荷が重かっただろう。

 それに、俺の経験が言っていた。

 

 この鬼はいずれ必ず――強くなる、と。

 

 人が消えはじめた時期から逆算すると、この鬼はまだそこまで人を喰っていないはずだ。

 にもかかわらず、すでにこれほど厄介な存在になっている。

 

 俺は感謝した。

 今、ここでコイツを狩るチャンスを与えられたことに――。

 

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