TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

46 / 136
第45話『ゼロ秒の抜刀』

 

 鞘はただ頑丈なだけではいけない。

 壊れるべきときに壊れるのが、真に優れた鞘なのだ。

 

 実際、門番なんかは刀を地面に立てて警戒しているが、有事の際は刀を抜くのではなく鞘の先端――(こじり)を地面に打ちつけて、鞘を割ることですぐさま臨戦態勢に移行するとか、しないとか。

 そのために、鞘のつなぎ目を米粒で貼りつけるだけに留めている場合もあるらしい。

 

「――死ね」

 

 俺の日輪刀が鞘という重りを取り払われて加速する。

 刃が鬼の頸に触れ――。

 

「こん、のぉっ……!?」

 

 鬼がギリギリで身体を逸らす。

 と同時に、銃身を立てた。

 

 ギィイイイン! と鉄同士がぶつかり金属音が響いた。

 このまま押し込……チッ。

 

 俺は刀を引いた。

 ……ダメだ、浅い。

 

「はぁっ、はぁっ……クソガキが、驚かせやがって!」

 

 鬼は頸を押さえながら、ビキビキと怒りで顔中に血管を浮かびあがらせていた。

 腕からダラダラと血が流れていたが、すぐに傷は塞がった。

 

 あのままでは力比べになっていた。

 そうなれば俺のほうが態勢を崩され、不利になっていただろう。

 

 ――遠心力が足りなかった。

 

 あるいは速度が足りなかった。

 以前の俺ならこの程度の鬼、一瞬で仕留められていたはず。

 

 日輪刀と氷の呼吸の有無による差がここまで大きいとはな。

 だが――次は仕留める。

 

 俺は長い刀を肩にかつぐようにして、地面を蹴った。

 

「くっ!」

 

 鬼が牽制のように銃弾を放つ。

 だが、銃口から射線が丸わかりだ。

 

 銃弾が頬や脇を掠めるようにして、後方へと飛んでいく。

 俺の身体は射撃の的にするには小さすぎるらしい。

 

 なにより、相手の武器はボルトアクション式の歩兵銃だ。

 連射が利かない。

 

「このまま押し切らせてもらう」

 

 先ほどよりもより強い遠心力を!

 より強い一撃を!

 

 

「水の呼吸・拾ノ型――”生生流転(せいせいるてん)(モドキ)”」

 

 

 一撃、二撃、三撃……!

 身体ごと回転させながら、何度も長い刀を鬼へと打ちつける。

 

 鬼はそれらを銃身で受け止める。

 だが、斬撃を重ねるたびに俺の回転力は増し、威力が上がっていく。

 

「この、クソがぁっ!? 銃が刀に負けるわけがっ!?」

 

 鬼の腕が、俺の攻撃の重さに負けて弾かれた。

 ついに頸元がガラ空きとなる。

 

「これで終わりだ」

 

 俺が最後の一撃を食らわせようとした、そのときだった。

 鬼の顔がニィっと歪んだ。

 

 その視線は俺を見ていなかった。

 同じ方向をチラリと見ると……。

 

 

「――ひぃいいいっ!?」

 

 

 女性の怯えた声が響いた。

 そこにはランタンを手にした若い女の人が立っていた。

 

 バカっ!?

 こんな近くまで様子を見に来たのか!?

 

「くくっ、オレはツイてる」

 

 鬼はその銃口を若い女性のほうへと向ける。

 ダメだ、間に合わない……殺される!

 

 さっきまでは俺以外を狙ったりはしなかった。

 だが、追い詰められたことで鬼もなりふり構わなくなっていた。

 

「くはははっ!」

 

 鬼の人差し指が、その引き金を――引こうとした、その瞬間。

 バァアアアン! と一拍早く、発砲音が響いていた。

 

「……あん?」

 

 鬼の腕から血が噴き出していた。

 同時にしわがれた叫び声が轟いた。

 

 

キヨシ(・・・)ぃいいいっ!」

 

 

 そこには銃を構えたおじいさんの姿があった。

 まさか、俺を追ってきたのか!?

 

 だが、助かった!

 そのおかげで一瞬、鬼の行動が遅れた。

 

「殺させない」

 

 俺は攻撃の狙いを鬼の頸からその手に持つ銃へと狙いを変えた。

 刀をぶつけ、銃口を叩き落とす。

 

 同時にバァン! と発砲音。

 若い女性の足元に弾痕が刻まれた。

 

「こ、このクソジジイがジャマしやがってぇえええっ!」

 

 鬼がわき目もふらず、逃げ出そうとする。

 追撃したいが、強引に狙いを変えたせいで『生生流転』の回転は止まってしまっていた。

 

「逃げるな、キヨシぃいいい!」

 

 バァン! とおじいさんが飛び退る鬼に向かって発砲する。

 銃弾は見事、鬼の胸部に直撃する。

 

 おじいさんはガシャコンとボルトを動かして弾を装填し、続けざまに銃弾を撃ち込んだ。

 一発残らずそれらは鬼に命中した。

 

 良い腕だ。

 たしか、元軍人と言っていたっけ?

 

 普通のケモノや人間相手なら倒せていただろうが、それでは鬼は殺せない。

 着弾の衝撃でフラつきこそするものの、鬼は痛みに顔を歪めることすらない。

 

 逆に俺はフレンドリーファイアが恐くて、鬼に近づけない。

 俺はおじいさんに叫んだ。

 

「もう十分です! 危ないから、あとはわたしに任せて下がっていてください!」

 

「おぬしのような子どもひとりに任せられるか! お嬢ちゃんこそ危ないから下がっとれ! こやつはわしが仕留めねばならんのじゃ! 死ね、死ねぇえええ!」

 

「落ち着いてください! 彼は鬼です! 鬼は銃では倒せません!」

 

 おじいさんは興奮……いや、なかば錯乱状態だった。

 あーもう、世話の焼ける!

 

 俺は再度装填しようとしていた彼の銃へと手を伸ばすと、その銃身をがしっと掴んだ。

 連射によって高熱になってしまっていたのだろう。

 

 ジュゥゥウ……!

 と、肉の焼ける音が鳴った――。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。