TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「なっ!? なにしとる嬢ちゃん!? ヤケドするじゃろうが!? すぐに手を離しぃっ!」
おじいさんが慌てふためく。
しかし、俺の行動によって彼は我に返っていた。
俺は握っていた銃身から手を離した。
それからパッと手のひらを開いて、彼に見せてやる。
「大丈夫です。ほらっ、ヤケドなんてしてませんから。安心してください」
「そ、そうか。よかった。この気温のおかげでそこまで高温になっとらんかったのか」
「そうかもしれませんね」
本当は『氷の呼吸』の応用で熱を逃がしただけ。
あの灼熱を耐え抜いた俺にとって、この程度の熱はぬるま湯に等しい。
「それよりも落ち着きましたか?」
「あ、あぁ。すまんかった」
「それより『キヨシ』というのは?」
「……あやつはわしの孫。いや、孫だったものじゃ」
言われてみると鬼の顔にはおじいさんの面影があった。
でも……。
「え? おじいさんのお孫さんは亡くなったはずじゃ?」
「ばあさんたちから聞かんかったか。キヨシの死体は帰ってこんかった、と」
「そういえば」
「わしは勘違いしておった。帰ってこんかった死体はみんな鬼に喰われた、あるいは連れ去られた。キヨシも被害者のひとり……じゃと」
「でも、ちがった?」
「そうじゃ。キヨシこそが鬼となった当人じゃった。……わしもこの目で見るまで信じられんかったが」
軍はおじいさんたちにショックを与えないために、その事実を隠したのかもしれない。
彼らの孫も被害者のひとりだと、そう思わせようとしたのかもしれない。
あるいはたんに『軍の身内から鬼が出た』なんて失態を隠そうとしただけかもしれないが。
彼は悲し気に言う。
「こんなこと絶対に、ばあさんには言えぬ。あいつは今も、孫は被害者じゃと思っとる。わしだって叶うならば、知りたくはなかった」
「……」
おじいさんが銃を握る手は震えていた。
怒りと悲しみと……それから絶望で。
鬼という存在はことごとく悪しか生まない。
そんな話を聞いて「くくく」と鬼は笑っていた。
「キサマなぞ知らんな。ったく、余計なことをしやがって。そのガキが女を庇おうとしたところを撃ち抜くつもりだったのによぉ。人間は”弱者”に足を引っ張られるのが大好きだからなぁ!」
「お前は軍人じゃろうが! それだけは言っちゃあいかん!」
「はぁ? 知るかよ。説教とかジジイ臭くてかなわねぇな」
「軍はお国を――”弱者”を守るために戦う存在じゃろうが!」
「あーあー、うっせぇなぁ。ジャマしてくれた礼だ。その頭を撃ち抜いて死体を晒してやるよ。硬いうえに骨と皮しかない肉など喰う価値もない」
「お前、わしに向かって……そんな口の利きかたを教えた覚えはないぞ!」
「だから、オレもお前なんて知らねーっつの。さっさと死ねよ」
「っ……!」
おじいさんはキッと唇を引き結んだ。
きっと、まだまだ言いたいことや思うところがあったはずだ。
だが、もう言葉が通じないとわかったのだろう。
鬼とはそういうものだ。
人間のころの記憶はほとんどなくなる。
残るのは恨みや怒りなどの悪意、そして……食欲だけ。
「お嬢ちゃん、わしにも手伝わせてくれ。これはわしがケジメをつけねばならんのじゃ」
「そ、それは」
「くくく……お前も大変だなぁ、クソガキ。弱者ほど自分の身のほどを知らない」
正直、鬼の言うとおりだと思った。
俺も苦い顔になってしまう。
戦国時代でもときおり、似たようなことがあった。
鬼を狩ろうとしていると……この幼い外見のせいで、手伝おうとしたり、守られるはずの一般人が逆に戦闘に加わってきたりするのだ。
おじいさんの場合、この鬼と因縁があるし余計にだろう。
だが、あいにく足手まといだしジャマだし……。
「耳を貸せ、嬢ちゃん」
「え?」
「あやつが握っておるのは”
「……!」
おじいさんは小声で言った。
俺は表情が顔に出かけたのを、口元のマフラーを引き上げて誤魔化す。
おじいさんは、さすが元軍人というだけあって銃器に詳しいらしい。
目で続きを促す。
「装弾数は5発。発射間隔からして、おそらく最後に装填したのは3発前」
「つまり」
「あと2発で弾切れとなり、必ず隙が生まれる」
それは値千金にも等しい情報だった。
だが……。
「情報だけはありがたく受け取っておきます。ですが戦闘そのものはわたしに任せて……」
「――わしはあやつに攻撃するフリをして、そこの若いのを連れて戦場から遠ざかる」
「……えっ?」
おじいさんは戦士の顔でそう告げた。
まさか、さっき鬼に対して言った「わしが倒す」というのは演技だったのか?
いや、間違いなく本心だった。
ならば、だれかに任せて自分は退くというのは、容易な決断ではなかったはず。
相手はおじいさん自身の孫だ。
己の手でなんとかしたいと思わないわけがない。
「……っ」
おじいさんの口の端からは、噛みしめすぎたのか……ツーっと血が垂れていた。
なんという覚悟だろうか。
彼は自分の感情をすべて排し、合理的に判断を下したのだ。
自分たちがいては足手まといだ、と。
彼が軍人であったとき、どれほど有能な兵士であったかを容易に想像できた。
すくなくとも、それは俺にはできなかったことだった――。