TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
元軍人のおじいさんは、鬼となった我が孫を俺に任せるという。
自分で討ちたいだろうに……。
俺たち鬼殺隊はそんな思いを背負って戦っている。
その思いを絶対に裏切るわけにはいかない。
「……わかりました。あちらの若い女性のこと、お願いします」
「あぁ」
小声でのやり取りを終えて、俺たちは鬼に向き直る。
鬼は「くくく」と笑った。
「作戦会議はもう終わりか?」
「わざわざ待ってるなんて、ずいぶんと余裕だね」
「はっ、隙を見せたら即座に斬りかかるつもりだったクセに、よく言うぜ。女の、しかもガキのクセにそこいらの軍人よりよっぽど狂暴じゃねぇか」
狂暴とは、失敬だな。
鬼なんて一部の例外を除き、ことごとく滅ぼしてしまえばいいと思っているだけなのに。
そんな会話をしながら、鬼はジリジリと俺たちから距離を取ろうとしている。
会話はただの時間稼ぎだ。
「知っているか? 過去、オレと同じように銃をエモノに選んだ鬼は”十二鬼月”になったそうだ。といっても下弦の弐止まりだがな」
十二鬼月――鬼の中でもとくに強い者たちのことだ。
上弦6体、下弦6体。合わせて12体。
戦国時代にはまだ、そういった区分はなかった。
とはいえ当時にも、無惨に選ばれ、特別に多くの血を分け与えられた鬼は存在したが。
「しかし、聞けばその下弦になった鬼というのも、本当に得意だったのは銃ではなく刀だったそうだ。それが転身したのだと」
俺は鬼の会話を聞きながら、間合いを測っていた。
それは鬼も同じだ。会話をエサにして、俺の隙ができるのを待っている。
鬼とちがって人間には疲労がある。
ずっと集中や緊張を強いられれば、どうしたってボロが出るのは人間のほうだ。
「では、オレならどこまで強くなれると思う? 銃の扱いに長けた――才能と経験を備えたオレなら、鬼としてもっと上までいけるとは思わないか?」
「べつに思わない」
「”あの方”もそれを期待して、オレを鬼にしたのだろう」
「なら期待外れだったね。お前は今日、ここで終わるんだから。無名の鬼のままで――ねっ!」
言って、俺は地面を蹴った。
同時に鬼も飛び退って、俺から距離を取ろうとする。
さすがに追いかけっこになると、鬼に分がある。
しかし……。
「キヨシ、逃がさんぞぉっ!」
バァン! と発砲音。
鬼の足を銃弾がかすめ、一瞬だが逃げ足が遅くなる。
「ええいっ、このクソジジイめ! どこまでも忌々しいっ!」
鬼は牽制するようにおじいさんのほうへ銃口を向け……。
しかし、彼らのことは撃たずにそのまま後退を続けた。
弾丸が残り少ないから、気軽に撃てないのだ。
おじいさんの言っていたことは事実だった。
そして、鬼の視線が突進していく俺へと集中している間に、おじいさんは若い女性を促してひそかに後退をはじめる。
俺はこっそりと拾っていた鞘の破片を手裏剣のように投擲する。
「このっ、小癪なマネを!」
顔面へと飛んでいったそれを、鬼が払い落とす。
なにかダメージがあるわけじゃない。
だが、鬼の視界を一瞬封じた。
そのまま俺は型を使って、連撃を繰り出す。
「水の呼吸・肆ノ型――”
よどみない動きでの波状攻撃。
鬼の注意をこちらへと向けさせ続ける。
距離があったこともあり、鬼にはいずれの斬撃も届かない。
どころか身体能力の差もあり、先ほどよりも鬼が遠ざかってしまう。だが……。
「あん? あのジジイども、どこへ行きやがった?」
鬼の目を引き、おじいさんたちを退避させることに成功していた。
これで思いっきり戦える。
「よそ見している余裕なんてあるの?」
「このっ……ええいっ、うっとうしい!」
バァアアアン! と発砲音。
俺は一気に距離を詰めるため、回避を最小限――首を傾けるだけにして突っ込んでいく。
銃弾は眼球のすぐそばを掠めながら飛んでいった。
顔からブシュウウウ! と血が噴き出す。
「なんなんだよ、お前はぁ!? 普通、そんなとこに弾が飛んでくりゃまばたきくらいはするだろうが!? いや、そうじゃなくても痛みで多少は顔を歪めろよ! 怯めよぉ!」
「あいにくだけど、わたし痛覚が鈍いの。悪かったね」
身体の表面を凍らせたりした後遺症だ。
俺は痛みに顔を歪めるどころか、笑みを浮かべてやった。
「ひぃいいいっ!?」
なぜか鬼のほうが人間である俺に怯えて、悲鳴を上げていた。
つくづく失礼なやつだ。
俺はただ、これ以上離されると再装填のスキを与えてしまうから……。
ここで決めるため、合理的に判断しギリギリまでリスクを負っただけなのに。
「”弱者”はお前のほうだ、鬼」
鬼も自分に死が近づいていることをようやく悟ったのだろう。
その表情が恐怖に染まっていく。
「い、イヤだ……死にたくない! う、うわぁあああっ!?」
俺の刃が鬼に届きはじめる。
ガキン、ガキンと鬼はギリギリで攻撃を銃身で受け止める。
だが、それも次第に追いつかなくなっていく。
鬼は恐慌したように叫びながら、銃口をこちらへと向けた。
「く、来るなぁあああっ!? お前だって、人のカタチをしたものを壊すのが好きな同類のクセに! なんで、なんでお前だけがぁあああっ!?」
鬼は引き金を引き――カチリ、とむなしく音が響いた。
最後の1発は、躱す必要すらなかった。
「……は? 不発? そ、そんな……最後の最後で?」
「お前は弱者を切り捨てた。だから、最後はお前も見放された。銃にすらも」
何度も俺の斬撃を銃身で受け止めていた。
それでガタがきていたのだろう。
「これで終わりだ」
俺はそう鬼に告げた――。