TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
俺は生き残った。
生き残ってしまった。
「――わたし、ひとりだけが」
雪で真っ白に染まっていた村はもうどこにもなかった。
あたり一面、固まった溶岩で真っ黒に均されていた。
全身が痛かった。力が入らない。
それでも、俺はズルズルと足を引きずるようにして歩き回った。
「お母さん? おばあちゃん? みんな? ……うわぁあああん!」
俺はその場に崩れ落ちた。
声はむなしく響いていた。
返事はない。
あの鬼もとっくにどこかへ去ってしまったらしい。
「……」
俺はひとしきり泣いたあと、再び立ち上がった。
こんなの全部、きっと悪い夢だ。
ここにはだれもいない。
じゃあ、みんな避難したんだ。本当はだれも死んでいなくて……。
「そうだ、そうにちがいない」
それなら会いに行かないと。
見つけないと。
俺はそう、どこへともなくフラフラと歩き出した。
やがて、あたりの景色は黒から白へと変わっていった。
溶岩から離れたことで、冬の冷たさが戻ってくる。
息が白く染まり、冷気が肌を刺してくる。
「……寒い」
笠も蓑も捨ててしまった。
燃えてしまって今は着物1枚だけ。
凍えそうだった。身体も、心も。
母の温もりが恋しかった。
「……はぁ、……はぁ」
だんだんと意識が薄れていく。
とっくに限界なんて越えていた。
やがて俺は前へと進むことをやめた。
本当はわかっている。もうみんなは、どこにもいないんだって。
「……はぁ」
目がかすむ。
結局は俺も死ぬのか。どこへも辿り着けず。
「あぁ、でも死んだら……お母さんたちに会えるかな」
そんなことを呟いた、そのときだった。
俺は目の前にだれかが立っていることに気づいた。
「……?」
いったいいつの間に?
いつからそこにいたのだろう、80歳は越えていそうな老人だった。
そして、そのこめかみには――”痣”があった。
俺はそれを見たのを最後に、意識を失った――。
* * *
「……? ……ハッ!?」
なにやらおいしそうな匂いがして、俺は目を覚ました。
飛び起きようとして、しかし激痛が走って倒れる。
それからもう一度、今度はゆっくりと身体を起こした。
あたりを見渡す。
ここはどこか小屋の中らしい。
「目が覚めたか」
「あなた、は……けほっ、こほっ!?」
「まずは飲みなさい、そして食べなさい」
老人がひしゃくを差し出してくる。
俺はひったくるようにしてそれを奪って、ごくごくと水を飲んだ。
何杯か飲むと、今度はきゅぅうううとお腹が鳴った。
老人は囲炉裏に吊るした鍋から、みそ汁を器へ注いでくれた。
米や漬物とともに目の前へと置かれる。
俺はむさぼるようにそれらを食らった。
「むしゃむしゃ、もぐもぐ……げほっ、ごほっ……ごくごく! ぷはぁ~!」
山盛りだったのに、あっという間にすべて平らげてしまった。
それでようやくひと心地着いた。
我に返って、老人に問う。
「ご、ごめんなさい。わたし、その……あなたが助けてくださったのですか?」
見れば自分の身体は包帯でぐるぐる巻きだった。
ツンと薬草の臭いが鼻をつく。
きっと俺は全身、ひどい火傷を負っていたのだろう。
「私は助けるというほどのことはしていないよ」
「それでも、ありがとうございました」
俺は痛む身体を動かし、三つ指をついて頭を下げた。
紛れもなく、この老人は俺の命の恩人だった。
と、頭を下げて気づく。
頬の横へと垂れてきた髪が――真っ白だった。
「え!? あれ!?」
触ってみるが、間違いなくそれは自分の髪だった。
長時間、高温に晒され続けたせいか、それとも火傷のせいか。
あるいは――限界を超えて”呼吸”を使い続けたせいかもしれない。
「大丈夫」
「え?」
「君は若い。火傷は痕も残らず、きれいに治るだろう」
「それは、よかったです」
「ただ、その髪は一生そのままだろう」
「……そう、ですか」
まるで心の中を読まれたかのようだった。
けれど、と思う。
もとの
よく思い出せなくなっていた。
大好きな母と同じ色だから、とお気に入りだったはずなのに。
「では、私は行くとしよう」
「えっ!?」
老人はいつの間にか出入り口に立っていた。
まるでコマでも飛んだような感覚。
普通に俺の目の前で立ち上がり、歩いてそこへ行っただけだ。
なのに、あまりにも静かで、自然で……声を発されるまで気づかなかった。
「この小屋はしばらく自由に使って構わない。そのあとは近くの村へ行きなさい」
「あ、あのっ、お待ちください! どうかお名前をお聞かせいただけませんか!?」
「あぁ、構わないよ。私の名は……」
「――
……よ、”縁壱”!?
その名前を聞いた瞬間、「やっぱり!」という思いとともに脳内で激しいスパークが起こった。
一気に記憶が呼び覚まされる。
そうだ……俺は、彼を知っている!
老人の姿ではあるが間違いない。
彼こそが『日の呼吸』の開祖、はじまりの呼吸を作った者。
――”耳飾り”の剣士だ。
気づけば俺は彼の足元に縋りついた。
そして、言っていた。
「お願いします! どうか、どうか……!」
「――わたしに、鬼を殺す術を教えてください!」
それが俺と”お師匠さま”との出会いだった――。