TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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~幕間~
閑話2『軍人Kの記録』


 

 祖父は優秀な軍人だった。

 オレ(・・)はそんな祖父の自慢話を聞いて育った。

 

「***、よく聞け。敵をうまく殺すコツはのう……」

 

 敵の頭をどうやって吹き飛ばしたか。

 どれだけの敵を倒したか。

 

 祖父はそれらを雄弁に語ってくれた。

 オレにとって祖父は英雄だった。

 

「じいちゃんはすごい!」

 

「そうじゃろう、そうじゃろう!」

 

「オヤジ、そう言った話を***に聞かせるのはやめてくれと何度も言ってるだろう」

 

「軍人をバカにするのか!? おぬしらが今、こうして平穏に暮らせるのはだれのおかげじゃ!? 命を張って戦ったわしらのおかげじゃろうが!」

 

「そ、そういうつもりで言ったんじゃ」

 

「だいたい、お前こそわしの息子のクセに軟弱すぎる!」

 

「お義父さん、どうかそのあたりで。ただ、私も、***にそういうことを教えるのは……」

 

「女が男の話に口を挟むんじゃあない! どういう教育を受けてきたんだ!?」

 

「す、すみません。でも……」

 

「ええいっ、うるさい!」

 

 父と母は祖父の武勇伝をあまり快くは思っていなかったようだった。

 けれど、そんなのオレには関係なかった。

 

 いつもオレを叱ったりするふたりも、祖父の前ではタジタジだったから。

 やっぱり祖父こそが最強なんだ!

 

 そんなある日のことだった。

 ――父と母が強盗に襲われて、命を落とした。

 

 聞けば、ふたりにはほとんど抵抗のあとがなかったという。

 オレにはそれが納得できなかった。

 

「なんで、ふたりとも戦わなかったんだよ!?」

 

 心底から怒りがこみあげた。

 きっと強盗とも話し合いで解決できるだなんて、バカなことを思ったにちがいない。

 

 あのふたりらしい臆病な選択だ。

 と同時に理解した。

 

 だから(・・・)死んだのだ、と。

 ふたりは軟弱だったから、敵との戦いから逃げたから、そうなった。

 

 そのころから祖父はパッタリと戦争自慢をしなくなった。

 きっと、祖父もオレの両親の弱さ加減に呆れきったのだろう。

 

 それからすこしして、オレは志願して軍人になった。

 祖父はそんなオレをおかしなまなざしで見ていた。

 

「な、なぜじゃ……なぜ、軍人になど。お前の両親を殺したのは……」

 

「『なぜ』? じいちゃんこそ、オレが軍人になることをよろこんでくれないの?」

 

「……それ、は」

 

「オレもじいちゃんみたいな強くて立派な軍人になって、いっぱい敵を殺すよ!」

 

 入隊してすぐにオレは頭角を現した。

 オレには射撃における天賦の才があった。

 

 まぁ、当然だな。

 なんたって、オレには優秀な軍人である祖父の血が流れているのだから。

 

 それにオレには「立派な軍人になる」という信念と覚悟があった。

 ほかのヤツらに負けるはずがない。

 

 オレはいくつもの戦場ですさまじい戦果をあげた。

 人を撃ち殺すのが楽しくてたまらなかった。

 

 祖父への土産話がまた増えた、とよろこんだ。

 いつしか、オレに師事してくるようなヤツまで現れていた。

 

「***さんすげぇ! ボクに射撃を教えてください!」

 

「知りたきゃ勝手に見て、盗め」

 

「うすっ!」

 

 しかし、そんな栄光は長くは続かなかった――。

 

   *  *  *

 

「あーあ。どうせ志願で兵隊になるなら、海軍のほうにしとけばよかったっすよ」

 

「軽口を叩くな」

 

「いいじゃないっすか、ちょっとくらい」

 

 オレたちは出兵先の戦場にいた。

 いつもオレの射撃を見ていたそいつも同じ隊だった。

 

「海軍じゃこんな汗臭さや泥臭さとは無縁だし、制服もかっこいいし。今ごろモテモテだったにちがいないっすのに」

 

「まさかお前、そんな不純な動機で軍隊に入ったのか!」

 

「いやいや、冗談! 冗談っすよ!」

 

「次にそんなこと言ったら……、っ!」

 

 そのとき、爆発音が響いた。

 敵の急襲だった。

 

 それ自体はとくに珍しいことではない。

 だから、問題はべつにあった。

 

 そのとき、オレたちは叉銃(さじゅう)をしていた。

 パーツの合間に砂などが入らないよう、お互いの銃を組み合わせて立てかけていた、のだが。

 

「うわぁあああっ!」

 

「おいっ!? ……くそっ!」

 

 錯乱したその隊員がオレの銃を間違って持っていってしまったのだ。

 仕方なく、オレは代わりにソイツの銃を借りた。

 

 そして、引き金を引いた。

 その瞬間だった。

 

 

 ――銃が暴発した。

 

 

「ぎゃぁあああ!?」

 

 オレは悲鳴を上げ、顔を押さえた。

 あとでわかったことだが、それは整備不良が原因だった。

 

 オレは後方へと運ばれていった。

 命に別状はなかった。

 

 だが、それを幸いだなんて思えなかった。

 だってオレは――片目を失っていたから。

 

「すみません。ボクのせいでっ」

 

「そうだ、すべてお前のせいだ! 消えろ! 二度とオレの視界に現れるな!」

 

 祖父のように強い軍人になることは、オレの唯一の夢だった。

 オレはその道を絶たれたのだ。

 

「***、大丈夫か」

 

「じいちゃん……」

 

 本国の軍病院へと送還されたオレのもとへ、祖父が見舞いに来ていた。

 オレはもう戦えなくなってしまった。

 

 でも軍をやめたくないんだ。

 前線ではもう戦えないけど、立派な軍人になる夢だけは諦められないんだ。

 

 射撃の腕を見込まれて、銃の開発のほうへと回らないかって提案をもらえて……。

 と、そんな話をしようとしたオレに彼は言った。

 

 

「お前は、もう――軍をやめい」

 

 

「……え?」

 

 祖父の言葉がうまく理解できなかった。

 なぜ、そんなことを言うんだ。なぜ……。

 

「わしが間違っとった。お前はわしとはちがう。お前は、お前の両親と同じくやさしい子じゃ。だから、兵隊なんてやめて家に戻って来い」

 

 その瞬間、理解した。

 オレは祖父に見限られたのだ、と。

 

 この身には祖父の血だけじゃなく、あの両親の血も流れているから。

 オレがあのやさしい……弱い(・・)両親の息子だから。

 

 そんな絶望に苛まれていたオレに、さらなる絶望が突きつけられる。

 偶然、聞いてしまったのだ。

 

「そういえば聞いたぜ、出兵先での話。お前それ、ぜってーワザとだろ」

 

「……んなわけないじゃないっすかー。事故っすよ、事故」

 

 その声はあの暴発した銃の持ち主だった。

 オレが目を失う原因となった男だった。

 

 どうやら出兵先から戻っていたらしい。

 彼らはオレに気づかず会話を続けていた。

 

「よく言うぜ、お前もアイツのこと嫌いだったクセに」

 

「……ハっ、そうっすね。ちょっと射撃の才能があるだけでいつもエラそうにしていて。大っ嫌いでしたよ、本当に」

 

「ギャハハハ! 同感だわー! つーかやっぱりお前、ワザとじゃねーか!」

 

「だから、事故っすよー。事故、事故」

 

 言いながら彼らはヘラヘラと笑っていた。

 腹の底から怒りと憎悪が湧き上がった。

 

 こんなヤツらのせいでオレは夢を奪われたのか!?

 光を失わされたのか!?

 

 殺してやる、殺してやる、殺してやる!

 膿を吐き出すばかりで二度と光を捉えることのない眼球の痛みに悶えながら、オレはフラフラと深夜に徘徊し……そして、出会った。

 

 

「――力が欲しいか? 恨みを晴らす力が」

 

 

 そうしてオレは新たな目を手に入れた。

 以前よりもずっと遠くまで、暗闇まで見通せるようになった。

 

 それから強靭な肉体も。

 オレは保管されていた銃を奪うと、同じ隊だった連中を皆殺しにした。

 

「***さん、誤解っす……本当に事故だったんっす。ただ、まわりから何度も責められてヤケになって、それでボクあんなことを。でも、これも正当な罰――」

 

 その話を最後まで聞くことなく、オレはソイツを撃ち殺した。

 これで祖父にも認めてもらえるはずだ。

 

 だってオレはついに圧倒的な強者に、最強の軍人になったのだから。

 だれよりも上手に人を撃ち殺せるようになったのだから。

 

「……じいちゃんってだれだ?」

 

 首を傾げる。

 あたりに散らばった死体を見渡す。

 

 彼らになぜ恨みを抱いていたのかも思い出せなくなっていた。

 オレの中には人を撃ち殺すのは楽しい、という感覚だけが残っていた。

 

 でも、それだけで十分だと思った。

 だってオレはもう……。

 

 

 ――鬼、なのだから。

 

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