TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
第50話『岩柱・悲鳴嶼行冥』
俺は浅草へと全速力で向かっていた。
すでに夜は明け、朝日が差し込んできている。
「まふゆ、鬼舞辻が浅草にいるというのは本当ですか?」
「しのぶさん! カナヲも!」
その道中で、しのぶやカナヲと合流していた。
あたりを見渡し……。
「あの、しのぶさんだけですか? ほかの柱のかたはべつで向かっているのでしょうか?」
「残念ですが、おそらく来ないでしょう」
「なっ!? 無惨を倒せる千載一遇のチャンスなんですよ!?」
現在、すでに炭治郎とは連絡が取れなくなっているらしい。
鎹烏が彼のことを見失ってしまったとか。
俺の知る歴史でも、無惨は炭治郎と遭遇したあとに逃亡してしまう。
時間の猶予はない。
「柱にはそれぞれ担当地域が決まっています。そこの警備をおろそかにはできませんから」
「それは、そうかもしれませんが。だとしても、しのぶさん以外だれもこないだなんて!」
今ならばまだ間に合うかもしれないのに!
居場所を突き止めて、日中にこちらから仕掛けることができれば、あるいは無惨を……!
そのためには戦力が必要だ。
日の光を差し引いても無惨は恐ろしいほどに強い。
日中かつ万全の状態の柱が全員揃っていたとしても、困難な所業だ。
だというのに、これじゃあ倒すなんてとても……。
「正直、報告者があなたでなければ私もほかの隊員や隠に任せるつもりでした」
「どうして!?」
「それは、あなたの情報が正しいという確証がないからです」
「……っ!」
言われてみればそのとおりだ。
今の俺はただの新米隊員。
証拠もなしに、ひとりの言葉を鵜呑みにして柱という鬼殺隊の最大戦力を動かせるはずもない。
そして、しのぶは当然の疑問を呈してくる。
「それで、まふゆ。その情報はいったいどこから得たのですか?」
「えっ!? そ、それは」
問われてから、理由を考えていなかったことに気づく。
前世の――未来の記憶、だなんて言っても説得力は皆無だ。
頭がおかしいと思われて、余計に信じてもらえなくなる。
仕方なく、答えをひねり出した。
「わ、わたしが倒した鬼が死に際に言っていたんです」
そう述べた、そのとき。
影が落ち、背後から声が降ってきた。
「――あぁ、じつに嘆かわしい。その子どもの言っていることはウソだ」
「えっ」
振り返ると、そこにはまるで巨岩のごとき体躯の男がいた。
数珠を握り手を合わせている彼の名は……。
「
パァアとしのぶの表情が明るくなる。
俺も同じ気持ちだった。
「すでに話は聞いているかもしれませんが、彼女が情報の提供者であり……わたしが育手として鍛えている
「階級・
もともとは最下位である『
理屈はわからないが、いつの間にか手の甲に浮かぶ階級がひとつ上がっていた。
足を止められないため、軽くだけ頭を下げる。
チラリと彼の姿を上目遣いに盗み見ると……本当に大きい。
それに強者特有のオーラのようなものを感じる。
実際、彼こそが鬼殺隊最強の剣士だ。
まさか、彼が来てくれるとは。
まだ戦力はまったく足りていないが、それでもいるといないとでは大ちがいだ。
「そして、まふゆ。こちらは岩柱の悲鳴嶼
「お会いできて光栄です」
やけに、しのぶが慕っているように見えたが……。
なるほど、そういえばそんな関係だったな。
言われているうちに思い出してくる。
ふたりは鬼に襲われたところを彼に助けられ、育手を紹介してもらったんだったか。
「それで悲鳴嶼さん、彼女がウソを吐いているというのは?」
彼はブワァっと涙を流しながら、手を合わせた。
すさまじいプレッシャーが俺を襲った。
「彼女はきっと鬼にそそのかされたのであろう。彼女は幼い。”子ども”はいつもそうだ……純粋で、無垢で、弱く……すぐウソを吐き、残酷なことを平気でする」
行冥はあきらかに俺を疑っていた。
まさか、力を貸してくれるどころかその逆だとは。
「そんな、まふゆはそんな子ではありません! きっと、なにか事情があるはずです!」
しのぶはそう叫んだが、しかし行冥の言葉を否定してもいなかった。
まぁ、そりゃそうか。
実際、俺の言ったことはウソだし。
なにより柱と新米隊士じゃ言葉の重みがちがう。
こうなると戦国時代、鬼殺隊に入っていなかったことが裏目だ。
もし当時、柱になっていたら……今、正体を明かすことで発言力が変わってきただろうに。
「今回の件、きっと罠にちがいない。胡蝶しのぶ、私は君を止めに来たのだ」
「ま、待ってください!? わたしは本当に……!」
「幸代まふゆ、だったか。では、なぜ君の言葉には動揺が
行冥の目は光を映さない。
それゆえ、見えないものには敏感なのかも。
あるいは、彼は子どもの言うことなんて最初から信じる気はないのかもしれない。
彼は過去、子どもに裏切られた経験があるから。
しかし、ウソが一目で見抜かれるとは。
そんなことは、じつに
「本当なんです! 本当に今――鬼舞辻無惨は浅草にいるんです!」
「まふゆ、これ以上は」
しのぶがそう口を挟もうとして……。
「待て」
行冥は制止を口にした。
彼は困惑した様子で呟く。
「どういうことだ? 今の言葉……ウソではない? まさか今、本当に鬼舞辻が浅草にいる?」
どうやら信じてくれたようだ。
なんたって、今のは本当のことだからな。
行冥はさっきのをウソだと判断した。
だからこそ、逆にこの言葉が信憑性を増していた。
「すくなくとも、この子ども自身はそう思い込んでいるようだ。まだ、この子どもが鬼に騙されているという可能性はあるが」
「悲鳴嶼さん……行ってたしかめるしかないと、私は思います」
「ふむ」
「まふゆもそれでいいですね? ひとまずは私たちだけで調査しましょう。それで、もし本当に鬼舞辻がいたなら……そのときは柱全員を呼び寄せることになると思いますから」
やや遠回しな表現なのは、それを最終的に判断するのはしのぶではなくお館さまだからだろう。
仕方ない。今はそれしかない、か。
「わかりました」
俺はしのぶの言葉にうなずいた。
と、言葉を交わしているうちに景色がだんだんと都会然としてきていた。
「見えてきましたね。そろそろ浅草です」
そうして俺たちは浅草へと到着した――。