TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第51話『無惨への手がかり』

 

「ここが、浅草……」

 

 浅草に到着したころには真昼を過ぎていた。

 そこは独特の空気と活気にあふれていた。

 

 あきらかに近代的な光景だった。

 路面電車が走り、今の時間帯は点灯していないが電灯が立ち並んでいる。

 

 そして、とくに”六区”と呼ばれるここはさらに興行の旗やのぼり、看板が林立していた。

 見物客でごった返している。

 

「……」

 

 カナヲはその光景に圧倒されたかのようにポケーっと突っ立っていた。

 行き交う人とぶつかりかけていることに気づき、手を引いてやる。

 

 転生してから、ここまでひとところに人が集まっているのははじめて見た。

 が、現代の通勤ラッシュに比べればヌルいヌルい。

 

「このあたりは景色だけじゃなく、人の装いもずいぶんとちがいますね」

 

 俺はあたりをキョロキョロと見まわしながら、言う。

 すれちがう男性がみんな帽子をかぶっている。

 

 アレなんていうんだっけ、カンカン帽?

 今の時代、男性の帽子着用はマナーにも近い扱いをされているらしいからな。

 

 それに洋服(スーツ)を着ている人もちらほらと見える。

 「サラリーマン」という和製英語が生まれる日もそう遠くない。

 

「まふゆ、カナヲ。こちらです」

 

 しのぶに先導されてすこし脇の道へと逸れる。

 人通りが少なくなったころ、隠と合流を果たした。

 

「胡蝶さま、悲鳴嶼さま。お待ちしておりました」

 

「いかがですか。鬼舞辻の痕跡はありましたか?」

 

「それが――」

 

 聞けば昨晩、路地裏に変死体がいくつか転がっていたとか。

 ほかにも、貿易会社の取締役だった男がひとり行方不明になっていたり……。

 

「あとは、大通りで男性と少年が取っ組み合いのケンカをしていたそうです。なんでもその男性はいきなり、人が変わったみたいに暴れ出して妻に噛みついたとか」

 

「いきなり? まさか、その瞬間に鬼になったとでもいうのか?」

 

「周囲でそれを見ていた者たちは酔っ払いだと思ったようですが、おそらくは」

 

「そうですか。新たな鬼を作れるのは鬼舞辻だけ。とはいえ、本人とはかぎりませんが。それに近しい存在が昨晩この場にいたようですね」

 

「それなんですが、なんでも少年が『鬼舞辻無惨』と叫んでいたそうです」

 

「「……!」」

 

 さすがに、その情報にはふたりにも動揺が走った。

 手を繋いでいたカナヲも緊張してか、ギュッと俺の手を握り返してくる。

 

「まさか本人がいたの? まふゆの言っていたとおり、本当に?」

 

「まだそうと決まったわけではない。だが、調べる価値はあるやもしれぬ」

 

「今、その男性と少年はどこへ? 身元は?」

 

「身元は特定しました。しかし、現場に居合わせた者から話を聞いたのですが、ふたりと……それから男性の奥さんも、気づくといなくなっていたとのことで」

 

「衆目の中から忽然と姿を消した? なんらかの血鬼術かもしれませんね」

 

「手分けして情報を集めようぞ。なんとしても足取りを掴まねば」

 

 俺たちはその言葉で散開し……。

 

   *  *  *

 

「これ以上はなにも出てきそうにありませんね」

 

 数時間後、再集合した俺たちにしのぶが首を横へと振った。

 どうやら俺たちは遅かったらしい。

 

 無惨の痕跡はどこにも見つからなかった。

 いや、どのみちこの戦力では返り討ちにあうだけだったか。

 

 俺の行動は結局、無意味だった。

 いや、それどころか……。

 

「「……」」

 

 しのぶと行冥からの視線を感じる。

 あのときは千載一遇のチャンスだと焦り、ほかのことを考える余裕がなかった。

 

 けれど、もしかしたら俺はすこし先走りすぎたのかもしれない。

 まいったな、これからがすこし大変そうだった。

 

 けれど、動かないわけにもいかなかった。

 何百、何千、何万……救える命が目の前に転がっているのに、手を伸ばさないなんてできない。

 

「まふゆが言っていた竈門炭治郎という隊士については、鎹烏を介してすでにお館さまが報告を受けったそうで、そちらは気にしなくてもよいとのことです」

 

「そうですか」

 

 今ごろ、炭治郎は珠世(たまよ)たちの屋敷を出たころか。

 彼女は、無惨の呪いを受けていない――いわゆる”逃れ者”の鬼だ。

 

 その能力は”惑血(わくち)”。

 彼女はいずれは無惨という病魔に対するワクチンのような役目を果たす存在だ。

 

「あとのことは隠に任せて、私たちは撤退するようにとの指示も受けています」

 

「そうであるな。私も自分の任務に戻らねばならぬ」

 

 たしか、珠世たちのことはもとよりお館さまが把握していたんだったか。

 この指示は、柱に彼女たちが見つからないように計らったものだろう。

 

 珠世としのぶが揃うことで、無惨に特効となる強力な毒を生み出すことができる。

 だが、今はまだそのときではない、という判断らしい。

 

 実際、今もしも両者が出会ってしまえば戦闘は避けられないだろう。

 柱たちは確実に珠世たちを狩りにかかる。

 

 そして、もし珠世が狩られれば無惨を打倒する芽も潰える。

 今はまだ待つしかない。

 

 人と仲良くなれる鬼

 ”主人公”の活躍によって、柱たちがその存在を認めることを――。

 

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