TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
別れ際、行冥がしのぶに言う。
「そうだ、ひとつ頼みたいことがある。近々、君のほうでひとり診てもらい者がいる。すこし問題のあるやつゆえ、迷惑をかけるかもしれないが」
「構いませんよ。悲鳴嶼さんの頼みですから」
「恩に着よう。では、私はそろそろ行こう。もうすこし、そこの幸代まふゆを問いただしたいところではあるが……それは私の役目ではない」
そう言い残して、行冥が去っていく。
うぅっ、よりによって鬼殺隊最強の剣士に完全に目をつけられてしまったな。
「私たちも行きましょうか」
無惨を取り逃がしてしまった。
その徒労感ですこし落ち込んでいると、しのぶが「あぁ、そうだ」と手を合わせる。
「せっかくここまで来ましたし、すこし寄り道してから帰りましょう」
「「……?」」
俺たちが首を傾げていると、しのぶは先導して歩き出した。
辿りついたそこは……。
* * *
コーヒーの香りとモダンな内装。
いわゆる喫茶店――いや、”カフェー”であった。
俺の知っているカフェとはすこし印象がちがうな。
格式高いというか、なんというか。
「まふゆも、それからカナヲもはじめてよね?」
ふたりそろってコクリと頷く。
とはいえ多少の知識はある。
この時代、カフェーはまだ珍しい洋食を楽しめたり……。
あとは文化人の集まる場所として機能していたんだったか。
もう少しあとの時代になってくると、現代でいうところのキャバクラに近くなるそうだが。
そして、普通のカフェは”純喫茶”と呼んで区別されることとなる。
俺たちはテーブルについてメニュー表を覗き込む。
意外にも現代とほとんど相違ないラインナップだ。
「カナヲはなにがいい?」
しのぶに問われるが、カナヲはメニューを見たまま固まってしまう。
俺は助け舟を出すようにその中のひとつを指さした。
「カナヲはクリームソーダって飲んだことある?」
「……」
カナヲがブンブンと首を横に振る。
なら、ちょうどいいかも。
「上にアイスクリームを載せた炭酸飲料……甘くて、しゅわしゅわした飲みものだよ。えーっと、あぁそうだ、ラムネとかに近いかも」
「……!」
それを聞いたカナヲは目を見開き、口元をもごもごとさせていた。
予想外に大きな反応だった。
ラムネならそのあたりでも比較的安く、売られている。
だから、カナヲにも伝わるかもと思ってたとえに出したのだが……。
「カナヲ、もしかしてラムネが好きなの?」
驚いた表情で、カナヲがこちらを見てくる。
それから、たどたどしく教えてくれる。
「私が蝶屋敷に来たばかりのころ、カナエさまと師範とアオイちゃんと一緒に飲んだの」
「……そっか」
それはカナヲにとってとても大切な思い出なのだろう。
しのぶがからかうように言う。
「カナヲったらはじめて炭酸を飲んだもんだから、ビックリしてむせて……ふふふっ、今思い出しても笑っちゃいそう」
「し、師範っ。恥ずかしいから、まふゆにはナイショ」
「この子ったら、あのころはなに食べても無反応だったんだけれど、そのときだけは……」
「師範っ!」
こうしているとふたりは本当の姉妹にしか見えなかった。
カナヲが恥ずかしさを誤魔化すみたいに問うてくる。
「な、なんでわかったの? 私がラムネを好きだって」
「いや、だって」
口元を指さしかけて、やっぱりやめた。
代わりにイタズラっぽく笑って言う。
「わたしは妹だからねー。大好きなカナヲ
なーんちゃって。
そう、言おうとしたのだが……。
「!?!?!?」
カナヲがアタフタと挙動不審になっていた。
え、あれ? 冗談のつもりだったんだけど。
訂正しようとするが、聞く耳を持ってくれない。
彼女はメニューで顔を隠してしまう。
「あ、あのカナヲ?」
「師範……わ、私クリームソーダにします」
「そう、わかりました。ではまふゆ、私が食べたいものも当ててみてください」
「え゛っ!?」
「あら? わからないのですか? それとも、私はあなたのお姉ちゃんではないのでしょうか?」
しのぶが「ふふふ」とSっ気のある笑みを向けてくる。
そ、そんなもんわかるかー!?
「え、えーっと……ポークカツレツ?」
「ん?」
「じゃなくて……コロッケー?」
「んん?」
「でもなくて……ライスカレー!」
「……」
「そう! ライスカレーだと思います!」
「いえ、ちがいますね」
うぉい!?
今、「正解」ってリアクションしたじゃん!?
「あぁ、注文よろしいですか? クリームソーダと――あとコーヒーをお願いします。まふゆはなににしますか?」
「はぁ~。じゃあ、わたしもコーヒーを」
注文してから待つこと数分、それぞれのメニューが到着する。
俺の目の前で、香ばしいコーヒーの匂いが湯気とともに立ち昇っていた。
って、あっ!? アイスにしてもらうの忘れてた。
しのぶとカナヲがそれぞれの飲みものを堪能しはじめる。
俺が諸事情で口をつけられず、ジーっと目の前のカップを眺めていた。
そのことをしのぶに気づかれ、首を傾げながら問われてしまう。
「せっかく注文したのに飲まないのですか?」
「あっ、いえ! の、飲みます」
恐る恐る、カップのふちに口をつける。
ズズズっとその黒く香ばしい液体をすすり……。
「――うわ熱っぢぃいいいいいい~っ!?」
ドッタンバッタンと俺はもんどりうった。
ひーっ、ひーっ、と舌を突き出して必死に冷やす。
「「まふゆ!?」」
「あっ……」
しのぶとカナヲがポカーンとした顔でこちらを見ていた。
そう、じつは俺は――とんでもない猫舌なのだ!
これには理由がある。
『氷の呼吸』の影響で平熱が低いため、熱いものが他人よりもより熱く感じてしまうのだ。
普段……あるいは戦闘中はこの程度の熱、なんの問題もない。
だが、飲み食いの瞬間だけはべつ。
当たり前だが、人間には口がひとつしかない。
そのため食事中だけは呼吸で外部へと熱を逃がせないのだ――。