TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「まさか、鬼を食べるだなんて。なんというムチャを」
玄弥の話を聞き、診察を行ったしのぶが頭痛でも覚えたかのように額に手を当てていた。
彼は『鬼喰い』という特殊体質だ。
鬼の骨肉を喰らう事で一時的に鬼にも等しい能力を得られる。
の、だが……。
「急激な変化に身体がついていけず、悲鳴を上げていますね。しばらくはうちに泊まって、毎日診察を受けるように」
「あァん!? なんでオレが――」
「オレが、なんですか?」
玄弥は恐いもの知らずなのか、しのぶに荒っぽい言葉を返す。
しのぶは言葉を繰り返しながら、にっこりと笑みを浮かべた。
横からそれを見ていた俺たちは、反射的に「ひっ」と悲鳴を漏らしてしまう。
彼もさすがにその笑顔に恐怖を覚えたのか……。
「あっ、いや……な、なんでもない……ッス」
スッと目を逸らして小さくなった。
さすがの玄弥もケンカを売ってはいけない相手だと理解したらしい。
ぎこちないが敬語になっていた。
しかし、彼は怯みながらもボソボソと反論した。
「でも、休んでたんじゃ強くなれねェっす。オレはただでさえ呼吸が使えねェのに……強くなるためには、休んでいるヒマなんて」
「はぁ、まったく。身体を休めることも成長には必要なのですが……わかりました。ではうちにいる間、”機能回復訓練”だけは許可しましょう」
「機能回復訓練?」
「カナヲとまふゆも一緒に訓練を受けなさい。アオイ、手伝ってくれますか?」
「かしこまりました」
「きよ、すみ、なほ。あなたたちもお願いしますね」
「「「はーい!」」」
そうして、しばしの休暇の間、俺たちはともに機能回復訓練を受けることになった。
内容は身体をほぐされたり、湯飲みで
あとは『全集中・常中』のために、ひょうたんを吹いて肺活量を鍛えたり。
そんな訓練の様子はというと――。
* * *
「ウソ、あたし……カナヲに負けたの? こんなにもあっさり?」
鬼ごっこも、湯飲みもカナヲは初回であっさりとアオイに勝利してしまった。
アオイはポタポタと薬湯を髪から垂らしながら、呆然としていた。
これまで稽古の様子を見ていて、すでにカナヲの才能は理解していたはずだ。
それでも、こうして差を突きつけられるとショックが大きかったらしい。
「次はオレの番だ」
「……そ、そうですね」
そう玄弥が名乗り出る。
アオイはパチンと頬を叩いて気持ちを切り替えていた。
結果は……。
「クソっ! 全然、勝てねェ」
玄弥の全戦全敗だった。
悔しそうに、ドンッ! と床を叩いていた。
そう、アオイは決して弱くはないのだ。
すくなくとも、しのぶに最終選抜へ行くことを認められただけの実力はあるのだから。
「最後はまふゆね」
アオイは気合を入れた様子で向き合ってくる。
カナヲには負けたが、せめて俺には……といった様子。
最終選抜後の稽古は、長い刀に慣れるための練習が中心だった。
必然的に、本来の実力を見せる機会はなかった。
その結果、アオイたちは俺を『カナヲほどではないが剣術の才能がある』と思っている。
……この俺に才能、か。
どこに鬼の目があるかわからず、今はまだ全力を見せるわけにはいかない。
だが、弱ければ発言力も得られない。
「どうしたもんか」
「では、いきますよ。――はじめ!」
アオイの号令で訓練がはじまる。
俺は板挟みの状態で塩梅を模索するハメになった……。
* * *
そんな訓練がはじまった日の晩。
俺はブルリと身体を震わせて布団から起き上がった。
「……おしっこ」
のそりと起き上がって、月明かりを頼りに暗い廊下を進む。
と、部屋のひとつに電灯が点いていることに気づく。
「あれ、アオイさん? どうかしたんですか?」
「えっ、まふゆ!?」
振り返ったアオイは慌てて服の袖で目元をぬぐった。
そこはすこし赤くなっている。
もしかして、泣いていた?
どうやら、俺はあまりよろしくない場面に居合わせてしまったらしい――。