TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第56話『実力の一端』

 

 アオイとの反射訓練は一瞬で決着した。

 俺はコトン、と湯飲みをゆっくりテーブル上を移動させた。

 

 自分の手元にあったものを、アオイのすぐそばへと。

 中に入った薬湯をかけるまでもなかった。

 

 アオイはその動きに一切、反応できなかった。

 しばらく経ってから……。

 

「……え?」

 

 と、自分のすぐ前に湯飲みが置かれていることに気づき、目を見開いた。

 それから、ドタッと腰を抜かすみたいに正座が崩れた。

 

「あ、はは……すごい」

 

「な、なんだァ今のは……ありえねェ、速すぎる? ちがう……ムダがねェ、か。そしてなにより、普通ならあるはずの動きのおこり(・・・)が皆無に近かった」

 

 横で見ていた玄弥が声を震わせながら言う。

 氷の呼吸・肆ノ型の『霜走(しもばし)り』にも通じる動きだ。

 

 俺の一番の強みは”弱そう”なこと。

 それこそ鬼を狩りはじめたばかりのころは、それが唯一の武器だった。

 

 そして、”弱さ”を活かすためには奇襲が一番。

 俺の存在が知れ渡るまでは、それでたくさん討伐数を稼がせてもらった。

 

「ねぇ、カナヲ。あんたはまふゆが強いって知ってた? だから最終選別にも連れて行ったの?」

 

「……そう。けど、ここまでとは思ってなかった」

 

「えっ!?」

 

 まさか、バレていたのか!?

 いやでも、どうして……。

 

「見たらわかるから」

 

 説明になっていないが、カナヲの場合はそれで充分だった。

 なぜなら彼女は”目”がいいから。

 

「それに私が投げた銅貨を止めたときのまふゆは、あまりにも速すぎた」

 

 もしかして、それって俺の呼びかたを決めたときのことか!?

 うそん、そんなことで俺バレたの!?

 

 お、おのれぇ『鮭大根』めぇ~!?

 味はおいしいんだけど、嫌いになりそうだ。

 

「やっぱりね。でも、あたしも本当はそうなんじゃないかと思ってた」

 

「アオイさんも気づいてたんですか!?」

 

「だって、あんた……あたしなんかよりもよっぽどすごい剣ダコしてるんだもん」

 

「……あちゃぁー」

 

 それは盲点だった。

 俺の看病をしてくれていたのはアオイたちだ。

 

 言われてみれば気づかないわけがない。

 ……いや、待て。

 

「ということは、しのぶさんも?」

 

「そりゃ、気づいてるわよ。あんたがなんで力を隠しているのかはわからないけどね。でも、なにか事情があるんでしょ?」

 

「……」

 

 なんというか、ウカツすぎるな俺。

 それに、こんなことで悩んでいたのがバカみたいだ。

 

「あの、どうかこのことは内密に」

 

「いいわよ、べつに。でも、カナヲの訓練相手になってあげて。あたしとするよりも、そっちのほうがいいと思うから」

 

「わかりました」

 

「……はぁーあ」

 

 いつもキッチリとしているアオイだが、足を投げ出してボーっと天井を見上げた。

 しかし、その表情はどこかスッキリとしていた。

 

「なんだか吹っ切れたちゃった。ねぇカナヲ、まふゆ……あたしの分までいっぱい鬼をやっつけてきなさいよ。その分、あたしはたくさんの人を助けるわ!」

 

「うん」「はい!」

 

「それから玄弥さんも、任せました」

 

「テメェに言われなくても鬼はオレがぶっ殺す!」

 

 それから俺はカナヲとペアで機能回復訓練をするようになった。

 彼女よりほんのすこし強くなるように調節して相手していると、彼女はメキメキと実力を伸ばしていった。

 

 とくになにかを教えたわけではないが、カナヲはその目で勝手に俺から技術を学んでいく。

 気づけば全集中・常中もできるようになっていた。

 

 といっても、そちらについてはしのぶから稽古を受けていたみたいだが。

 しかし、まさかあっさり身の丈ほどのひょうたんを割ってしまうとは。

 

 これは一般的な訓練ではなく、柱になるための登竜門にも近いはずなのだが。

 大丈夫だよな?

 

 なんか、ちょっとカナヲの成長が早すぎるような気がするんだけど。

 でも、本来の歴史でもカナヲはできていたことだし。

 

 ……強くなりすぎな気もするが、きっと俺の思い過ごしだろう。

 それに強くて悪いことはないだろう。

 

「それよりも問題は……」

 

「あァクソ、もうやってられるか!」

 

 玄弥が悪態を吐いて道場から出て行ってしまう。

 彼はいまだ一度もアオイに勝てずにいた。

 

 体格こそ『鬼喰い』の影響で大きくなっている。

 だが、その力をまだうまく使いこなせていないようで、振り回されている印象だった。

 

 そしてなにより呼吸を使えない、というハンデが大きすぎるようだった――。

 

   *  *  *

 

「チッ、なに見てやがる。オレをバカにしてんだろ、テメェ」

 

「えーっと、そんなことはないんだけど」

 

 うわ~、絡まれた。

 玄弥が悔しそうな表情で必死に素振りをしている場面に遭遇してしまったのが運の尽き。

 

 アオイに続いてまたか。

 かといって、彼女とはちがってそこまで仲良くもない。

 

 だから、スルーしてしまいたいところだが……はぁ~。

 俺は人生相談係じゃないんだけどなぁ。

 

「てっきり、蝶屋敷からも出て行ったのかと思っていました」

 

「一応、悲鳴嶼さんからの指示だからな。顔に泥を塗るわけにもいかねェだろォが」

 

 あっ、そういう義理はちゃんとあるのか。

 ……うん?

 

「玄弥さん、普通の刀を使っているんですね」

 

「あァん? あァ、そういう意味か。テメェら女どもは軽量化された刀を使うんだったか」

 

 いや、そういう意味じゃないが。

 俺の記憶では玄弥は脇差と南蛮銃を装備していたはずなのだ。

 

 もしかして、歴史に差異が生まれてしまっている?

 ……武器かぁ。

 

 だとしたら俺はやらかした覚えがあるからなぁ。

 もしも、その余波が原因なら修正しておくべきだろう。

 

 仕方ない、ここはむしろ行動をしないほうがリスクが大きい。

 そう判断した俺は、彼に話を持ち掛けた。

 

「ねぇ、玄弥さん。わたしと――腕相撲(・・・)しませんか?」

 

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