TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第57話『銃と刀と呼吸と』

 

「あァん? なんでオレがテメェと腕相撲なんかしなきゃいけねェんだよ」

 

「怖いんですか?」

 

「ンだと、テメェ!」

 

「まぁ、こんなに小さなわたしが恐ろしいというのなら仕方ありませんね」

 

 俺がそう煽ると、玄弥の顔にビキビキィっと血管が浮かび上がった。

 それからドシン! ドシン! と足音を立てながらこちらに近づいてくる。

 

「上等だ、クソガキィ。ちょっと呼吸が使えるからってオレのこと見下してんじゃねェぞ」

 

「あぁ、勝負するんですね。では、そちらへどうぞ」

 

 言って、机を挟んで向かい合って座る。

 手を握って組み合うと、高さが……腕の長さがちがいすぎてひどくアンバランスになっていた。

 

「チビだからって手加減してやらねェからな」

 

「勝てると思っているんですか?」

 

「こんのっ! いいぜェ……さっさと合図しやがれェ!」

 

「じゃあ――はじめ!」

 

「うおらァああああああッ!」

 

 合図と同時に玄弥は全力で右腕を倒した。

 俺も同時に全力で呼吸を使って対抗し――。

 

「……へっ?」

 

 玄弥の間の抜けた声が部屋に響いた。

 いや、俺はこうなることがわかっていたんだけどな。

 

 俺の軽くて小さな身体は、玄弥のあまりのパワーによって宙を舞っていた。

 そして、腕どころか身体ごとベチンっ! と畳へと叩きつけられた。

 

「ぶべらっ!? ……が、ガクッ」

 

「お、オイ? おーい?」

 

 玄弥が倒れたまま反応しない俺の肩を恐る恐ると突っついてくる。

 俺はギリギリで意識を取り戻し、身じろぎした。

 

「う、うぅっ……」

 

「ほっ、バカが脅かしやがって! じゃなくて、なんだこりゃァ!? 『勝てると思っているんですか?』ってセリフはなんだったんだよ!?」

 

「いえ、ですから『そんなに心配しなくても勝つのはあなたですよ』って」

 

「紛らわしい言いかたしてんじゃねェ!?」

 

「でもこれでわかりましたよね? わたしなんかべつに強くないって」

 

「それは、まァ……正直」

 

「でしょ?」

 

 俺はフラフラと身体を起こしながら玄弥に言葉を投げかける。

 彼にもそれはイヤというくらい伝わったようだ。

 

「たしかにわたしは多少すばしっこいですが……正直、それだってそこまでのものじゃありません。脚力だって結局は筋力ですから、ほとんど技術で誤魔化しています」

 

「けど、呼吸がありゃあ」

 

「もちろん底上げされますけど、それでも限界やどうにもならないニガテ分野はありますから。言っときますが、さっきの腕相撲……アレが呼吸まで含めた、わたしの全力ですからね?」

 

「なァっ!? いくらなんでも弱すぎる!?」

 

「い、いやそこまで言わなくても」

 

「……わ、悪ィ」

 

 俺がちょっとショックを受けたような態度を取って見せると、意外にも玄弥は素直に謝った。

 きっと、さっきの動揺で素が出てしまっているんだろう。

 

 性根はやさしい少年だ。

 今はちょっと、焦りや孤独で荒れてしまっているだけで。

 

「冗談です。実際、わたしは非力ですから。けれど、そんなわたしでも鬼を狩れます。なぜだかわかりますか?」

 

「いや、わからねェ」

 

「答えは簡単です。鬼とは力比べをしないから――相手の土俵では戦わないから、です」

 

「……なるほど」

 

「それに手段も選びません。鬼を狩るためなら足りない分は道具でもなんでも使って補いますし、代用したって構いません。矜持なんてものはありません」

 

「道具って、具体的には?」

 

「わたしの場合は手裏剣なんかの飛び道具や奇襲ですね」

 

「飛び道具、か」

 

「みんなと同じやりかたをしなくちゃいけない、なんて決まっていません。重要なのは鬼を狩れることであって、呼吸を使えることじゃありませんから」

 

「……!」

 

「たとえばわたしの刀も、形こそ日本刀ですが材料は純粋な鋼ではありませんし」

 

「たしかにカタチは重要じゃねェな」

 

 言って、玄弥は腰の鞘へと視線を落とす。

 そこにはいまだ鉄色のままの、王道的な形状の日輪刀が納まっている。

 

「そういえば先日、わたしが戦った鬼は……」

 

 銃を使っていた、と告げようとしてやっぱりやめた。

 考え込みはじめた玄弥を見て、もう十分だと判断する。

 

 彼はもう本来の歴史どおり脇差と南蛮銃にたどり着くだろう。

 その過程を自分で考えることも力の一部になるはずだ。

 

 あとは……そうだな。彼は図体こそ大きいがまだまだ子どもだし。

 最後にひとつ励ましておいてやるか。

 

「わたしはあなたのことを応援しています。大丈夫、玄弥さんなら必ず……ううん、玄弥は必ず強くなるよ。それに本当はやさしい男の子だってことも、わたしは知ってるから」

 

「〜〜〜〜っ!?」

 

 なぜかバッと顔を逸らされる。

 ……ん? んんん???

 

 なんだこの反応?

 もしかして俺、なんかセリフ間違えた?

 

「……あっ」

 

 そのとき、ツーっと鼻血が垂れてくる。

 あぁ、さっきの腕相撲のとき畳に顔面から突っ込んだせいだな。

 

「す、すまん!? オレ、加減せずにやっちまったから……」

 

 玄弥が情けないくらいに慌てていた。

 俺は「大丈夫だ」と手で制す。

 

「玄弥のせいじゃ――」

 

「あぁ~~~~!?」

 

 大声が響いた。

 振り返るとアオイがこちらに指をさしていた。

 

 それからカナヲもこちらを見て目を見開いていた。

 俺の顔を見て、それから玄弥へと視線が移動する。

 

「あんた、まさかまふゆに暴力を!? 訓練で勝てないからってこんな!?」

 

「ち、ちげェ!? いや、たしかにこれをやったのはオレだけど!?」

 

 おい、バカ玄弥!?

 なんでここで、そんなバカ正直なことを!?

 

 余計に話がややこしくなるだろうが!?

 そう、言おうとしたときだった。

 

 カナヲの姿が消えた。

 俺ですら一瞬、姿を見失うほどの鋭い踏み込み。

 

 気づけば彼女は玄弥の目の前にいた。

 普段、ほとんど表情を変えない彼女がしかし、今はビキビキと血管を顔中に浮きあがらせ怒りの形相をしていた。

 

「私の家族を! 妹を! 傷つける相手は、絶対に許さない!」

 

「カナヲ、待っ――!?」

 

 その日、蝶屋敷にドゴォオオオン! と、すさまじい音と衝撃が襲った。

 俺は玄弥の巨体が宙を舞うのを眺めているしかできなかった――。

 

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