TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第6話『剣の才能』

 

 俺は知っていた(・・・・・)

 縁壱は乞われれば――だれにでも分け隔てなくその剣技や呼吸法を教える、と。

 

 もちろん、それは俺も例外ではなかった。

 

 俺は彼と一緒に旅をしはじめた。

 ケガが治ってくると、彼は旅のかたわら俺に稽古をつけてくれるようになった。

 

「刀は小指と薬指で握りなさい。ほかの指は添えるだけだ。余計な力はいらない」

 

 木刀を構えさせられ、その姿勢を矯正された。

 縁壱の教えはいつも的確で、俺は驚くほどの速度でメキメキと実力を伸ばしていった。

 

 はっきり言って、俺に剣術の才能はなかった。

 だが、それを補って余りあるほどに師が優秀すぎた。

 

 なにせ彼は、その人に合わせて呼吸法まで変えて指導できるほどなのだから。

 彼は俺の呼吸法を一目で見抜いていた。

 

「『氷の呼吸』だね」

 

 そもそも”呼吸”を生み出したのは、ほかでもない縁壱だ。

 ただの『型』しか持たなかった当時の柱たちに、彼が呼吸を教えた。

 

 すべての呼吸はそこから派生して広がっていったものだ。

 そして、そんなはじまりの呼吸もすべては『日の呼吸』を使えない者たちのためにデチューン(・・・・・)したもの……。

 

 なーんて説まであるくらい。

 正直、それを信じてしまいそうなほど彼はすごかった。

 

「スゥゥゥ、スゥゥゥ」

 

 縁壱の呼吸音が変わった。

 ブルリと俺の身体が震えた。

 

「……寒い」

 

 縁壱の身体からすさまじい冷気が放たれていた。

 多くの呼吸法はそう錯覚させるだけで実際に炎や水が出るわけじゃない。

 

 だが、もちろん例外もある。

 すくなくとも、彼から放たれる冷たさは――”本物”だった。

 

 それは握った刀へと伝わり、刀身には霜が降りていた。

 

「――フッ」

 

 縁壱が刀を振るった瞬間、その刀身はするりと薪をすり抜けた。

 その剣閃はあまりにも美しく、まるで一面の銀世界を思わせるかのようだった。

 

 チンと刀を納めた彼は、薪を手に取った。

 それは音もなくふたつに分かれていた。

 

 彼はその片割れを手渡してくる。

 俺はそれを受け取ろうとして……。

 

「冷たっ!?」

 

 思わず落っことしてしまった。

 肌が張りつきそうなほどにそれは冷えていた。いや、凍っていた。

 

 縁壱は俺の呼吸を一度見ただけで、完璧に(・・・)再現してみせたのだ。

 俺が使っている未熟な……未完成なシロモノではない。

 

 ――完成された『氷の呼吸』。

 

 これが最強の剣士の実力か。

 本当にすさまじい……。

 

「……ごくり」

 

 無意識に喉が鳴っていた。

 俺はそこに自分の到達点を見た。彼は俺に手本を見せてくれたのだ。

 

 今の俺にはまだ、その一閃がどれだけ遠いのかもわからない。

 けれど、いつかは……自分もその境地へと至れるのだろうか――。

 

   *  *  *

 

 縁壱との旅にはある程度のルーティンがあった。

 昼は鍛錬、そして夜は……。

 

「なぁんだ? ジジイ……キキキ、オレは鬼――」

 

 瞬きの間に、人を襲おうとしていた鬼の頸は斬られていた。

 日の光に焼かれたかのごとく、鬼の身体はボロボロと崩れ、灰となって消えた。

 

 刀を抜く瞬間すら見えなかった。

 

 彼が普通に(・・・)刀を振るえばそうなる。

 俺に手本を見せてくれたときのように、わざとゆっくり振るいでもしないかぎり。

 

「おケガはありませんか?」

 

 俺はブルブルと震え、座り込んでいる女性に声をかけた。

 

「もう大丈夫です。今日のことは忘れて、まっすぐ家に帰ってください。夜は危ない。もう、ひとりで出歩いてはいけませんよ」

 

「は、はいっ……」

 

 俺の言葉に、女性はまるで逃げるかのように走り去っていった。

 もう彼女が2度と鬼に遭わないことを祈った。

 

 あんなもの、一生関わらないで済むならそのほうがいい。

 と、そこまで考えて気づいた。

 

 ……あぁ、そうか。故郷の老婆も同じ気持ちだったのかな。

 彼女は鬼の存在を知っていた風だった。

 

「行くよ、まふゆ」

 

「はい」

 

 縁壱にとって鬼との戦いは日常なのだろう。

 いや、そもそも戦いにすらなっていないが。

 

 彼はすでに、なにごともなかったかのように歩き出している。

 きっと彼にとって、それは息をすることや食事をすることの延長線上にあるのだろう。

 

 斬る前も、斬っている間も、斬ったあとも彼は変わらない。

 つねに一定だ。

 

 だから当然、勝利の余韻も恨みもなにもない。

 ずっと自然体で……だから、ただこうして見ていると、ちっとも強そうには見えない。

 

「……ていっ! あだっ!?」

 

 しかし、いざ後ろから斬りかかるとあっさりと躱され、コツンとおでこを突っつかれた。

 隙だらけに見えるのに必ず返り討ちにされてしまう。

 

 さっきの鬼も彼をただの老人だと思って油断していた。

 まぁ、その強さに気づいたら気づいたで、相手が怯えて戦いにはならなくなってしまうのだが。

 

 無惨も縁壱を「あの男ははじめ弱く見えた」と語っている。

 ともかく……『強く見えない』ことは『強い』のだと俺は知った。

 

 そして、その点において俺の身体は非常にすぐれていた。

 幼く筋肉もつきにくく……まぁ、弱く見えるというか、実際に弱いだけなのだけれど。

 

 ふと、気になって尋ねてみる。

 

「お師匠さまはいつからこの旅を続けているのですか?」

 

「さぁ、いつからだろうね」

 

 縁壱は老体だ。

 にもかかわらず、なぜ旅をしているのかといえば……それは鬼を狩るためだろう。

 

 俺が彼に出会えたのもそれが理由。

 なんでも「富士山の噴火が鬼の仕業かもしれない」と聞いて、向かっている途中だったとか。

 

 だが、彼は鬼殺隊員というわけではない。

 かつてはそうだった。

 

 しかし、彼の兄が当時の鬼殺隊”当主”の首を斬り、それを手土産に鬼となってしまった。

 それ以外にも多数の責任を問われ、彼は追放されてしまった。

 

 だから、こうして鬼を狩っているのはただ純粋なる彼の意思だ。

 なんの報酬もない、滅私の奉公。

 

「お師匠さまはいつまでこの旅を続けるのですか?」

 

「さぁ、いつまでだろうね」

 

 縁壱はいったい何十年、こうして生きてきたのだろう?

 これからあと何年、こうして生きていくのだろう?

 

 その人生を、俺には想像することすらできなかった――。

 

   *  *  *

 

 それから――数か月が過ぎた。

 

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