TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「……ごめんなさい」
「ヒィッ!? あ、あァいや……これくらいどォってことねェ」
カナヲがベッドに横たわる包帯ぐるぐる巻きの玄弥へと頭を下げていた。
今、一瞬……彼から情けない声が漏れた気もしたが、聞こえなかったことにしてやろう。
微妙にまだ身体が引けているように見えるのも、きっと気のせいだ。
……今回の件は不幸な事故だった。
「でも、玄弥。本当に大丈夫?」
「お、おう。これくらいの傷ならどうってことはねェ。オレは傷の治りが早ェから」
「あんた、いったいどこ見ながら会話してるの? 人としゃべるときはちゃんと相手のほうを……まふゆのほうを見なさいよ?」
「は、はァっ!? うるせェよ、ちゃんと見てるっつの! テメェらはだまってろ!」
アオイに言われて、玄弥がやたらと過剰に反応する。
実際、彼はちっともこっちを向いてくれなかった。
しかし、そういう乱暴な態度はダメだな。
大人になってから後悔したんじゃ遅いんだぞ。
「玄弥、ダメでしょ。相手は女の子なんだから、もっとやさしく接さないと」
俺は前世の……年上男性としての経験から玄弥に忠告する。
あとから「あのときの自分は恵まれていたなぁ」なんて思っても遅いんだぞ。
「ケッ。女だとかどうとか、そんなのべつにどォでも――」
玄弥が反論しようとして、振り返り……ふと俺と目が合った。
瞬間、バッ! とすさまじい勢いで顔を逸らす。
「お、女の……子」
「あのー、玄弥?」
それから彼は周囲をキョロキョロと見渡しはじめた。
現在、彼のベッドまわりには俺とアオイとカナヲが集まっていた。
彼はなぜか頭を抱え、ダラダラと汗を流しながら小さくなっていく。
さらにそこへ「まったく」とこめかみに青筋を立てながらしのぶがやってくる。
「あなたたちは本当になにをやっているのですか。鬼との戦いでもないのに負傷するだなんて、この治療所も訓練所もそんなことのためにあるわけではないのですが」
「「「ご、ごめんなさい」」」
みんな仲良く頭を下げる。
と、玄弥も一緒に頭を下げていることに気づき「あれ?」としのぶが首を傾げる。
「あら? 不死川くん、今日はずいぶんと素直ですね?」
「べ、べつにそんなことねェすけど」
「それにどうしてチラチラとまふゆのほうを見ているのですか?」
「は、はァあああ!? ど、どこが!? ぜ、全然見てねェんすけど!?」
しのぶは「あ」となにかに気づいたような顔になる。
彼女がいったいなにを考えているのかが、わかってしまった。
いやいや、絶対にそれ……多分、おそらく、メイビー勘違いだから!
そもそも俺はメンタル的には男性に近いし!?
「まふゆは罪作りなオンナですね」
「だからちっがーうっ!?」
玄弥だってきっと、一時の気の迷いだろう。
そうにちがいない。そうであってくれぇ!
俺は鬼とはべつの悩みを抱えることになった。
と、そのとき。
「任務ゥ! 任務ゥウウウ!」
俺の鎹烏が窓から飛び込んでくる。
どうやら休暇も終わりらしい――。
* * *
それから俺はしばらく、立て続けに任務をこなした。
そうして蝶屋敷に戻ってくると……。
「まふゆちゃん、会いたかったわ~。ぎゅ~っ」
「あの、カナエさん。近いです。あと苦しいし……その、恥ずかしいです」
「や~ん、もう照れちゃって、まふゆはかわいいわね~」
玄関に入るやいなや、カナエに抱きしめられてしまう。
任務の合間でちょくちょく蝶屋敷には帰ってきていたのだが、彼女は薬の買いつけで屋敷を空けることも多く、最近は会えていなかったからなぁ。
「みんなも、ただいま帰りましたー」
「まふゆ、おかえり!」
「……おかえり」
「「「おかえりなさいませー」」」
そうほかのみんなともあいさつを交わす。
俺はあたりをキョロキョロと見まわして、首を傾げる。
「あれ? なんだか人が足りていないような?」
「不死川さんなら、とっくに悲鳴嶼さまのところに戻ったわよ」
「うふふ、玄弥くんったら『アイツはまだ帰ってこないのか』って何度も言ってたわ~」
「うぇっ!?」
「ここに来たばかりのころとは別人でしたよね。ぶっきらぼうで全然、こっちを見て話してくれないし。まぁ、ケンカ腰よりはずっとマシですけど」
「げ、玄弥の話はもういいですから!? わたしがいないと言ったのは、しのぶさんのことで!」
「しのぶは今、柱の仕事でお館さまの屋敷に呼ばれているのよ~」
「そうだったんですか?」
「もうすぐ帰ってくると思うんだけれど」
そんな話をしていると、ちょうど玄関のほうからガラガラと戸を開く音が聞こえてきた。
ウワサをすれば、だな。
「しのぶさん、おかえりなさい」
「あら、ただいま戻りました。まふゆも帰っていたのですね」
みんなで出迎える。
しのぶはそれから「ちょうどいいですね」と俺とカナヲへ視線を向けて言った。
「ふたりとも準備をしてください。これから柱として鬼の討伐に向かいます。あなたたちもついて来て、手伝ってください」
「「わかりました」」
いつもの和やかな雰囲気から一転、みんなが隊士としての顔つきに変わる。
だが、柱が出張るほどの強敵なのか? そんな疑問に答えるようにしのぶは言った。
「十二鬼月が出たそうです」
「……!」
「目的地は――”
言われて、俺は前世の記憶が呼び覚まされるのを感じた。
そうか、今はもうそんな時期だったのか。
相手は『下弦の伍』――蜘蛛鬼一家だ!