TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
第65話『夢にまで見た世界』
「な、なんじゃこの生きものはぁーっ!?」
そんな伊之助の叫び声が聞こえてきた。
それから彼はその巨大な生きもの……ではなく汽車――無限列車に突撃をしていた。
は、恥ずかしい。
すこし離れた位置からその様子を見ていた俺はマフラーを引き上げて顔を隠した。
「他人のフリ、他人のフリ」
やがて炭治郎たちはやってきた駅員に警官を呼ばれそうになり、逃げていった。
まぁ、そんな堂々と刀を持ってたらね……。
「わたしも気をつけないと」
炭治郎たちは刀を背中に隠すことにしたようだが、俺の長い刀はそうもいかない。
だから普通に袋に包んでいた。
それと今の俺は限界まで変装も行っている。
可能なかぎり一般客に紛れるため、隊服ではなく和服を纏い、髪色も染め粉で黒にしていた。
「炭治郎たちと鉢合わせしないうちに、わたしも乗り込もうかな」
切符を片手に客車へと近づいて行く。
と、俺の前に乗り込もうとした人が、靴を脱いでしまっていた。
そのまま、駅のホームに靴を置いたまま客車の奥へと行こうとしてしまう。
俺は慌てて声をかけた。
「おじさん、おじさん」
「ん? やぁ、なにかなお嬢さん」
「靴、忘れていますよ」
「……?」
あぁそうか、と理解する。
どうやら、この年配の男性は誤解しているようだ。
「汽車は建物ではなく乗りものですから。靴は履いたままでいいんです」
「そうだったのかい! やや、これは恥ずかしいところを見せてしまった」
「あはは、わかります。こんなに大きいと乗りものって感じしないですもんね」
「けれど、なるほど。言われてみると、ここで靴を脱いだら降りるときに困ってしまうね」
「そうですね」
建物に入ったら靴を脱ぐ。
そんな感覚が当たり前だったからこその勘違い。
実際、今の時代はまだデパートなんかも土足禁止だし。
彼のような人は多く……駅で一番多い忘れものは靴だった、なんて話もあるとか。
「お嬢さんはおひとりかな? 親御さんはいないのかい?」
「はい。じつはその両親に会いに行くところで」
もちろん、ウソだ。
ただ、ちょうど親の話が出ていたし理由としてちょうどよかった。
「そうだったのかい。しかし、ひとりとは心配だな。私でよければ一緒にいようか」
「いいんですか?」
「向こうで靴を買いなおさずに済んだ礼だ。これくらいはお安いものさ。……と言いつつ、じつは勝手がわからなくてね。ひとりで心細いのは私のほうさ」
「そういうことでしたら、遠慮なく」
向かいの席に座らせてもらう。
俺としても、ちょうどいいカモフラージュになりそうだ。
年配の男性と話していると、「ポォーッ!」と汽笛が鳴った。
発車の合図だ。
シュッシュと汽車が動き出す。
と、すこしして騒がしい声が聞こえてきた。
「うまい! うまい! うまい!」
「煉獄さん!」
俺がいるのはとなりの車両なのだが、その大きな声はここまで届いていた。
彼こそが現在の炎柱――”
この無限列車には鬼が乗っている。
いや、憑いている。
柱である杏寿郎がここにいるのもそれを狩るためだ。
炭治郎たちはそんな彼と……『日の呼吸』について聞くためであったり、ほかにもいくつかの要因が重なって合流していた。
「すまない。お嬢さん、私はすこし疲れたようだ。眠らせ、も、ら……」
目の前でつい今しがたまで言葉を交わしていた年配の男性がまぶたを下ろす。
すでに周囲の乗客もみんな眠りに落ちていた。
「っ……、来たか」
俺にもその唐突な眠気が襲いかかってきた。
今はまだ、俺の存在を悟られるわけにはいかない。
その睡魔に抵抗せず、ゆっくりとまぶたを下ろしていく。
鬼殺隊士ならばすぐに気づける。
これは――血鬼術だ。
この無限列車に巣くう鬼の名は”
催眠術の要領で相手を眠らせたり、夢を操ることのできる非常にタチの悪い鬼だ。
鬼殺隊士ならばこの眠気に逆らって起きていられるだろう。
なぜなら、彼らの多くは強い心を持っているから。
「いや、逆か」
強い心の持ち主こそが、鬼殺隊士になれるほど強くなれる。
心は強さの原動力だから。
一般人なら逆らえずにそのまま眠ってしまうだろう。
だが優秀な鬼殺隊士なら術をかけられた時点で気づき、抵抗できる。
だからこそ、魘夢は策を打った。
気づかせずに血鬼術をかけるため、炭治郎たちに対しては切符と車掌を用いた。
「今のわたしは一般人、だもんね」
だから俺は、目立たないようわざわざ変装をしてきたのだ。
切符を用いてではなく、
「みんな、信じてるからね」
炭治郎たちに任せて、俺は夢の世界へと落ちていく。
もしかしたら、寝ている間に自分が死んでいるかもしれない。
そんな恐怖に自ら足を踏み入れる。
俺の命ひとつで上弦の鬼を狩れるなら、それは安いものだと思った――。
* * *
「ここは……」
あたりを見渡す。
そこは雪山だった。
ぽつぽつと家は見えるものの、とても栄えてなどいない。
俺はこの場所を知っている。
「――わたしの故郷だ」
熱を操る鬼によって、溶岩に飲み込まれ……燃えてなくなったはずの村。
それが俺の視界に広がっていた――。