TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第66話『凡人の刃は天才に届くか?』

 

 夢の中で、俺は故郷の村に立っていた。

 冷たい雪が頬へと落ちてくる。

 

 自分の身体を見下ろすと、腰に愛刀の柄が見えた。

 それで今の自分が、戦国時代で『白の鬼狩り』と呼ばれていたころの姿だと気づく。

 

「大丈夫そうだな」

 

 『下弦の壱』の血鬼術だからとすこし心配していたが、問題ないようだ。

 明晰夢のように、これが夢だと自覚できている。

 

 精神に干渉してくる鬼は戦国時代にもいた。

 そして、それらのことごとくを屠ってきた俺にとってはこの手の攻撃も慣れたものだ。

 

「はぁ~」

 

 白い息を吐きながら雪の積もった道を進む。

 と、視線の先に見覚えのある家が見えてくる。

 

「わたしの家……」

 

 そこの戸からだれかが姿を現す。

 それは……。

 

「おかえり、まふゆ。ご飯できてるわよ」

 

「……お母さん」

 

 覚悟はしていたはずだった。

 だが、自分の心が揺れたのがわかった。

 

 ずっとずっと、会いたくて仕方がなかった相手がそこにいた。

 そのとき、ジュゥウウウと突然あたりが熱くなる。

 

 雪が溶け、木がひとりでに燃え出す。

 振り返るとそこにはヤツが立っていた。

 

「かっかっかっ! 絶景かな、絶景かな!」

 

「そうか、そうなるのか」

 

 俺は母を庇うように、その鬼と向き合った。

 これは俺の……わたしの願望だ。

 

 もしも、あのとき……あの瞬間、俺に力があれば。

 日輪刀があれば。

 

 そうすればみんなを守れたのに。

 だれも殺させないことができたのに。

 

「我ながらバカな願いだ」

 

 そんなこと絶対に叶わないのに。

 それでも、そう思わずにいられない……そんな夢。

 

 俺は刀の柄に手をかける。

 チャキンと鯉口を切ると同時に、地面を蹴った。

 

 

「氷の呼吸・伍ノ型――”居合い・雪景色(ゆきげしき)”」

 

 

 俺の刃は熱鬼の頸を両断した。

 灰となって消えていく。

 

 夢でなければありえないことだ。

 あの鬼はこんなにも弱くなかった……いや、俺はこんなにも強くない。

 

 強力な鬼の頸を、こんなにも簡単に斬れるような腕力はない。

 母が俺を抱きしめてくる。

 

「守ってくれてありがとうね、まふゆ。疲れたでしょう、ほらお家へお入り」

 

「……うん」

 

 まったく、ままならないものだな。

 自分は弱い――それを受け入れたつもりでも、夢に現れるということは願望を捨てきれていないということだろう。

 

 家に入ると、そこにはすでにべつの人物がいた。

 お味噌汁をよそってくれていた、それは……。

 

「……お師匠さま」

 

「よく帰ってきたね、まふゆ」

 

 そう縁壱はやさしく笑った。

 それから俺たちは、ごはんとお味噌汁と、お漬物を――もっとも俺の記憶に残っているメニューを、3人で一緒に食べた。

 

 あぁ、ほんとイヤになる。

 夢だと理解していても、ずっとこの世界に浸っていたいと思ってしまうくらい幸せな光景だ。

 

 ふたりが俺を抱きしめてくれる。

 涙が溢れそうなくらいに温かかった。

 

「でも、そろそろ現実に帰らないと」

 

 鬼狩りとしての感覚が……勘の鋭さが、目覚めるべきときが近いことを告げてくる。

 今の俺の心には溶けない氷の冷たさがある。

 

 それは鬼への怒りだ、憎悪だ。

 俺は温かいふたりの手を押しのけ、立ち上がる。

 

「お師匠さま、わたしと試合をしてくれませんか?」

 

「あぁ、構わないよ」

 

 家の外へと出て、俺たちは対峙する。

 刀を抜いて、その切っ先を相手へと向けあう。

 

「どうしてでしょうね、お師匠さま」

 

 俺は問いかけるように言う。

 縁壱は静かに刀を構えていた。

 

「過去にはやり直したいことがイヤになるくらいたくさんあるのに、ひとつも変えられない。逆に、変えたくない未来にかぎってわたしがどれだけがんばっても、勝手に変わっていってしまう」

 

 向こうのほうがリーチが長い。

 カウンター狙いでもないかぎり、こちらから近づく必要がある。

 

 俺は刀を構えながら、じりじりと距離を詰めていく。

 勝負は一瞬で決まる――そんな直感があった。

 

「師匠、いきます」

 

「あぁ、かかってきなさい」

 

 そのとき、ぶぉおん! と強い風が吹いた。

 雪が激しく舞い、一瞬視界を白く染め上げる。

 

 と同時に俺はトンっと地面を蹴っていた。

 一瞬で縁壱の側面へと回り込む。

 

 忍法『雪隠れ』と、肆ノ型『霜走(しもばし)り』の合わせ技だ。

 そして、そこから最速の突きを繰り出す。

 

 

「氷の呼吸・壱ノ型――”雪火(せっか)”ぁあああッ!」

 

 

 どの呼吸でも例外はない。

 すべての基本となるのが『壱ノ型』だ。

 

 ほかの型ではなく、それを選んだのは本能だった。

 同時にその刀身は今までにないくらい長く、リーチが伸びていた。

 

 氷の刃を作り出す技――『氷結刀』。

 これらが今の俺にできるありったけだった。

 

 縁壱はそんな俺の全力に超人的な反応を見せ、こちらに刀を振り抜いていた。

 いや、あるいは最初から見失ってなどいなかったのかも。

 

「……やっぱり、お師匠さま強すぎですよ」

 

 すれちがった姿勢のまま俺はポツリと呟くように言った。

 夢の中でも縁壱は最強だった。

 

 あるいは、そうあってほしいと俺が願っているからこその結果かもしれないけれど。

 だってこれは俺の夢だから。

 

 だから、きっと。

 聞こえてきたその言葉も俺の妄想にちがいない。

 

「まふゆ、本当に強くなったね」

 

「いえ、あのとき見せてもらったお師匠さまの剣技にはいまだ、ちっとも届きません」

 

「いいや」

 

「……え?」

 

 俺が振り返ったのに合わせて、縁壱もゆっくりと振り返る。

 彼の頬には、ほんのわずかにだが赤い筋が――傷がついていた。

 

「まふゆ、君の刃は私に届いているよ」

 

「――っ!」

 

「目覚めなさい、まふゆ。そして、君の為すべきことをしなさい」

 

 次の瞬間、縁壱の剣技があまりに鋭すぎてピッタリと張り付いていた断面が――俺の首が遅れて分かたれ、ポロリと頭が落ちた。

 やさしく微笑む縁壱と母の姿を目に焼きつけ……。

 

   *  *  *

 

 ――俺はカッと目を開いた。

 

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