TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
俺はカッと目を開いた。
眼球だけを動かしてあたりの状況を確認する。
そこは横転した客車の中だった。
あたり一面が赤黒い肉で覆われていた。
「……まだ生きてる」
あたりの乗客たちも、あの年配の男性も無事なようだ。
どうやらこの肉がクッションのようになってくれたらしい。
それも灰になって消えつつあった。
ということは……。
「そっか、無事に
すこしだけ、先ほどまで見ていた夢に思いを馳せる。
鬼に礼を言うつもりはない。
けれど、忘れていた母の顔をすこしだけ思い出せた。
それにちょっとだけ師匠に近づけた気がして、自分の力に自信が持てた。
俺は俺にできることをすればいい。
いや、俺にしかできないことがある――と。
「そう、やらなくちゃいけないことがある」
俺にとってはここからが本番だ。
ゆっくりと身体を起こす。
そのまま自分の気配を限界まで消し、動き出した。
するりと窓から客車を抜け出し、車両の陰を音もなく駆ける。
硬いもの同士をぶつけ合うような音が聞こえてくる。
同時に夜の闇に火花が舞っているのが見えた。
「――鬼になれ! 杏寿郎!」
そこにあったのは対峙するふたつの人影だった。
両者が一瞬の間で、無数に刀と拳をぶつけ合わせている。
片方は炎のような髪色と意匠を施された羽織を纏う、煉獄杏寿郎。
そしてもう片方は全身に罪人のごとき刺青の入った、鬼。
彼こそが『上弦の参』。
その鍛え上げられた拳と技を武器に戦う『拳鬼』――”
「――っ」
遠目から見ただけでも、すさまじい威圧感を覚えた。
戦況は……杏寿郎の圧倒的不利だった。
上弦の鬼は、柱3人分の強さだともいわれている。
そんな相手と彼はたったひとりで戦っているのだ。
いや、それだけじゃない。
なにせ相手は鬼なのだ。
杏寿郎がひときわ鋭い一撃を放ち――両者に距離ができる。
猗窩座はやさしいとさえ思える声音で言った。
「鬼になれ、杏寿郎。お前がオレに食らわせたすばらしい斬撃も、すべて完治してしまった」
猗窩座の身体からすべての傷が消えていた。
それに、彼には一切の疲れも見られない。
「だが、お前はどうだ。潰れた左目、砕けたあばら骨、傷ついた内臓……」
対する杏寿郎はボロボロで、呼吸も「ぜぇ、ぜぇ」と荒かった。
これが鬼と人間の差だ。
「鬼ならばそんなもの、かすり傷だ」
そんなふたりの戦いを炭治郎と伊之助も遠目から見ていた。
しかし、負傷のせいで動けない。
いや、レベルがちがいすぎて加勢することができずにいる。
今、そこへ行けば戦いのジャマになってしまうとわかっているのだ。
「……っ」
俺もまた、ただ杏寿郎が傷ついていくのを黙って見ていた。
そのときを待ち続ける。
心は「今すぐに飛び出して彼に加勢したいくてたまらない」と叫んでいた。
だが、正面からあれほどの強敵を討ち果たせる力は俺にはない。
そんな戦いかたができる夢のような肉体を俺は持っていない。
だから、心を冷たく固く……氷のようにして堪える。
自分にできる最大の一撃を放つために。
確実にあの鬼を屠るために。
「――炎の呼吸・奥義」
杏寿郎が構えを変える。
まるであたり一帯が燃え盛っているかのような錯覚がした。
「すばらしい闘気だ……! やはりお前は鬼になれ、杏寿郎!」
猗窩座が歓喜に身体を声を震わせ、拳を構えた。
彼は本当に闘いが好きなのだろう。
俺には一切、わからない感情だ。
最初から俺にとって、戦いとは――復讐のための手段だったから。
「玖ノ型――”
「
猗窩座の血鬼術はこの上なくシンプルだ。
その根本は、ただただ純粋に自身の肉体を強化するものだ。
ほかの鬼のようにリソースを特異性へと割り振ったりはせず、もとよりすぐれた鬼の肉体をより高みへと至らせるためだけに使っている。
それゆえの圧倒的な戦闘力。
両者が同時に地面を蹴った。
力と力を正面からぶつけ合う、崇高な闘い。
だが、そんなもの――クソ食らえだ!
猗窩座の拳と杏寿郎の刃が交わる、その寸前。
「氷の呼吸・参ノ型――”
俺は刀を振り下ろしていた。
一拍遅れて、ギョロリと猗窩座の目がこちらを見る。彼のすぐ真横に俺は立っていた。
「――は?」
その顔は「理解できない」と語っていた。
なぜ、そこに俺がいるのかわからない、と。
彼には闘気を察知する能力が――『羅針』があったはずなのに。
だからこそ、俺もこのタイミングしかなかった。
「バカな……女ァ!? キサマ、いったいいつからそこにいた!? いや、なんだその……あまりにも
あぁ、そうだ――俺は弱い。
そして、より弱く見られるために何年も努力してきた。
それでも、普段の猗窩座なら気づいていただろう。
しかし、今だけはべつ。
あたりはすさまじい杏寿郎の闘気――炎の錯覚で満ちていたから。
俺はそこに自分の気配を紛れこませたのだ。
そして――運命が大きく変わる。