TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第7話『ノーパンな日々』

 

 縁壱と出会ってから数ヶ月が経った。

 冬が終わり、春が明け――夏が訪れる。

 

 その間に、俺と同じように何人かが縁壱に師事しては消えていった。

 剣の腕前がすぐれた者ほど、いなくなるのも早かった。

 

 聞けば、これまでも縁壱とともに旅をした剣士はたくさんいたという。

 だが、みんな挫折して消えていった、と。

 

 なぜこれほど師として優秀なのに俺以外の弟子がいないのかと思っていたが……。

 どうやら、そういうことだったらしい。

 

「まぁ、その気持ちもすこしはわかりますけれど」

 

 だって、縁壱が刀を振るうたびに才能の差を突きつけられるから。

 ただ俺の場合……そもそも自分の才能に微塵も期待なんてしてなかったからなぁ。

 

 俺が前世で握ったことのある刃物なんて包丁やハサミくらい。

 そしてなにより、この頼りない体躯。

 

 むしろ、自信を持てというほうがムリな話だ。

 ただ、あの『熱』の鬼への恨みだけはいつまでも消えず……だから、鍛錬を続けられた。

 

「心が乱れているよ」

 

「はい。……スゥゥゥ、スゥゥゥ」

 

 指摘され、呼吸を整える。

 縁壱が鬼を斬るときの姿をイメージする。彼はつねに冷静だった。

 

 冷たく、冷たく……心を氷のようにするのだ。

 やがて、体温とともに感情もクールダウンしてくる。

 

「スゥゥゥ、スゥゥゥ」

 

 縁壱はつねに『氷の呼吸』をし続けることを求めてきた。

 そのために俺は肺へと負荷をかけ、鍛える必要があった。

 

 彼は――いわゆる『全集中・常中』をやれと言っているのだ。

 まぁ、彼はそのような名前では呼ばなかったが。

 

 きっと、彼にとっては名前をつける必要がないほどの当たり前の技術だったのだろう。

 彼が普通に(・・・)息を吸うだけで、それは『日の呼吸』となるのだから。

 

「スゥゥゥ、スゥゥゥ」

 

 幸い、俺はこれだけは……『常中』の鍛錬だけは得意だった。

 というか、できなければとっくに死んでいるし。

 

 あのとき、丸1日以上『氷の呼吸』を続けた影響だろうか。

 俺の身体は筋力こそないが、肺活量だけは多少マシだった。

 

「ところお師匠さま……ひとつ、よいでしょうか?」

 

「なんだい」

 

「おまたがスースーします」

 

 俺はぺらっと着物の前をはだけさせて、言った。

 

 『氷の呼吸』を行うと夏でも……いや、夏だからこそか。

 生み出される冷気でスースーするのだ。

 

 とくに下半身が。

 だって……。

 

 

 ――俺はノーパンだから!

 

 

 まぁ、時代的に仕方のないことなのだけれど。

 だって、そもそも服が非常に高価だし。

 

「お師匠さま、なにかよい方法はありませんか? ……お師匠さま?」

 

 縁壱が俺からスッと目を逸らしていた。

 

「あれ? もしかしてお師匠さま……今、動揺していましたか?」

 

 あるいは困惑してる?

 縁壱は無言でそっと俺の着物を直した。

 

 そんな反応を見て、俺はひとつ作戦を思いついた。

 もしかして、これを利用したら縁壱から1本取れるのではないか? と。

 

 だが、結果は惨敗だった。

 悔しい。

 

 どうやら彼に、同じ手は2度と通用しないようだった。

 あと、多分……油断したとしても、俺より縁壱のほうが強かったと思う――。

 

   *  *  *

 

 そうこうしているうちに、また数か月が過ぎ……年が明けていた。

 気づけば、俺がすべてを失って縁壱と出会ってから1年以上が経過していた。

 

「スゥゥゥ……」

 

 細く、鋭く、冷たく息を吐く。

 俺はトンっと軽い音を鳴らして、地面を蹴る。

 

 夜の闇に――白刃が煌めいた。

 

「なんだ? 白い……ガキ?」

 

 鬼が振り返るが、すでに俺が振るう刃はその首を捉えていた。

 呟くように、俺は命を刈り取るその技の名を告げた。

 

 

「氷の呼吸・弐ノ型――”白兎(しろうさぎ)”」

 

 

 まるで雪原を跳ねるうさぎのごとき軽やかな跳躍とともに、放たれた一閃。

 ストン、と鬼の頸が落ちた。

 

「なんだ、これはぁ!? 斬られたところが、まるで凍るみたいに痛――」

 

 最後まで言い切ることなく、鬼の身体は崩れて消え去った。

 残心――ほかに敵がいないことをきちんと確認してから、チンと納刀する。

 

 てってって、と縁壱のもとへと戻る。

 すでに彼はほかの鬼すべてを狩り終えていた。

 

「お師匠さま、こちらも終わりました」

 

「そうかい、ご苦労さま」

 

「まったく。年明け早々、こんなにも大量の鬼が出るだなんて」

 

 イヤになる。

 鬼には盆も正月もないんだろうか?

 

 ……いや。

 時代的に、盆はまだ本当にないんだった。

 

「けれど、珍しいですね。こんなに大きな群れだなんて」

 

 俺は消えゆく鬼たちを眺めながら呟いた。

 基本的に鬼は単独で行動する。鬼は共食いもするからだ。

 

 だが、それでも例外はある。

 今回は何十体という大きな群れだった。

 

 ……うん。

 何十体もいたはずなんだけどね。

 

「お師匠さま、わたしが1体斬るうちに、いったいどれだけの鬼を斬ったんですか」

 

「どれだけかな。けれど、まふゆもずいぶんと動きが良くなってきたよ」

 

「……! あ、ありがとうございます!」

 

 わーい、褒められた!

 そうよろこんでいると、縁壱はすこし考えてから問うてくる。

 

「まふゆは、今年でいくつになったんだったかな?」

 

 この時代は数え年だ。

 年が変わると、みんなが一斉に歳を取る。

 

 まぁ、まだ旧暦を使っているわけだし納得だ。

 年によっては13ヶ月……うるう月があるくらいだし、生まれた日も大雑把にしかわからない。

 

「今年で14になりました、お師匠さま」

 

 フワリと回って見せる。

 処女雪のような白い髪に肌、瞳。

 

 この1年で髪は伸びたが、身長はほとんど変わっていなかった。

 伸び盛りのはずなのに。

 

 腰には縁壱から借りている日輪刀。

 といっても普通の刀じゃ俺には長すぎるから、脇差だけれど。

 

「そうか。お前もそろそろ成人であろう。祝いの品をやろう」

 

「でも、お師匠さま……わたしはまだ初潮が来ておりません」

 

「……」

 

 あっ、また縁壱が動揺した気がする。

 彼は無言で歩き出した。

 

「お師匠さまー? お師匠さまってばー!」

 

「あまり、年ごろのおなごがそういうことをおおやけの場で言っちゃあいけないよ」

 

 縁壱はそうやさしく諭すように言った。

 この時代、14歳といえば十分に大人だ。

 

 というより、そもそも「子ども」という概念がない。

 それが生まれたのは……江戸時代になってからだっけ?

 

 そんなやりとりをしながら俺たちは道を進み……。

 

   *  *  *

 

 

「――ここが、刀鍛冶の里」

 

 

 俺たちは目的地へと辿りついていた。

 あちこちからカンカンと鉄を叩く音が聞こえていた――。

 

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